前回のコラムにいくつかご意見をいただきましたので、引き続きこのテーマで書きたいと思います。
一般的に、競馬にさほど詳しくない方々から見ると、「中央競馬=現役」で、それ以外は地方競馬であれ繁殖であれ「引退馬=保護すべき対象」と思われるかもしれません。
もちろん、それが誤った認識であることはこのサイトの読者の皆様ならご存知かと思います。中央競馬で(期日までに)成績が残せずに地方競馬に転籍した馬でも、そこで例えばフィジカル面の支障が取り除かれたり、あるいはその馬の成長スピードにあった調教が施されたりという理由で、中央在籍時をしのぐ活躍を見せ、重賞級まで登りつめた馬は沢山います。最近であれば、南関東船橋の習志野きらっとスプリントを制したキモンルビー号は中央未勝利を勝ち上がれなかったものの、移籍した高知で5戦4勝と鮮やかに頭角を現し、さらに(中央復帰の条件は充たしていたものの、中央に戻らず)船橋へ移籍してからも11連勝を挙げるなどオープン馬として復活を遂げ、ついに重賞タイトルを手にしました。この馬は、中央でのレースでは馬券圏内に入ることすらなく(門別交流戦で2着あり)移籍を余儀なくされた馬です。高知、船橋といった砂の深いダートに活路を見出したのか陣営のご判断の真意はわかりませんが、諦めずに能力を信じた結果がこのように大きく開花することはいくらでもあります。
一方で、牝馬であれば早めの引退⇒繁殖入りという判断も戦略的にありうることで、どちらがいい悪いはありません。以前も動画などで触れましたが、サラブレッドの流通において初仔は敬遠される傾向があるのも事実(初産だと産道が狭いため小さい仔が産まれがちとされる)なので、早めに繁殖入りすれば若い健康な段階で2番仔、3番仔を産むことが出来ます。
このように、サラブレッドが愛玩動物たりえない以上、どこかのステップで自らの「経済的価値」を発揮できるよう人間が策を打つことで、サラブレッドの「ファーストキャリア」を伸ばすことが出来ます。そこには人間の判断が入ります。判断に失敗することもあります。しかし、前にも書いたように、1頭3,000万円の経費が必要となるサラブレッドという生き物について、軽々にセカンドキャリアを語るより、ファーストキャリアのままでどこまで価値を高められるのかを考えてそこに投資を行い、それでも万策尽きたときにはじめてセカンドキャリアの議論になると思っています。
前回取り上げた国会の付帯決議も、どこまで議論を尽くしてあの文言に至ったのか、私は立法府の専門家の意見を聞いてみたいと思っています。サラブレッドは法律上の位置づけは「家畜」であり、動物愛護法の対象にはなっていません(動物愛護法の対象となる「馬」は在来種野生馬等であると思われます)。それをあそこまで踏み込んで表現するということは、良くも悪くも本当に重い話です。もし立法府としての議論の裏付けがきちんとあってその上での附帯決議であるのなら、それを少なくとも競馬関係者にちゃんと周知して徹底を図るべきだと思います。
南関東3冠を無敗で制したミックファイアにせよ、先に例に取り上げたキモンルビーにせよ、外野は「安馬」だとか「未勝利馬」だとか勝手に烙印を押したがりますが、そこには中央競馬の淘汰選別システムの(いい意味で)裏をかき、その馬に経済的価値を付与しようと懸命に努力している人々の姿があります。南関東だけではありません。名古屋でも岩手でもスターホースはうまれています。地方競馬は淘汰選別の要素が(全くないとは言えませんが)中央ほど大きくはない分、サラブレッドにとって可能性の宝庫だと思っています。
このように、サラブレッドの世界は、いい意味での「経済動物」として巨額の投資資金を受け入れることで、この巨大な市場を、産業を成立させており、この資金が還流し続けることで多くの馬が救われていることも事実なのです。引退後の一面だけを切り取って議論するのではなく、誕生から、いやそれより前の種牡馬の選定、繁殖牝馬の選定から現役・繁殖引退まで関わることで、その馬がこの世に生まれてきた意義、誰の期待を背負ってそれにどう応えようとしたか、そしてそれは経済的に成功したのかしなかったのか、それらをすべて関わった人間が受け止めたうえで、初めて引退馬の議論になると思います。
当プロジェクトは、まさにそのプロセスをオープンにしています。これから、綺麗ごとではすまない事態もたくさんあると思います。なので、ぜひファンの皆様には、出来れば、クラブ法人でクワイトファイン産駒に出資するところまで関わってもらいたい。その上で、種付けから見続けてきた1頭のサラブレッドの背負っているものを共有していただきたい。幸い、バトルクウ2023は雄大な馬体を母から、勝気な勝負根性を父・祖父から受け継いでおり、今の段階ではマーケットで十分勝負できる馬だと思います。多くのファンに支えられた壮大なプロジェクトの重要なピースを埋めてくれるクラブ法人の出現を願ってやみませんし、ぜひ皆様も声を上げてほしいと思います。
写真:ウカ