[連載・片目のサラブレッド福ちゃんのPERFECT DAYS]馬体はバランス(シーズン1-61)

ダートムーアの出産を間近に控え、母子共に安産を祈りつつ、生まれた後の種付けについてもそろそろ決めなければいけません。出産後、数週間後には発情があり、種付けに向かうことになるからです。例年であれば、この時期になっても、どの種牡馬に行こうか迷いがあるのですが、今年は心はほとんど決まっています。出てゆくばかりで予算が限られていることもあって(笑)、例年ほど選択肢が多くないという台所事情も関係しているかもしれません。

ダートムーア→パールシークレット

スパツィアーレ→マスタリー

今年はこの配合を最優先にしたいと思います。これまでの連載を覚えている方は、あれっ逆じゃないの? と驚かれたかもしれません。おっしゃるとおり、当初はダートムーアにマスタリー、スパツィアーレにパールシークレットを配合するつもりでした。

しかし、パールシークレットが日本に輸入され、その姿を見るにつけ、僕のイメージと少し違い、体高が低くて、幅の厚い、やや詰まったように映るパワータイプの馬体であることが分かってきました。パールシークレットをスパツィアーレに配合すると、重心の低い、ずんぐりむっくりのパワータイプが生まれてくる気がしてなりません。とてつもないパワーはあっても、スピードに欠ける馬体構造になりそうです。

それであれば、背が高くてやや馬体が薄いダートムーアに配合した方が、スピードとパワーに優れた、バランスの良い好馬体の産駒が誕生するはずです。血統的にはNorthern Dancerがわずかにインクロスするのみで、5代血統表内は完全なアウトクロスになります。馬体的にも血統的にもバランスの取れた配合ですね。

マスタリーをスパツィアーレに配合するのは逆の理由で、スパツィアーレのような馬体の幅が分厚く、いかにもパワータイプの繁殖牝馬に、体高もスッと高く(マスタリーは167cm)、馬体の幅が薄いスピードタイプの種牡馬は合うはずです。牡馬が出ても、牝馬が出ても、重すぎてスピード不足に陥ったり、薄すぎてパワー不足になったりすることはなさそうです。

血統的には、Seattle Slewの5×5のインクロスになってしまいますが、それほど強いものではありませんので、何とか受胎してくれると考えます。もし相性が悪くて受胎しないことがあれば、昨年受胎したホットロッドチャーリーに切り替えても良いと思います。同じことはダートムーアにも当てはまり、パールシークレットと相性が悪くて受胎しなければ、マスタリーに切り替えるだけです。

ここで馬体論を詳しく語るつもりはありませんが、生産という面から馬体を考えているうちに、馬体はバランスだということが分かってきました。体高と体長、そして馬体の幅のバランス。何を今さらと言われそうですが、それが真実です。理想的なのは、体高が高く、それに合わせて体長も長く、馬体の幅は薄すぎず厚すぎず、牡馬であれば500kg前後、牝馬であれば480kg前後の馬体重がある馬が理想です。

たとえば、馬体重は500kgあるけれど、体高はそれほど高くなく、馬体の幅が分厚く、やたらと横に大きい馬体の馬は、パワーはあってもスピードに欠けます。逆に体高は高くても、前から見ると薄くてヒョロッとした馬体の馬はスピードこそあれパワーに欠けます。もちろん適材適所であり、深い砂で行われるダート競馬であれば前者のタイプに向きますし、絶好の芝状態の凸凹のないフラットな馬場で行われるレースであれば後者が有利です。

ただし、上のクラスに行けば行くほど、絶対的なスピードやパワーに欠ける馬はレースについて行けなくなります。欲を言えば、馬体のバランスが優れていて、スピードとパワーを高い次元で備えていることが理想なのです。

ダートムーア

そう考えたとき、ダートムーアやスパツィアーレの産駒たちがこれまでなぜ走らなかったかが解けてきました。ダートムーアは背がスラリと高く、馬体の幅は平均的な体型です。馬体全体の大きさも平均より少し上です。自身はバランスが良かったからこそ、中央競馬で4勝を挙げ、エンプレス杯で3着したように、競走馬として活躍しました。ところが、産駒は牝馬が多く、総体的に牝馬は馬体が薄いため、どうしてもパワー不足に陥ってしまいます。グリムスポンドもフィングルブリッジもグレイウェザーズもハイウィルヘーズも馬体が薄くて、ダート競馬ではパワーで劣ってしまうのです。牡馬として出た初仔のラサーサは、キャリア4戦で引退(おそらく故障)してしまったのでどこまで能力があったのか分かりませんが、480~500kgの馬体重で走っていたように、体高もあって馬体の幅もあるバランスの良い馬体だったと推測します。オークハンプトンも490kg台の馬体重で南関東で5勝を挙げ、4000万円近くを稼いでいます。つまり、サンデーサイレンス系の種牡馬を配合して、牡馬に出れば走るのですが、牝馬に出てしまうと馬体が薄すぎて走らないのです。

