[重賞回顧]黄金タッグが3年ぶりの重賞勝利で出世レースを制覇~2022年・シンザン記念~

2010年以降に誕生した三冠馬は6頭。そのうちの半分にあたる3頭が出走したシンザン記念は屈指の出世レースとなり、2021年の覇者ピクシーナイトも、3歳馬としては14年ぶりにスプリンターズSを勝利した。

京都競馬場の改修工事の影響により、2022年も中京競馬場での開催。出走馬は15頭で、単勝オッズ10倍を切ったのは、ノーザンファームが生産した3頭。その中で、少し抜けた1番人気に推されたのが牝馬のラスールだった。

父は、この世代が初年度産駒となるキタサンブラックで、半兄にGⅡ・3勝のシャケトラがいる良血。前走の新馬戦を勝利した際、騎乗したルメール騎手が「第二のグランアレグリア」と絶賛したため、キャリア1戦1勝ながら、重賞の舞台でも大きな注目を集める存在になっていた。

やや離れた2番人気にソリタリオ。デビューから連続2着と勝ちきれなかったものの、3戦目で初勝利。さらに、今回と同じ舞台で行われたこうやまき賞も勝利して現在2連勝中。父はモーリスで、同馬の産駒は、2021年の当レースでも1、2着を独占しており、血統面からも期待されていた。

僅差の3番人気に続いたのがレッドベルアーム。デビュー戦で、後にGIのホープフルSを勝利するキラーアビリティに完勝したものの、前走の東京スポーツ杯2歳Sは5着。ただ、半兄のレッドベルジュールとレッドベルオーブは、共にマイルの重賞デイリー杯2歳Sを勝利した実績があり、距離短縮で巻き返しなるかに注目が集まっていた。

レース概況

ゲートが開くと、ウナギノボリとジャカランダが出遅れ。ラスールも立ち後れてしまった。

一方、先手を取ったのはシーズザデイで、1馬身差でジャスティンヴェル。さらに1馬身差の3番手を、モズゴールドバレルとマテンロウオリオンが並走していた。

上位人気馬では、ソリタリオが中団前の7番手につけ、その直後まで盛り返したラスールが8番手。その1馬身後ろを、レッドベルアームが追走していた。

前半の600mが35秒2で、800m通過は47秒0。ペースは、平均よりほんの少し遅く、先頭から最後方までは、およそ12~3馬身の差だった。

迎えた、勝負所の3~4コーナー中間。逃げるシーズザデイにジャスティンヴェルが並びかけ、3番手を並走する2頭にセルバーグが加わる。そして、前の10頭ほどが一団となって4コーナーを回り、レースは最後の直線勝負を迎えた。

直線に入ると、逃げるシーズザデイの内からマテンロウオリオンが抜け出して先頭。1馬身のリードを取った。2番手に上がったソリタリオが懸命に追い、残り150mで、上位争いはこの2頭に絞られる。

その後ろは、粘るモズゴールドバレルに、内からビーアストニッシド。そして、外からレッドベルアームが迫り、3番手争いは3頭が横一線となった。

一方、前はマテンロウオリオンとソリタリオのマッチレースが続くも、最後はマテンロウオリオンがクビ差粘りきって1着でゴールイン。2着にソリタリオが入り、ビーアストニッシドにハナ差先着したレッドベルアームが、大接戦の3着争いを制した。

良馬場の勝ちタイムは、1分34秒1。未勝利ながら、前走1勝クラスの万両賞を制したマテンロウオリオンが、対照的なレース運びで連勝。重賞初制覇を達成した。

各馬短評

1着 マテンロウオリオン

直線一気を決めた前走と打って変わって、今回は3番手を追走。返し馬からかなりやる気になっていたそうで、抑えるのが難しいと判断した横山典弘騎手が、馬の気持ちを優先して先行。結果、見事勝利に結びつけた。そういった点からも、今後の課題は気性や折り合いということになるだろうか。

父は、2・3歳限定重賞、そしてマイル戦に強いダイワメジャー、2代母は2001年のオークスを制したレディパステルという良血。同じ父を持つセリフォスとの対決も楽しみになった。ダイワメジャー自身は、年が明けて21歳となったが、出来るだけ長く産駒の活躍を見たいと思うファンは、決して少なくないはずだ。

2着 ソリタリオ

スタートでほんの少し出遅れ、勝ち馬とは通ったコースの差もあって2着に惜敗。それでも、重賞で通用する能力を十分に見せつけた。

3代母がフサイチエアデールで、同じ一族からは近年、ノームコア、クロノジェネシス姉妹が出るなど、勢いのある血統。父モーリスは、これで2年連続連対馬を送り出したことになり、2023年のシンザン記念にも出走馬がいれば注目したい。

3着 レッドベルアーム

前走はやや行きたがり直線で伸びを欠いたが、今回は問題なく、むしろ序盤は川田騎手が少し促していたようにも見えた。

ハーツクライ産駒で、前2頭との差は、現状の完成度の差か。伸びしろは大きいはずで、本当に良くなるのは、まだもう少し先になりそう。

レース総評

前半800m通過が47秒0で、後半800mは47秒1とほぼイーブン。

ラップタイムが最も遅いスタート直後の200mと(12秒6)、最速となるその次のラップを除くと(11秒1)、その他の6ハロンはすべて11秒5から12秒0。中京コースらしい、持久力が求められるレースとなった。

上位は、多くが中団より前でレースを進めていた馬。それだけに、中団やや後方から差を詰めたレッドベルアームの末脚は見所があったが、次走も確実に上位を目指せるかといわれれば、そうともいえない。

断然の1番人気に推されたラスールは、やや出遅れ。序盤で挽回したものの、直線伸びを欠き7着に敗れた。1戦1勝の牝馬で、関東からの遠征。結果論になるが、過剰人気になってしまった部分もある。

一方、勝ったマテンロウオリオンは、前走も横山典弘騎手が騎乗した昆調教師の管理馬。過去3年、横山典弘騎手に騎乗依頼が多いのは圧倒的に昆調教師で、勝利数も同師とのコンビが最多。これまでも、アンジュデジールで2018年のJBCレディスクラシックを制し、ミスパンテールで重賞を4勝。黄金タッグと呼べるような組み合わせで、このコンビではおよそ3年ぶりの重賞制覇となった。

最近は、栗東に滞在中の横山騎手。通ったコースもレースの勝敗を分けたが、前走からの継続騎乗で馬の特徴を把握していた点や、日頃から調教師とコンタクトを取り続けていることが、最後の接戦を制する微差に影響したといっても過言ではないだろう。

写真:俺ん家゛

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