![[連載・クワイトファインプロジェクト] 第56回 アンチテーゼとしてのクワイトファインプロジェクト](https://uma-furi.com/wp-content/uploads/2021/10/line_207599964038877.jpg)
本題の前に、8/9の重賞CBC賞でフロムダスク号が勝利し、鞍上の中井裕二騎手が15年目で初の重賞タイトルを手にしました。
私は基本的に、重賞未勝利ジョッキーは応援の意味で馬券を買うことが多く、今回もうっすら期待はしていたのですが、2番枠を活かし先行して番手からきっちり差し切る見事な騎乗でした。そして、それ以上に関心を集めたのが、実直な人柄が滲み出ていた勝利騎手インタビュー。熊本地震の被災者の方々を気遣うコメントもありました。その効果もあってか中井騎手への騎乗依頼が増えはじめています。中央のオーナーさんが騎手を選ぶ際に「人柄」がどれだけ影響するのかはわかりませんが、AIが人の領域を侵食するような世の中でも、最後に仕事の成否を決めるのは「人柄」だと思っています。
そして、ウマフリ読者の皆様には周知の事実ですが、治郎丸オーナーの所有馬ドコフクカゼ号が初勝利を挙げました。ネットでは称賛の声があふれ、大手マスメディアも注目しはじめているようです。
──さて、本題に入りますが、クワイトファイン産駒のラストクロップともいうべき2頭の当歳馬が、期せずして同じオーナー「元レーシング」様の所有となり、これから2年後のデビューを目指すことになりました。そして、先日、プロジェクトのXアカウントでその旨を公表いたしました。
もともと、オーナーは繁殖牝馬「アナモリ」を所有しておられたので、今年アナモリから生まれた牝馬は元レーシングの所有となるのですが、もう1頭の九州で生まれた牡馬「エレガントラウル2026(幼名シロー)」も、オーナーが庭先で購入され元レーシングの一員となることになりました。
オーナーがご自身で発信しておられるように、もともとは三冠馬ナリタブライアンのファンで、ブライアン引退後はお仕事がご多忙だったこともありしばらく競馬からは離れていたそうです。そして年月が経ち本業で成功を収め、ふとナリタブライアンのその後を調べてみたらその血を受け継ぐ馬がほとんどいなくなっている現状を知り…紆余曲折あって、今に至るということでしょうか。Xで公開した時もちょうど元レーシングさん含め複数の地方馬主の方々と打合せをしておりましたが、その時全員から冗談交じりに言われましたよ、「原田さんのせいで人生狂わされました」と(笑)
確かに、私が余計なことをしなければ、競馬サークルは予定調和で満たされ、皆が平和に生きていられたのかも知れません。予定調和で満たされた世の中は、大手生産者のエリートホースやリーディング上位の騎手・厩舎が常に脚光を浴びていれば皆が満足するのでしょう。
でも実際はどうか。
海外の大レースをいくつも勝つような大富豪オーナーが、15年目で重賞未勝利のジョッキーに愛馬の騎乗依頼をし、そして結果を出す。
或いは、一生に一度の3歳牝馬の大レースに、今年その時点で5勝しかしていない女性ジョッキーを起用し、ルメール、レーンといった世界的名手の騎乗する人気馬を差し切って1着でゴール。
これが何を意味するか。中央競馬はシビアな世界ですから、もちろんロマンなどではありません。厩舎サイドは普段の騎手たちの頑張りを評価して騎乗依頼を検討し、オーナーがゴーサインを出す。極めて普通の経済的判断だったと思います。ただ、少なくともリーディング上位の騎手で勝ったときでは得られないであろう賞賛を手にしているのも事実です。あえてお名前を出しますがフロムダスク号の藤田晋オーナーは、世間的に見れば「大成功を収めた人」と言っても誰も異論はないでしょう。そんな大成功者ですら、立場が変われば、リーディング下位のジョッキーで上位人気馬に立ち向かい、そして下剋上を成し遂げるのですから競馬は面白い。
この面白さを、多くの人々は「ロマン」という汎用性のありすぎる一言で片づけてしまうのですが、私はむしろ「アンチテーゼ」だと思っています。アンチと言っても上位者を忌み嫌うことではもちろんなく、上位者も下位者も皆それぞれ血のにじむような努力をしている。でも、人の世は努力と均等に成果が得られるわけではない、それも現実。そこで、普段光の当たりにくいものや人に光をあて、そして結果が出ることに、人々は感動と興奮を覚えるのです。生産者、厩舎、騎手、そしてもちろん主役たる馬に対しても、です。
あとは血統ですよね。このコラムの本題はそこです。
まず、元レーシングさんが、自家生産馬の「アナモリの2026(幼名アカリ)」だけではなく、オーナーが決まらなかった「シロー」にまでチャンスを与えてくれたこと、これがまず「光を当てる」第一歩です。あとは、九州産馬のこの馬に、九州産馬としての大きなチャンスを与えてくれる調教師さんが現れるかどうか、この「大きな光」が受け取れるかどうかで、この馬の今後は大きく変わってきます。そして、その光を受けるために関係者がどれだけ努力するか。
ドコフクカゼ号の関係者が、丁寧に発信を続け、勝利という結果とともに大きな注目を集めたことは称賛に値します。ライジングテイオーも含めクワイトファイン陣営も負けていられません。血統の評価を得ることは長い長い戦いですが、主流血統への「アンチテーゼ」は遺伝学的にも意味があることですから、パールシークレット陣営とも連携しながら、いつか「大きな光」を受け取れるよう、もっと多くの人たちの人生をいい意味で狂わせたいと思います。

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