[重賞回顧]進化止まらぬ、新時代の、真のステイヤー~2022年・宝塚記念~

ファン投票で出走馬が決まる宝塚記念は、「上半期の総決算」とも呼ばれるドリームレース。しかし、その華やかさとは裏腹に、波乱の決着となることも少なくない。

その要因として挙げられるのが施行条件。阪神の芝2200mは、内回りを使用するため直線も短く、多くのGIが開催される東京競馬場とは対照的なコース設定となっている。それに加え、梅雨の時期と重なって馬場が悪化。結果、思いどおりに実力を発揮できなかった馬が、これまでにも数多くいた。

ただ2022年は、前年と同様、開催2週目に行なわれ、土曜日に多少の降雨はあったものの馬場状態は良好。そこへ、GI馬5頭をはじめとする18頭が顔を揃え(最終的には、17頭が出走)、高いレベルの混戦になることが予想された。

その中で5頭が単勝オッズ10倍を切り、ファン投票第2位のエフフォーリアが1番人気に推された。

2021年は、皐月賞、天皇賞・秋、有馬記念とGIを3勝。唯一破れた日本ダービーでもハナ差の2着とほぼ完璧な成績を収め、文句なしに年度代表馬のタイトルを受賞。充実の1年を過ごした。ところが、今季初戦の大阪杯では、見せ場すら作れず9着と大敗。復活と名誉挽回を期して、このレースに挑んでいた。

2番人気に推されたのが、史上最多得票を獲得し、ファン投票第1位に選出されたタイトルホルダー。菊花賞を5馬身差で逃げ切り、馬名のとおりビッグタイトルを獲得すると、有馬記念5着を挟んで、今季は日経賞と天皇賞・春を連勝。特に、天皇賞・春は2着に7馬身差をつける歴史的圧勝で、GI連勝なるかが期待されていた。

3番人気に続いたのが、ファン投票第8位のディープボンド。GIは未勝利ながら、天皇賞・春は2年連続で、有馬記念でも2着に惜敗しており、阪神大賞典連覇と、仏国のフォワ賞を制した実績を合わせれば、いつタイトルを獲得してもおかしくない。阪神内回りは得意の持久力勝負になることが多く、悲願のGI制覇を目指していた。

4番人気は、ファン投票第7位の5歳牝馬デアリングタクト。3歳時には、初めて無敗の三冠牝馬に輝き、史上最高レベルといわれたジャパンCでも3着と好走。いっそうの飛躍が期待されたものの、その後、繋靱帯炎を発症し、長期の休養を余儀なくされた。それでも、久々の実戦となったヴィクトリアマイルは、勝ち馬から0秒5差の6着とまずまずの内容。完全復活と、4度目のGI制覇が懸かっていた。

そして、5番人気に推されたのが6歳牡馬のヒシイグアス。ベテランとはいえ、まだキャリア14戦と大切に使われており、GI勝ちこそないものの重賞を2勝。年末の香港Cでも、勝ち馬と同タイムの2着に惜敗しており、この馬もまた、待望のGI勝利が懸かっていた。

レース概況

発走直前にオーソリティが競走除外となり、スタート地点に立ったのは17頭。ゲートが開くと、目立った遅れはなく、僅かにタイトルホルダーが好スタートを切った。

一方、逃げると予想されたパンサラッサは、スタート直後に少し挟まれる不利。それでも、吉田豊騎手が押してハナを主張し、ゴール板を通過したところで先頭に立った。

この2頭を見る形で、ウインマリリン、ディープボンド、アフリカンゴールドの3頭が横並びに。その後ろをヒシイグアスとギベオンが並走し、マイネルファンロンを挟んで、エフフォーリアは、ちょうど真ん中の9番手。そこから1馬身半差の10番手にデアリングタクトがつけ、上位人気5頭は、いずれも中団より前に位置していた。

1、2コーナー中間からリードを広げ始めたパンサラッサは、1000mを57秒6のハイペースで通過。2番手のタイトルホルダーとは5馬身の差があり、最後方のアリーヴォとは、優に20馬身以上の差がついていた。

それでも、3コーナーに入ると各馬が仕掛け始め、中でも、ディープボンドの和田騎手は、いつものように手綱を激しく押す。さらに、残り600mを過ぎたところで、今度は横山武史騎手が懸命に手綱を押しエフフォーリアを促すも、なかなかポジションを上げることが出来ない。

