[連載・クワイトファインプロジェクト] 第10回 1999年エルフィンステークス1,2着馬のライバル物語

前回コラムの最後に、今後のプロジェクトの存続について言及しましたところ、多くの方から心配や激励のメッセージをいただきました。改めて感謝申し上げます。

そのことについてもいずれ詳しくご説明をしないとならないとは思っていますが、まだ今年の種付けの結果も出ていない状況ですので、もう少し物事が落ち着いてから、改めて自分の心境を書くことにしたいと思います。今回は久しぶりに、直近の重賞レースから血統にまつわる話題をご紹介する、いつものスタイルに戻したいと思います。


NHKマイルカップも、血統表を眺めているとシンボリルドルフの母やシャコーグレイドの母が名を連ねる馬もいたりとそれなりに面白いですが、今回は5月5日に船橋で開催される交流G1(JPN1)かしわ記念に出走予定で、以前に取り上げたカジノフォンテンと並ぶ地方競馬現役最強馬の1頭ミューチャリー、その母母であるゴッドインチーフ号と同期生タイキポーラ号について書きたいと思います。

ゴッドインチーフは、1996年産まれ、名前からもわかる通りコマンダーインチーフ産駒です。新馬戦、2戦目のOPききょうSを連勝し、世代の牝馬クラシック候補の1頭となります。阪神3歳牝馬Sではスティンガーの3着、桜花賞ではプリモディーネの4着と善戦し、この年の牝馬3冠+エリザベス女王杯すべてに出走を果たしました。

20年以上たった今でも私が名前を憶えているくらいの活躍馬なので、当然ながら重賞の1つや2つは勝っていたかと思いきや、明け4歳(当時は数え年でしたので、今で言う明け3歳)のエルフィンSが、この馬のトータル27戦のキャリアにおける最後の勝利となり、重賞には手が届かずに終わりました。このエルフィンSで、ゴッドインチーフに8馬身(1.3秒)完敗した2着馬が、後にトウカイテイオー産駒で初のJRA重賞勝ち馬となるタイキポーラなのです。

OP特別なのでインターネット上に映像が残っているわけではないようですが、当時のデータを見ると通過順が勝ち馬が4-4、2着馬が5-5ですから、タイキポーラ(3番人気)としてはゴッドインチーフ(1番人気)をマークはしたものの直線で突き離され、力の違いを見せつけられた……というところでしょうか。

エルフィンSで賞金加算を果たせなかったタイキポーラは、次走チューリップ賞で再びゴッドインチーフと相まみえますが、きっちりと桜花賞出走権を獲得(2着)したライバルに対し、掲示板にも載れず6着と敗れました。桜花賞出走権を獲得できなかったタイキポーラはクラシック路線を諦め、自己条件から再出発を図ることになりました。

一方のゴッドインチーフは前述のように牝馬クラシック戦線に堂々と駒を進めますが、早熟だったのか2,000m以上は適性がなかったのかは解りませんが、桜花賞4着の後は上位入線を果たすことが出来ませんでした。

そして古馬になってからも、ライバル2頭は大きな怪我などもなく、休まずに走り続けました。タイキポーラは5歳(現4歳)の春にようやく2勝目を挙げますが、余談ですがその時の鞍上は当時笠松所属で、63歳の今も園田の現役ジョッキーとして活躍する川原正一騎手です。他にも、現役では小牧太騎手や松田大作騎手、福永祐一騎手も騎乗していますし、今は調教師として活躍している四位洋文騎手、高橋亮騎手、武幸四郎騎手、飯田祐史騎手などの懐かしい名前も見受けられます。

2勝めまで時間がかかったタイキポーラですが、そこから徐々に本格化し翌年3月にオープン昇級を果たします。そして7月のマーメイドSにて、2度目のコンビとなった安藤勝己騎手のエスコートにより、ファンが待ちに待ったであろうトウカイテイオー産駒としての初重賞タイトルを手にすることができました。

一方のゴッドインチーフは、おそらく賞金の関係で使いたいレースに出られない等の事情もあったのでしょうか、古馬になってからは1400m~1800mを中心に芝・ダート・重賞・OPを問わず出走を続けます。2000年9月のOPギャラクシーSでは、次走で交流G1のMC南部杯を勝つゴールドティアラに0.4秒差3着と善戦したこともありますが、勝利を手にすることはありませんでした。

時は流れ、明暗が分かれたライバル2頭が最後に同じレースで覇を競ったのが2001年10月の府中牝馬S。すでに競走馬としてのピークは過ぎていたであろうゴッドインチーフに対し、2走前に重賞タイトルを手にしたばかりのタイキポーラにとっては4歳春の借りを返すチャンスかと思われましたが、結果はゴッドインチーフ9着、タイキポーラ10着と、共に着外ですがゴッドインチーフが先着、クラシック出走馬として意地を見せた形となりました。

2頭とも程なく引退し、2002年から繫殖牝馬として新たな戦いのステージに移ります。ともに健康で子出しもよかったのでしょう、ゴッドインチーフは2014年まで11頭を、タイキポーラは2020年まで14頭を出産しました。ともに(今のところ)直仔での重賞勝ち馬はいませんが、孫の代で大成功を収めたゴッドインチーフと、令和の時代にラストクロップをデビューさせ今も余生を送るタイキポーラ。

現役時代も含め、どちらが勝ったとか負けたとかではなく、ともにそれぞれの馬生を精一杯生きて、その血を受け継ぐ子や孫たちの戦いを温かく見守っていることでしょう。

写真:かず

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