2021年の天皇賞・春は、27年ぶりの阪神開催。
2006年・阪神競馬場の改修以降、この条件でレースが行なわれること自体、2月の松籟ステークス以来2度目のことだった。

そんな、稀少な条件の天皇賞に駒を進めてきたのは17頭。その中で、単勝オッズ10倍を切ったのは4頭と、例年どおり大混戦となった。

僅差の1番人気に推されたのはディープボンド。昨年のクラシックは皆勤を果たし、ダービーで5着、菊花賞も4着と好走。前走の阪神大賞典は、2着に5馬身差をつける圧勝で重賞2勝目をあげ、GⅠ初制覇へ満を持して臨んできた。

2番人気に続いたのは、菊花賞でコントレイルをクビ差まで追い詰めたアリストテレス。
前走の阪神大賞典は、断然の1番人気に推されながら7着と敗れたものの、折り合いを欠いたことと道悪が敗因とされ、良馬場となった今回は巻き返しが期待された。

3番人気はワールドプレミア。2019年の菊花賞馬で、その次走の有馬記念後に1年近くの休養を余儀なくされたが、昨年のジャパンカップで復帰を果たした。復帰後は、3戦して勝利はないものの大崩れもなく、前走の日経賞は3着。今回、初騎乗となる福永騎手の手綱さばきにも注目が集まった。

4番人気となったのは、牝馬のカレンブーケドール。こちらは、重賞で2着6回、うちGⅠで2着が3回と、勝ちきれないながらも堅実に走っている。前走の日経賞でも、同じ牝馬のウインマリリンの前に2着と敗れたが、ワールドプレミアには先着。重賞初勝利をビッグタイトルで飾るか、注目が集まった。

レース概況

ゲートが開くと、オセアグレイトが出遅れ、ディバインフォースもダッシュがつかず、後方からの競馬となった。

先手を切ったのは、坂井騎手に乗り替わったディアスティマ。ジャコマルがそれを追うも、ハナを奪うまでには至らず2番手に。カレンブーケドール、シロニイ、ディープボンドの3頭が、3番手を併走した。

そこから2馬身離れた6番手に、2番人気のアリストテレス。ワールドプレミアは、ちょうど中団9番手から、外回りの4コーナーでポジションを2つ上げ、7番手で1周目のスタンド前に入った。

1000m通過は59秒8と、平均よりやや早めのペース。先頭から最後方までは、20馬身以上の隊列となった。

その後、1コーナーから2コーナーを回り向正面へ入ったものの、隊列や順序は大きく変わらず。2000mの通過は2分1秒3。この1000mは、1分1秒5とややペースは落ちた。

そして、スタート地点を過ぎ、3コーナーの内回りに入ったところで、やはりペースが上がり、レースは大きく動き始める。

まず、逃げるディアスティマが少しリードを広げたのを見て、カレンブーケドールが2番手に進出。1番人気のディープボンドも、手綱を大きく動かしながら3番手に上がり、ジャコマルは後退。

さらに、アリストテレス、ワールドプレミアの1枠2頭が1馬身差で続き、後続からウインマリリンが、これら上位人気4頭の争いに加わったところで、4コーナーを回り、レースは最後の直線勝負へと入った。

直線に向いて、カレンブーケドールが先頭に立つと、初タイトルと、68年ぶりの牝馬による天皇賞春制覇への期待が一気に高まる。しかし、ディープボンドとワールドプレミアがしぶとく脚を伸ばして、残り100mでそれを交わす。

そして、最後はワールドプレミアが抜け出し、食い下がるディープボンドを4分の3馬身振り切り1着でゴールイン。2着にディープボンド、そこから2馬身差の3着にカレンブーケドールが入線した。

良馬場の勝ちタイムは、3分14秒7のレコード。ワールドプレミアは、2019年の菊花賞以来2つ目のGⅠタイトル。騎乗した福永騎手は、史上4人目の重賞150勝を達成。また、2013年に制した天皇賞秋に続き、天皇賞春も、父の福永洋一元騎手との親子制覇となった。

