前回コラムでも触れましたが、ギンザグリングラス産駒のエレディターレ号が中央競馬の美浦・小手川厩舎に入厩し、ゲート試験も合格。いよいよ、競走馬としての第一歩を踏み出すことになりました。
そして、京都サラブレッドクラブの会員向けHP情報によりますと、東京競馬の2月12日のD1,400m新馬戦を目標に調整していくとのことです(情報の公開につきましてはご了承をいただいております)。よって、今回は年末年始の様々な競馬の話題からコラムを書く予定でしたが、急遽変更し、エレディターレについてご紹介させていただきます。
エレディターレは父と同じ芦毛の牝馬で、母はラナチュール、母父コンデュイット、母母がダイイチアピールという血統です。ご存知の方も多いかと思いますが、母母ダイイチアピールはメジロマックイーン産駒で目黒記念を勝つなど活躍したホクトスルタンの母でもあります。つまりエレディターレは、父父と母母でホクトスルタンの血を50%有していることになります。
ギンザグリングラスは、熱心なオーナーさんが競走馬引退後に私財を投じて種牡馬入りを実現させたメジロマックイーン産駒です。すでに3世代4頭がデビューし、現状の勝ち頭としては浦和所属のフェイドハード号の3勝。他の産駒の調子も上々で、いずれも地方ではありますが、4頭中3頭が勝利しています。そして今回、満を持しての産駒中央デビューとなります。
エレディターレの母であるラナチュール自身は中央未勝利馬(2着あり)でしたが、この一族は社台グループの基礎牝馬の1頭であるファンシミンを祖としていますから、ホクトスルタンだけではなく近親にも多くの活躍馬がいます。まずダイイチアピールの祖母ダイナフェアリーが重賞5勝していますし、その産駒でサンデーサイレンスを父に持つサマーサスピション・ローゼンカバリー兄弟はG2勝ちを収めるなど活躍し種牡馬入りもしました。しかし、残念ながら多くの活躍馬を輩出したものの、ホクトスルタン自身も含めG1には手が届かず、またどちらかというと中長距離に適性のある血統だからでしょうか、昨今のスピード重視の競馬ではやや苦しくなっている印象です。
ホクトスルタンについては比較的最近の活躍馬ですから記憶に残っている方も多いでしょう。目黒記念で初重賞タイトルを獲得したときには、このまま順調にいってメジロマックイーンの後継種牡馬に……という期待を持ったファンの方も多かったかと思います。私もその一人でした。しかし、障害転向しレース中の故障によりこの世を去ることになってしまいました。6歳時の天皇賞・春では惜しくも賞金不足となり、3年連続出走を逃したことを含め、個人的にはいろいろと現実の厳しさを突き付けられた1頭だったなという思い出があります。もちろん、仮に6歳時の天皇賞に出走できたとしても勝っていたという保証はどこにもありませんし、障害馬として才能開花すればまた違った余生もあったかもしれないですが……。
それもこれも含めて、今はギンザグリングラスに父系存続の期待がかかっているわけです。エレディターレ自身は牝馬ですが、ホクトスルタンの血を色濃く残す彼女がまさにデビューの時を迎えているわけですから、そこにホクトスルタンへの思いを反映させられることも、ブラッドスポーツである競馬の面白さかと思います。
もちろん、エレディターレもデビューした後は極めて厳しい勝ち残り競走のまっただ中に身を置くわけであります。中央競馬で勝ち上がることが──もっと言えば掲示板に載ることがどんなに難しいことか、私も30年以上競馬を見続けている人間なので重々わかっています。ましてや今回、異色の経歴で種牡馬入りした、かつ(現代の主流から見れば)異色の血統の種牡馬の産駒です。掲示板に乗る等それなりに存在感を示すことができれば注目度もアップするでしょうが……逆もまた当然あり得ることで、そこは非常に諸刃の剣なのではないかと思います。
それでも、クワイトファインは中央で走ることすら叶わなかったのに対し、ギンザグリングラス自身は中央で勝ち上がっていますし、産駒が中央でデビューできるだけでも素晴らしいことだと思います。そして、中央競馬のレーシングプログラムや公式HP、競馬ブックやギャロップといった競馬専門紙にも「エレディターレ」や「ギンザグリングラス」の名前が載るわけですから、正直、うらやましいなという面もあります。
クワイトファインの産駒が今後どのような形でデビューするかはわかりません。実質的な初年度産駒となるバトルクウの仔は共有オーナーが決まっていますので地方デビューになると思いますが、もし今後、関係者のお眼鏡に適って「中央でも走れるんじゃないか」という仔が現れたときには、今回のエレディターレの中央デビューまでの過程は私も参考にしたいと思いますし、エレディターレの競走馬としての実績も間接的には影響がないとも言えないので、ひとりの出資者としてだけではなく注目していきたいと思っています。
まずは無事に、デビュー戦を迎えてくれることを祈ります。
写真:京都サラブレッドクラブ