![[連載・クワイトファインプロジェクト]第53回 生産頭数増、セリ売却率減、個人オーナー多難の時代へ](https://uma-furi.com/wp-content/uploads/2021/10/line_207599964038877.jpg)
今回はあまり楽しくない話を書きます。とは言え、現実は避けて通れないので、ちゃんと予測を立てて行動することが大事です。
今年の日高軽種馬農協主催のセリはオータムセールまでが終わりましたが、売上金額で前年比2.3%減、売却率も4.17ポイント減の結果でした。オータムセールでは50万円以下で落札された馬も認められました。
そして、今年のサラブレッド生産頭数は、これまでずっと7,000頭台でしたが速報値8,092頭となり、久しぶりに8千頭を超える見込みです。
しかし、競馬場の数も厩舎(馬房)の数も変わりません。むしろ減っている(厩務員不足で預託を受けられない場合もあるため)とも言えます。ただでさえ入厩が大変になっているこのご時世で。
平成中期の極めて厳しい時代を私は知っています。牧場の倒産や競馬場の廃止(中津・益田・公営新潟・荒尾・上山・北関東など)という暗いニュースが相次ぎました。そして景気の回復とコロナ特需(勝馬投票券のネット販売効果)、さらには「ウマ娘」ブームも相俟って日本の競馬産業は再び隆盛を迎えました。新規馬主やクラブ法人による「一口ファンド」など、競馬に関わりたい人は今なお後を絶ちません。
とは言え、世の常として、隆盛の後には必ず後退期がやってきます。とくに、1990年代から2000年代初頭の競馬場の相次ぐ廃止が、今になって供給過多を引き起こす要因になっています。
供給過多になると、以下のような悪循環が想定されます。
・健康であってもデビューできない2歳馬が出てくる
・その結果、2歳の馬房を空けるためにまだ普通に走れる古馬が長期放牧や引退を余儀なくされる
・なんとか厩舎側が馬房をやり繰りしても、在籍馬がレースを使えず馬主の負担が増える
さらに、昨今の引退馬支援の動きもあります。倫理的には反対する人はいないでしょう。しかし、供給過多で「馬余り」になると引退馬の枠もすぐに埋まってしまいます。繁殖入りも同じでどこの牧場もほぼ一杯ですが「自分の所有馬を繁殖に」と願うオーナーさんもなお多く、この傾向も当分続きます。昨年、繁殖牝馬の移動でかなり私も苦労しました。
このような状況下で、引退馬も繁殖馬も、スローガンだけの「あるべき論」を唱えても現実は動きません。誰かが負担し続けて経済的に疲弊し、結果として競馬事業から撤退するだけです。オーナーさんで、Xなどで「引退後も必ず面倒をみます」と宣言している人も多いですが、その人が億万長者ならまだしも、普通に事業をしてちょっと成功したレベルでは、最長30歳まで生きるサラブレッドの面倒を何頭も負担するのは現実的に無理でしょう。
ならば、どうすればいいのか。
クワイトファインの諸々の取り組みについて、「新しい馬の所有の形」という評価をいただくことがたまにありますが、私は決してそうは思いません。このプロジェクトはあくまで、「日本が誇るシンボリルドルフ→トウカイテイオーのサイヤーラインが1頭の後継種牡馬もなく途絶えてしまう」というある種の異常事態だったので、多くの皆様の支持をいただけたのだと思います。血統が絶滅寸前のバイアリーターク系であることも大きかったでしょう。ダーレーアラビアン系のサッカーボーイやマルゼンスキー、オグリキャップとはそこが違います。ゴドルフィンアラビアン系も滅亡危機ながらTiznow(BCクラシック連覇)という大活躍馬が出たため一時盛り返したことと、ルドルフ→テイオーほどのアイコンとなる馬が日本にいないという点がネックとなり多くの支持を得るのは難しいかと思います。もっとも近いケースはメジロマックイーン⇒ギンザグリングラスのラインですが、実はメジロマックイーンにはギンザグリングラス以前にもグランアクトゥールという種牡馬登録された牡馬が存在していたのです(血統登録された産駒は2頭)。
よってクワイトファインの場合は本当にレアケースもレアケースなので、他の馬で同じような取り組みをするにはかなりの商才溢れる人が取り組まないとビジネス化は難しいと思います。というよりクワイトファインも、私以外の商才溢れる人が手掛けていればもっと成功していたかもしれません。
これらは難しい課題ですので私もいますぐに答えがあるわけではありませんが、ドラマ「ロイヤル・ファミリー」効果で一般の方でも競馬に関心を持つ人がさらに増えるでしょう。これは被災地支援でも、地域の伝統行事を守る取り組みでも、競馬産業でもそうなのですが、まずは「関係人口」を増やすこと、そして、特定の人に過大な負担を強いないよう「広く浅く」関与できる仕組みを作ること、それだけでなく、端的にはYouTube広告収入のような「外部の収益源」を増やすことなのかなと思います。
当プロジェクトとしては、これから「サラブレッドの供給過多」という難しい時代に差し掛かることを直視し、そのなかで、倫理面も最大限配慮しながらプロジェクトの生き残り戦略を模索し続けなくてはなりません。それが、クワイトファインが自らの命と引き換えに私に示してくれた課題であると思います。