各馬短評

1着 ワールドプレミア

昨秋の戦線復帰以降、堅実には走っていたものの、大きな見せ場もなかった。しかし大一番に帳尻を合わせたかのように、最高の結果を出した。

3走前のジャパンカップ以外、すべて上がり最速~上がり3位の末脚をマークしているが、ディープインパクト産駒にしては珍しく、上がり3ハロン34秒未満の末脚を繰り出したのは、これまでで1度のみ。速いペースで流れ、ロングスパートからの持久力勝負になったことも良かった。

2着 ディープボンド

前走の圧勝が道悪に恵まれたわけではないことを証明し、完全に本格化したといえる内容。1勝クラスの身で挑戦した1年前の皐月賞は、単勝360倍の最低人気だったが、およそ1年後、GⅠで1番人気に推されるまでに成長した。

やはり、距離は2200m以上あった方が良く、持久力勝負が向くタイプ。宝塚記念はかなりメンバーが揃いそうだが、今なら好勝負も可能で、他、有馬記念でも面白い存在になりそう。

3着 カレンブーケドール

戸崎騎手が勝ちにいって、これ以上ないほど完璧な競馬をし、本当に惜しい内容だった。

グレード制が導入された1984年以降、牝馬は延べ23頭挑戦し、その1984年に出走したヤマノシラギクの6着が最高。今回は、それを大幅に更新した。

こちらも、牝馬が強い宝塚記念に出走すれば、再度、好走は可能ではないだろうか。関係者のみならず、なんとかタイトルを獲らせてあげたいと思っているファンは多数いるに違いない、常に応援したくなるような存在。

レース総評

この日の阪神競馬は12週連続開催の最終日となったが、芝のレース数は、例年の3~4月の開催より少なく抑えられていた。それにより、阪神大賞典の翌週の毎日杯、そして大阪杯の翌週の桜花賞のように、雨が降って馬場が悪くなっても、中間、晴れの日が続けばすぐに馬場は回復し、驚くようなタイムが出る馬場に戻っていた。

天皇賞に話を戻すと、1000m毎の通過タイムは、59秒8-1分1秒5-1分0秒4で、3000mの通過は3分1秒7。最後の1ハロンは13秒0と2番目に遅いラップとなったが、これは、ゴール前の急坂があるため。

ちなみに、京都でのレースということや、3歳限定戦のため比較にならないかもしれないが、3000mの通過3分1秒7を菊花賞の勝ち時計に当てはめれば、歴代2位のタイムに相当する。

また、天皇賞春にあてはめると、これも単純比較はできないものの、歴代8位タイに相当する。直線平坦の京都とは違い、ゴール前の急坂を2度越えてのこのタイムは、かなり優秀だったといえるのではないだろうか。

上位3頭は、明らかに瞬発力勝負より持久力勝負が向くタイプで、天皇賞秋やジャパンカップよりは、宝塚記念や有馬記念が向くだろう。

また、ディープインパクト産駒は、2018年の菊花賞から今回まで、3000m以上のGⅠで6連勝となった。内回りの阪神開催でも、この記録が継続されたことは驚きで、半年後にはなるものの、菊花賞でも同種牡馬の産駒に注目が集まる。

最後に、今回重賞150勝目をあげた福永騎手といえば、牝馬や2、3歳の重賞に強いイメージがある。そこで、2018年1月6日~2021年4月25日までの重賞成績を調べてみると、年齢に関してはイメージ通り、3歳馬に騎乗したときの重賞が最も良く、次いで2歳と4歳が、勝率と複勝率で同じくらいだった。

ただ、性別に関しては、2018年以降に勝利した重賞24勝のうち、牝馬はなんと1勝のみと、従来のイメージとはかなり異なっている。

芝の重賞で牡馬に騎乗したときは、8枠に入ったときの複勝率が極端に悪いもののそれ以外は良く、特に、1、2枠では抜群の成績を残している。来週以降も、おそらく毎週のように重賞に騎乗するため、この傾向には注目したい。

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