これを防ぐためには、馬体の幅を出してくれる種牡馬を配合するべきです。福ちゃんのお姉さんの父ニューイヤーズデイは体高が159cmと低く、横幅は十分にある体型だけに、ダートムーアにはピッタリの配合です。福ちゃんのお姉さんは母ダートムーアに似てスラリと背が高いタイプですが、父がニューイヤーズデイであれば馬体の幅が薄すぎることはないはずです。ニューイヤーズデイ産駒の牝馬が走っている理由のひとつに、産駒の馬体に幅が出るといニューイヤーズデイの特徴があるからだと思います。ダートムーア×ニューイヤーズデイという配合であれば、たとえ牝馬であっても460kg以上の馬体で走ることができるのではないでしょうか。

そして福ちゃんは、父にタイセイレジェンドを迎えたことで馬体に幅とボリュームが出て、パワータイプの馬体です。パワータイプと言っても、全くスピードのない母系ではありませんので、ダート競馬を走るにはちょうど良いバランスのパワーとスピードを備え、500kgに近い馬体で走ることができそうです。

スパツィアーレは、ダートムーアとは対照的に、馬体の幅が分厚い、典型的なパワータイプの馬体です。牡馬顔負けのパワフルさを有していますが、反面スピードに欠けるところがあったはずです。ラブリーデイ産駒の初仔は、牝馬であったにもかかわらず、520kg以上の馬体で走ったように、母に輪をかけたような分厚い馬体でした。スピード不足で惜しくも勝ち上がれませんでしたが、パワーを心配する必要のない繁殖牝馬であることが伝わってきます。

スパツィアーレ

2番仔のルーラーシップ産駒はこちらも牝馬にもかかわらず、500kg近い、筋肉ムチムチの好馬体を誇りました。こちらも典型的なパワータイプの馬体であり、芝ではスピード不足、ダートでは砂をかぶって気の難しい面を見せて、勝ち上がれませんでした。

牝馬が生まれてきても、これだけ幅の厚い馬体になってしまうということは、牡馬であれば重苦しく出てしまう可能性が高いですね。そう考えたとき、背が高くて、馬体の幅の薄い種牡馬を配合するとバランスが良くなるはずです。ルーラーシップは体高は167cmと高い方なのですが、馬体の幅も比較的厚いタイプです。理想的なのはキタサンブラックやイクイノックス、リアルスティールですが、サンデーサイレンスのインクロスになってしまうだけではなく、種付け料が高すぎる問題があります。サンデーサイレンスを持たずに種付け料も手頃で、背が高くて馬体の幅が薄い種牡馬として挙がるのは、昨年種付けしたホットロッドチャーリーと今年予定のマスタリー。スパツィアーレ×ホットロッドチャーリーまたはスパツィアーレ×マスタリーの組み合わせは、ある程度の体高があり、馬体の幅も十分で、スピードとパワーのバランスの良い産駒が、性別を問わずに誕生するはずです。

このようにして、繁殖牝馬の血統と馬体を見て、できるだけインクロスの生じにくい血統の種牡馬の中から、母の馬体的弱点を補いつつ、馬体全体のバランスの取れそうな馬体構造を持つ種牡馬を選ぶようになりました。もちろん、馬体の柔らかさや前躯・トモの容量など、種牡馬との組み合わせの中で補強したり、伸ばしたりすることができる要素はその他にもたくさんあるはずですが、まずいちばん分かりやすい物理的な大きさといった馬体構造から設計するのです。設計通りにならないことの方が多いのかもしれませんが、僕の見る限り、ほとんどの産駒たちは設計図に近い馬体構造になっているように思えます。福ちゃんのお姉さん、福ちゃん、福ちゃんの弟や妹、そしてスパツィアーレの子どもたちの馬体を観察しながら、さらなる研究を深めていきたいと思います。

(次回へ続く→)

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