[連載・クワイトファインプロジェクト]第13回 「華麗なる一族」に復活の時は来るのか

種牡馬クワイトファインですが、お陰様で、前々回のコラムでご紹介しましたガレットデロワ号に引き続き、イットーイチバン号、ママテイオーノユメ号も受胎が確認でき、結果今年は4頭の牝馬が受胎したことになりました。種付けしたのも4頭だけですので、受胎率100%ということになります。ありがたいことです。

 とりわけ、イットーイチバンは、昨年度も種付けオファーをいただきましたが残念ながら不受胎というなかで、今年は背水の陣でしたが、なんとか止まってくれました。

この馬も、ガレットデロワに負けず劣らぬ超良血馬です。父ディープインパクト、母父ブライアンズタイム、母母が「華麗なる一族」安田記念馬ダイイチルビーですから、オールドファンの方々にはたまらない血統かと思います。もちろん、私も現役時代のダイイチルビーの活躍を知っていますから、この配合には大いなる魅力を感じます。

ですが、若い競馬ファンの方々にとっては、華麗なる一族と聞かされても、今一つピンと来ないところもあるかも知れません。例えば、日本競馬への貢献度を考えると、最近だと大阪杯勝ち馬レイパパレの祖クレイグダーロッチ(1922)系や、BCディスタフ勝ち馬マルシュロレーヌの祖シュリリー(1925)系などはほぼ1世紀にわたって日本競馬で生き続け今なお活躍馬を輩出しています。それに対し、ダイイチルビーの祖キューピット(1957)系は短期間で次々と活躍馬を輩出したものの、2004年JBCスプリント勝ち馬マイネルセレクトを最後に重賞戦線で活躍する馬は途絶えてしまっている状況です。

実は、この血統には私個人としても若干の思い入れがあります。キューピットの母はマイリー(1953)という馬で、キューピットをお腹に宿した状態で輸入されました。いわゆる持ち込み馬です。キューピットの子孫たちが次々を活躍を見せるなか、マイリーが日本で産んだ産駒のテツノアークからも、母父がトウカイテイオーであるヴィーヴァヴォドカなどの活躍馬を輩出しました。個人的な話で恐縮ですが、私が馬主として初めて持った馬が、このテツノアークの血統なのです。

 キューピットの血統からは、ヤマピット、イットー、ハギノトップレディ、ハギノカムイオーなど1970年代から90年代にかけて数多くの名馬が誕生し、それが「華麗なる一族」と言われる所以なのですが、昨今の血の入れ替えが早い状況では安穏としていられるわけではありません。

イットーイチバンは、ダイイチルビーの孫になります。これまでの血統登録された産駒は4頭、初仔は中央で1勝しましたが、他の産駒は未勝利。これだけの良血牝馬に、エンパイアメーカー、キングズベストといった一流種牡馬との配合をしても簡単に走る仔が産まれるわけではないのですから、サラブレッドは本当に難しいです。

牝系をつなぐのは、ある意味サイヤーラインをつなぐより難しい面があると言えます。種牡馬は需要さえあれば1年間に100頭でも種付けできますが、牝馬が産めるのは年間1頭だけです。健康で仔出しが良ければ、以前このコラムでとりあげたタイキポーラやゴッドインチーフのように生涯で10頭以上の仔を産むことが出来ますが、病気やケガで早死にしてしまったり、あるいは受胎率が低かったりすれば産むことのできる頭数は少なくなりますし、産駒の成績が悪ければリリースされてしまいます。

正直なところ、サラブレッドの血をつなぐのは牡系、牝系問わず最後は「人」の判断であり、かつそれがどこかで「成功する」ことが条件になるのかなと思います。とくに、種牡馬となる馬は繫殖牝馬と比べ圧倒的に少なく、その中でも成功をおさめ圧倒的に多くの産駒を残せる馬はさらに一握りしかおらず、どうしても寡占されることになります。かと言って、例えば全部が全部ディープインパクトの仔だけになったら、人工動物とは言えれっきとした哺乳類であるサラブレッドの血統は続きません。だから(あくまで個人的な見解ですが)ある程度の多様な選択肢を「意図的に」残す必要があると思っています。

一方で牝系は、牡系と違い血の偏りが課題となることはありません。ロマンとかファン心理とかを別とすれば、牝系こそ優勝劣敗の原則によって残されたり淘汰されたりしていくものなのでしょう。だから、多くのファンの方々の願いは、ダイイチルビーの牝系をどんなに活力が衰えていっても残したい、ということではなく「もう一度ダイイチルビーに匹敵するような活躍馬が出てきてほしい」ということなのだと思います。

来年産まれてくる予定の「イットーイチバンの2023」が、そのような活躍馬となれるかどうかはわかりません。しかし、活力を秘めた血統であることは間違いなく、牝系が続いていればどこかで開花する可能性は常に秘めています。あとは人間がそれを待てるかどうか……。

例えば、今年のNHKマイルカップを最低人気ながら3着激走し、大万馬券を演出したカワキタレブリー号。この馬の4代母がシュアンス。シャコーグレイドやテンジンショウグンの母です。令和の時代にシュアンスの血統が続いていたことも驚きですが、G1で好走するレベルの馬が誕生したことも驚きです。しかも4代母ですから正直だいぶ遠いです。でも、牝系の活力は失われていなかったということ。

フォルキャップにせよ、カワキタレブリーにせよ、こういう馬が走るからこそ競馬は面白く、そして難しいのです。

あなたにおすすめの記事