![[連載・クワイトファインプロジェクト]第54回 クワイトファイン産駒勝利記念によせて~1頭のサラブレッドに寄せる人の思い~](https://uma-furi.com/wp-content/uploads/2026/07/IMG_8739.jpeg)
地方競馬の古馬のC級戦と言えど、そこに居る馬たちには人々の思いが込められている。そこでは敗れた馬も、その結果はいわゆる「勝負の綾」でしかなく、10回走って10回同じ結果になるわけではない。
その馬は、2023年のセプテンバーセールで880万円で落札された。青森県産馬ではあるが北海道のセリに挑んだのだから牧場サイドも自信があったのだろう。落札後は新オーナーの元、中央競馬へ入厩し、華やかなデビュー戦を迎えるはずだった。
しかしながら、競馬の世界ではままあることだが、故障があったのか出走態勢が整わなかったのかは知る由もないが、その馬は結局未出走のまま美浦トレセンを去ることになる。
そして再起を期して名古屋競馬に移籍するものの、3歳戦でのデビューも叶わず、4歳の5月に初出走を果たし、4着と健闘した。
続く2戦目で、クワイエットエニフはその馬と対戦し、先着を果たしている。その馬は、逃げたクワイエットエニフを捉えられず、またしても4着であった。
そして、迎えた6月16日。
目の肥えた名古屋の競馬ファンの評価も割れた。920mならクワイエットエニフに距離適性がある一方、その馬も叩き3戦目でいよいよ実力を発揮するであろう。結局、1番人気を勝ち得たのはその馬であった。
大畑雅章騎手、今津博之調教師は、現役時代のクワイトファインを支えてくれた恩のある方々である。同い年の今津師とはトレセンやセリで会えば話をする仲である。とは言え、今回はライバルとしてクワイエットエニフの前に立ちはだかっている。適距離で、またとない条件で迎えたクワイエットエニフにとっても、後の中央復帰も視野に入れているであろうその馬にとっても、負けられない一戦だった。
結果は、皆様もご存知の通り。
「その馬」テルケンレンダーは9番枠からスタートでやや後手を踏んでいる。名古屋の920mで、外枠の馬がスタートで後手を踏んだら普通は勝ち目はない。しかし、大畑雅章騎手もエニフを楽に逃がしてはならないとばかり大外から脚を使って並びかけてきた。いつものエニフならばそこで下がっていっただろうが、馬体も戻りおそらく名古屋移籍後では最高の状態で臨んでいたエニフには余裕があった。木之前葵騎手の鞭に応えると直線でテルケンレンダーを振り切り、待望の1着ゴールを果たしたのである。

正直私もこのレース映像を何回も見ているが、見れば見るほど、出負けから大外回してのレース振りで最後までエニフに喰らいつき2着を死守したテルケンレンダーは強い馬だと思う。もう1頭の人気馬のマイヴィヴィアンは2走前にはエニフに先着していた馬だが、今回は追走すらできず最後の直線でなんとか掲示板を確保したくらいだから、この時期の名古屋C級の下位クラスでは良馬場57.7秒というのは早い時計の決着であったのだろう。おそらくキャリア3戦目のテルケンレンダーにとってはかなりタフなレースだったと思うのだが、負けてなお強し、を印象付ける競馬だった。
しかし、まともなら●●が勝っていた、という議論にはあまり意味がない。まともなら、という言葉には「デビュー時から順調なら」という意味も含まれると思うのだが、それを言えばクワイエットエニフだって、もう少しデビューが早ければどこかで掲示板を確保し、今も南関東に所属し続けていた可能性はある。脚部不安でデビューが遅れたのも彼女の運命なら、名古屋に移籍して4歳の春になってようやく馬体が完成しつつあるのも現実であり、私はまだよくなると思っている。さすがにオープン(A級)に行くとまでは思わないが、ここからの上積みしだいではあと2~3勝はしてもおかしくないと思っている。そのくらい、この馬は今でも全然完成はしていない。父の戦績を考えれば古馬になっても調子を崩さずに走れるタイプなのではないか。
そして、テルケンレンダーにせよ、前走で完敗した細川オーナーのウメミライにせよ、「順調であれば」もう少し違うステージで戦っていたであろう馬たちである。最初のオーナーがリリースせずに所有し続けている馬たちは、もちろんオーナーご自身のポリシーもあるのだろうが、その馬にまだ期待を込めているからこそ他人に譲らずに自ら所有し、いつかこの馬で、という夢を持っているのである。だから、こういう馬は強い。
とは言え、昨今の現役サイクルの早い競馬界では、4歳と言えども、結果を待ってもらえる時間はそれほど長くはない。エニフにせよ、テルケンレンダーにせよ、早く自分のピークを迎え、それを持続させながらレースの中で結果を残し賞金を獲得していかなければならない。それが自らの現役生活を持続させ、オーナーや関係者、ファンの皆様に喜んでもらえる最善の道なのである。
そんな思いで、これからライバル馬たちの奮闘ぶりを見守っていきたい。そして、ウメミライとはどこかでもう1度戦いたいなと思っている。
