[重賞回顧]伝説へ、再び歩を進め始めた桜の女王~2021年・札幌記念~

夏競馬最大のレース、札幌記念。GⅡに昇格以降は数多くのGⅠ馬が参戦し、凱旋門賞など、海外に遠征する馬の前哨戦としての役割も果たしてきた。

2021年は、4頭のGⅠ馬を含む13頭が出走。人気は、新旧の牝馬クラシック勝ち馬2頭に集中した。

1番人気に支持されたのはラヴズオンリーユー。

2019年のオークスを制して以降、なかなか勝利に恵まれなかったが、今年初戦の京都記念を快勝。ドバイシーマクラシック3着を経て、香港のクイーンエリザベス2世Cも優勝し、完全復活をアピールした。それ以来の実戦となる今回は、米国で行なわれるブリーダーズカップへの遠征を見据えた前哨戦。とはいえ、人気も実績も上位のここは、結果だけでなく内容も求められるレースとなった。

2番人気は、3歳牝馬のソダシ。

白毛という愛くるしい見た目から現役屈指の人気馬は、ここまで6戦5勝。今年の桜花賞を含めてGⅠを2勝しており、実力では、間違いなく世代トップクラスの存在といえる。前走のオークスで初黒星を喫したものの、敗因が距離だったことは明らか。今回は、1年前に重賞を制した札幌が舞台で、再び連勝街道を歩むきっかけになることが期待されていた。

単勝オッズ10倍を切ったのは、この2頭。以下、2018年の有馬記念を制したブラストワンピース、クイーンステークス3着のサトノセシル、前走の目黒記念で重賞初制覇を達成したウインキートスの順で人気は続いた。

レース概況

ゲートが開くと、ソダシが好スタートを切り、外からウインキートスとともに先行。逃げるトーラスジェミニの2番手につけ、1コーナーへと進入した。わずかの差で、3番手にステイフーリッシュ。以下、ウインキートス、ペルシアンナイトと続き、ラヴズオンリーユーは中団8番手を追走。

前半の1000m通過は59秒9の平均ペース。先頭から最後方までは、およそ10馬身の差だった。

その1000m標識を過ぎたところで、後ろから2番手でレースを進めていたブラストワンピースがまくりを開始。一気に先頭に立とうとするところをソダシも一緒についていき、レース自体のペースが上がる。

迎えた3~4コーナー中間で、2頭がトーラスジェミニを交わし先頭へ。ウインキートス、ペルシアンナイト、ラヴズオンリーユーが横並びで第2集団を形成し前2頭を追うも、差はなかなか詰まらないまま、レースは最後の直線へと入った。

直線に向くと、ソダシがリードを1馬身半に広げ、逃げ込みを図る。ブラストワンピースを交わしたペルシアンナイトが2番手に上がり、後ろから追ってきたのはラヴズオンリーユー。残り200mで、上位争いはこれら3頭に絞られた。

しかし、その後もソダシの末脚は衰えず、最後は少しだけリードが詰まったものの、4分の3馬身差をつけ1着でゴールイン。接戦の2着争いは、最後の最後でラヴズオンリーユーが制し、ゴール寸前で交わされたペルシアンナイトがアタマ差の3着に入った。

良馬場の勝ちタイムは、1分59秒5。前走、初黒星を喫したソダシが再び勝利し、秋に弾みをつけた。

各馬短評

1着 ソダシ

大外枠からのスタートだっただけに、外々を回り、結果、なし崩しに脚を使わされることが最大の懸念材料だった。しかし、好スタートを切り、1コーナーで単独2番手を確保した時点で、ほぼ勝負あり。

斤量差が大きかったにしても、キレないものの長くいい脚を使えるという、ソダシ最大の武器を発揮できたことも勝因。スタートから、特に勝負所となった4コーナーまで、吉田隼人騎手が完璧なエスコートを見せての完勝だった。

2着 ラヴズオンリーユー

斤量差も大きかったが、十分に見せ場を作ったといえる内容。香港のGⅠを勝ったことからも、年齢を重ね、おそらく持続力タイプに変身している。

国内では、根幹距離よりも非根幹距離で力を発揮し、このあとのアメリカ遠征が実現した際も、よほどのトラブルがない限り、好勝負が期待できるのではないだろうか。

3着 ペルシアンナイト

7歳になっても、2頭の牝馬を相手に互角の勝負を見せ、ブラストワンピースやウインキートスには先着してみせた。前年に続く好走で、叩き良化型なところも相変わらず。札幌記念とハービンジャー産駒は切っても切れない関係で、来年以降も常に警戒する必要がある。

レース総評

前半1000mが59秒9で、後半が59秒6とほぼイーブンペース。ブラストワンピースが先頭に並びかけた残り800mからペースが上がり、そのままほぼ一定のラップ(11秒7~11秒9)でゴールに到達。ネオリアリズムが勝利した2016年を除き、近年の札幌記念はすべてこういった傾向になっている。

それゆえ、長く良い脚を使える持続力タイプが強く、このレースを選択した時点で、ソダシの優位性は、かなり大きかったのかもしれない。

そのソダシの父と、2020年の勝ち馬ノームコアの母の父は、ともにクロフネ。クロフネ産駒は、これが2000m以上の芝の重賞初勝利となったが、他に、2014年3着馬のホエールキャプチャも同産駒。

さらに、2018年の勝ち馬で、2019年2着のサングレーザーの母の父は、クロフネの2代父デピュティミニスター。さらにさらに、2018年の2着馬マカヒキの母の父は、クロフネの父フレンチデピュティ。

クロフネ、フレンチデピュティ、デピュティミニスターなど、ヴァイスリージェントの血を持つ馬や、前述したハービンジャー産駒は、来年以降も好勝負必至とみて間違いなさそう。

今回、初対戦で古馬を撃破したソダシの次走はどこになるだろうか。

秋華賞だとすると、2021年は、阪神内回りの2000mで行なわれる。超ハイペースになったときや、フルゲートの外枠に入ったときは心配だが、基本的には、長く良い脚を使うソダシに向いた展開になりそう。

そもそも、3歳夏に古馬混合のGⅡを勝利し、なおかつGⅠ2勝を含む重賞5勝を挙げた3歳牝馬など過去に存在しない。実力でも、既に過去の名牝たちと肩を並べる活躍を見せており、この先どれほどの強さを見せていくか、楽しみは尽きない。

写真:三木俊幸

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