[連載・クワイトファインプロジェクト]第14回 ユウフヨウホウと鞍上が見せた一世一代の輝き

今回は久しぶりに、雑多なテーマを絡ませながら書きたいと思いますが、実はクワイトファインのプロジェクトに直接関係する企画がいまウマフリさんで進行中でして、私もいち関係者、いち読者として楽しみにしております。公開の具体的日時等決まりましたら、私からも告知させていただきます。

本題の前に、前回コラムで書きました角居勝彦さんのプロジェクトが、「みんなの馬株式会社」という形で具体的に動き出したようですね。こちらも楽しみです。

さて、ここ最近の競馬界のホットトピックの一つが、新人女性ジョッキー今村聖奈さんの大活躍です。重賞初騎乗初勝利はまさに歴史的快挙と言えますが、今村聖奈さんのお父様はこちらもJRAジョッキーだった今村康成さん(現調教助手)。私などはどちらかというと、今村さんや角田晃一さんといった自分より年下の元騎手のご子息がもう現役なんだなぁ、ということに感慨を覚えてしまいます。

では、今村康成さんは現役時代どんな騎手だったかといいますと、1997年デビュー、競馬学校13期生で秋山真一郎騎手、勝浦正樹騎手、武幸四郎騎手(現調教師)等が同期となります。2012年の引退まで15年間で平地5勝、障害40勝の成績を残しました。この数字だけを見るとそこまで目立った活躍は出来なかったように見えますが、2001年の中山大障害を制していますから、立派なG1ジョッキーの一人です。ただでさえ重賞、G1の数が少ない障害競走において、途中で乗り代わった馬でのG1(級)騎乗の機会で結果を出したのです。まさに「記憶に残る」騎手の一人だと思います。

2001年といえばまだ聖奈さんが産まれる前ですが、当時23歳の今村康成騎手は、ユウフヨウホウ号で中山大障害に騎乗します。この馬は当時障害のトップホースだったゴーカイ号の半弟です。平地では勝ち上がれず障害転向、最初は牧田騎手(現調教師)とのコンビで障害戦を使い勝ち上がりましたが、2001年の秋から今村康成騎手がパートナーになりました。障害では1勝したのみで重賞での上位入着もありませんでしたが、前走オープンで3着と好走したこともあり暮れの大一番、中山大障害に挑戦することになりました。

一番人気は昨年の覇者&春の中山GJ覇者で4歳上の半兄ゴーカイ、二番人気は平地・障害の重賞ウイナーであるカネトシガバナー、一方で格下とみられたユウフヨウホウは単勝万馬券の最低人気(10頭立て)でした。

さて、レースは……と書きたいところですが、中山大障害についてはYou TubeのJRA公式チャンネルにレース映像がアップされていますので、そちらを見ていただければと思います。10頭中4頭が落馬競走中止という壮絶なレース、なかでも終始先頭でレースを引っ張っていたカネトシガバナーが最後の障害で力尽き落馬、あとはゴーカイが格の違いを見せつけ圧勝か……と思いきや、中段を追走していた弟ユウフヨウホウが直線で鋭い末脚を発揮し、兄ゴーカイの大障害連覇&春秋G1連覇を阻んだのです。ゴールの瞬間、今村騎手の思いのこもったガッツポーズも印象的でした。

ユウフヨウホウは、父ラグビーボール、母ユウミロク、母父カツラノハイセイコ。前述の通りゴーカイは半兄、目黒記念勝馬ユウセンショウは全兄となります。

おそらく、新しい競馬ファンの皆様はほとんど聞いたことのない馬ばかりでしょう。一方でオールドファンの皆様、とくに60代以上の方々にとっては懐かしい馬たちなのではないでしょうか。

母ユウミロクは、オークス2着、重賞カブトヤマ記念を制しています。父ラグビーボールは、当時はG2だった高松宮杯の勝ち馬で、ナイスネイチャと並ぶナイスダンサーの代表産駒となります。ナイスダンサーはトウカイテイオーの母父でもあります。そして母父カツラノハイセイコは、読んで字の如くハイセイコーの仔で昭和54年のダービー馬です。

トウカイテイオーのダービーから10年後のサンデーサイレンス旋風が吹きまくっていた2001年に、母父カツラノハイセイコのサラブレッドが、障害とは言えG1でワン・ツーフィニッシュするのですから、血統は本当に面白く、奥が深いです。これぞ母父ハイペリオン系の底力かも知れません。

タイトルホルダー号が凱旋門賞への挑戦を表明した今、近年の実力馬には珍しいスタミナ豊富なタイプで今度こそ勝てるのではないかと期待が高まっていますが、タイトルホルダーの母メーヴェは外国産馬です。今さら言っても仕方ないことですが、ユウミロクのように日本にだってスタミナに優れた繁殖牝馬はいたわけです。パーソロン、バイアリータークの存続云々はちょっと置いとくとして、日本の馬産としてディクタスやハイペリオン系のサイヤーラインをもう少し大事にしていれば、その血を受け継ぐ繁殖がサンデー、キンカメの力を引き出し、外国産馬に頼らなくとも純国産のスタミナホースを送り出せたのではないかと思ってしまいます。

そして、バイアリーターク系と言えば、平地競走用種牡馬としては世界中に恐らく一桁しかおらず、年間種付け数もジリ貧の状況ですが、一方で障害専用種牡馬としてはこちらも数は少ないものの年間種付け数が100を超す馬もいるようです。そういった種牡馬の血を敢えて日本のスピードに優れた繁殖と融合させたら、フランスのタフな馬場にも対応できるスタミナ豊富な競走馬(ないし繁殖牝馬)が誕生しないだろうか、……と夢物語を考えてみましたが、現実的には難しいでしょう。

今回はあまり大した結論になりませんでしたね。でも、ついついそんなことを考えてしまうくらい、2001年の中山大障害で各馬が見せた4000メートルの死闘は、20年後の我々競馬ファンにも訴えるものがあると思います。

写真:s.taka、風太

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