[連載・クワイトファインプロジェクト]第31回 経済動物であることは本当に不幸なのか?

このコラム…というよりウマフリ読者の皆様には、引退馬支援の活動に興味を持たれている方も多いと思います。競馬のニュースを見聞きしていれば、嫌でも「引退馬」関連のニュースを目にすることは多いでしょう。

 そして、正直私も不勉強だったのですが、2022年の競馬法の一部を改正する法律の付帯決議(衆・参の農林水産委員会)において、「引退した競走馬の多様な利活用による社会貢献等の観点からも命ある馬が可能な限り充実したセカンドキャリアを送ることができるようにすることの重要性に鑑み、こうした取組に対する競馬関係者による支援の拡充を促し、取組内容の充実が図られるよう指導すること。」と決議されているのです(注:指導すること、の目的語は、ここでは競馬主催者を指す)。

 日本は言うまでもなく法治国家です。国会は三権のうち立法府を司る機関です。その国会において、法的拘束力のない付帯決議とは言え、「命ある馬が可能な限り充実したセカンドキャリアを送ることができるようにすることの重要性に鑑み(以下略)」とはっきり謳っているのですから、これは重いです(ポジティブな意味でも、ネガティブな意味でも)。

さて、ここからは少し個人的な意見を挟みます。まず、ここで言う引退馬の定義というか概念ですが、基本的には競走馬を引退し、繁殖に上がった馬は繁殖としての用途を終えるまでは、広い意味での「現役馬」だろうと思います。言い換えれば「競馬という産業において、生産の用途に供されている馬」という意味で引退はしていない。

 そして、タイトルにも書きましたが、サラブレッドを語るうえで「経済動物」という言葉がよく使われます。この言葉はたびたび否定的な意味で使われることが多いです。経済動物だから、用途が済んだら多くは屠畜されてしまう等々。

 競走馬は引退後、愛玩動物になることはできません。一般のサラリーマン家庭が、家計の余剰の範囲内で、首都圏の自宅の小さな庭で飼える生き物ではありません。引退し、去勢して大人しくなったところで400kg~500kgの体重を有する動物です。蹴られれば死に至ることもあります。基本的には、専門家の手に飼育を委ねるしかありません。そして、その専門家たちも業務として馬を預かり、そこの経営者や従業員たちにも生活があるわけですから、原価で依頼するわけにはいきません。1頭で年間150万円、引退後20年生きれば3,000万円です。ただ単に余生を送らせる、というのは理想論としてはともかく現実には極めて難しい、というのは誰も否定できないと思います。

しかし、経済動物と言っても、初めから食用目的で生産される肉牛や肉豚と違い、サラブレッドは、競馬という産業(興行)におけるメインプレイヤーとして生まれ、育ち、全国民に公開される名前を与えられ、その成長過程は競馬ファンの知るところとなります。ファンの皆様のみならず、言うまでもなくより近くで接している生産牧場、育成牧場、馬主、厩舎の関係者も皆愛情をもって接します。だから愛着がわきます。人間の経済活動目的で生産される哺乳動物において、年間生産される7,000頭のほぼすべてに名前が与えられ、その名を全国民が知ることが出来るのは競走用サラブレッドだけです。その意味では、1頭でも多くの馬がセカンドキャリアの機会を与えられて欲しいと願うのは競馬ファンとしての自然な感情だろうと思います。

 前置きが長くなりましたが、クワイトファイン・プロジェクトを主宰する立場としては、種牡馬であれ、縁あってお借りしている繁殖牝馬であれ、なるべく長い間、サラブレッドとしてのファーストキャリアを、言い換えれば広い意味での「現役馬」(=繁殖馬)としての役割を与えることが、私のやるべき一番の使命だと思っています。そのためには、産まれた仔馬が競走馬として流通ルートに乗ること、馬体の評価に見合った適正な価格で取引されることが大事です。

 カカラちゃん(バトルクウ2022)は、売り馬ではありませんが、この仔が初仔のハンディを跳ねのけ1歳2か月の段階で体高154cmまで成長したこと、そして日本でもトップクラスの育成牧場で鍛錬し、地方競馬の最高峰である南関東デビューを目指していること、その全妹(バトルクウ2023)が姉よりも一回り大きく産まれ、今のところバランスのいい馬体をしており、1歳時には姉以上の成長が見込まれること。

 そして何より、YouTubeチャンネルなどの媒体を通じ姉・妹の成長過程を多くの皆様と共有できること。さらに、妹がクラブ法人募集馬になればよりファンの皆様はより身近に応援できるわけです。種付けから出産⇒成長⇒デビュー⇒引退までを見届け、やり方次第では直接関与できること、これこそ「経済動物」であることの最大のメリットだと思うのです。

 先日のYouTubeチャンネルでの動画でもお話ししたように、この馬のことをフェアな目で評価していただける人であれば、個人馬主さんであれクラブ法人さんであれ売り先は問いませんし、どこに出しても恥ずかしくない馬体だと思っています。これから秋に向けてクラブ法人の方とフェアで対等な交渉のテーブルに着けるよう、今後とも最大限の努力をしてまいりたいと思いますし、ぜひ、ファンの皆様からの後押しをお願いしたいと思います。

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