一方、勝負圏内にいる馬で、ひときわ目立つ手応えだったのが、終始先団のインに位置していたヒシイグアス。4コーナーでポジションを1つ上げて前を射程に入れ、最後の直線勝負を迎えた。

直線に入ると、すぐにタイトルホルダーが先頭に立ち、坂下でリードは2馬身。追ってきたのは、ヒシイグアス、ディープボンド、マイネルファンロン、デアリングタクトの4頭で、坂の途中で、ヒシイグアスが単独2番手に上がった。

しかし、タイトルホルダーの末脚は一向に衰えず、坂を駆け上がってからは同じ脚色に。結局、2馬身の差は最後まで詰まらず、危なげなく押し切ったタイトルホルダーが1着でゴールイン。2着にヒシイグアスが入り、最後の最後でディープボンドをかわしたデアリングタクトが、2馬身差の3着に続いた。

良馬場の勝ち時計は、2分9秒7のコースレコード。タイトルホルダーが、ハイペースを2番手追走から押し切る強い内容で、3つ目のビッグタイトルと日本一の座を奪取。秋の海外遠征に、期待を抱かせる勝利を収めた。

各馬短評

1着 タイトルホルダー

ハイペースを2番手で追走し、自身の1000m通過も、おそらく58秒台前半という厳しい流れ。それでも、2着に2馬身差。3着には、さらに2馬身差をつける完勝だった。

古馬の王道ともいえる、天皇賞・春→宝塚記念の臨戦過程。タマモクロス、ビワハヤヒデ、テイエムオペラオーなど、数多くの名馬がこの2レースを連勝してきた。しかし、近年はローテーションが多様化し、大阪杯もGIに昇格。天皇賞・春と宝塚記念を連勝したのは、あのディープインパクト以来、実に16年ぶりの快挙だった。

2着 ヒシイグアス

中枠からスタートしたものの、1コーナーに入る前に好位のインを確保。こういった点は、いかにも海外のトップジョッキーらしいソツのなさで、道中もほぼ完璧にレースを進めていた。

その後、抜群の手応えで直線を迎え、2番手争いから抜け出して前を追うも、タイトルホルダーの粘り腰が、レーン騎手の想像のはるか上をいくものだった。

中山記念を勝ち、海外のレースでも好走しているように、非根幹距離の持久力勝負でこそ良さを発揮するタイプ。年末、再び香港に遠征するか有馬記念に出走すれば、勝ち負けする可能性は高い。

3着 デアリングタクト

長期休養明けの前走から、上積みが期待される叩き2戦目。勝利と完全復活は叶わなかったものの、3着に好走し見せ場を作った。

5歳牝馬で、これまでの実績からしても、あと数戦で現役生活を終える可能性は高い。完全復活を、勝利というドラマチックな形で飾ってほしいと願っているファンは、数多くいることだろう。

レース総評

前半1000m通過が57秒6。12秒1を挟んで、後半1000mが60秒0と、予想されたとおりの前傾ラップ。とはいえ、後方に構えていても上位進出は難しく、大前提として、GIで好勝負できるくらいの実力を備えていない馬には厳しいレース。結果、順番は入れ替わったものの、人気上位5頭が6着以内を確保した。

ハイペースで逃げたパンサラッサから、道中2~5馬身差の範囲内に位置していたタイトルホルダー。自身は、1000mを58秒前半で通過しており、それでも押し切って後続を2馬身突き離した内容は秀逸。さらなる飛躍はもちろんのこと、過去の最強馬たちと肩を並べるところまでいくかにも注目が集まる。

また、時計が出やすい馬場だったとはいえ、今回のタイトルホルダーがことさら素晴らしかったのは、中距離のスピード勝負に対応した点。3000m未満と3000m以上の両カテゴリーで古馬GIを制した馬は多数いるものの、そのうち3000m未満の古馬混合のレースでコースレコードを樹立した馬は、1999年のスペシャルウィークまで遡らなければならないほど。

タイトルホルダーが「真」のステイヤーであることは間違いなく、スピードとスタミナを非常に高いレベルで兼ね備えた、「新」時代のステイヤーなのかもしれない。

ところで、宝塚記念が終わると、毎年のように期待してしまうのが、日本馬の凱旋門賞遠征と勝利。タイトルホルダーの血統に目を向けると、母の父はモティヴェーターで、その代表産駒といえば、凱旋門賞を連覇したトレヴ。キングカメハメハ系の種牡馬は、母系の良さを引き出すことが多く、もし凱旋門賞出走が実現すれば、血統面でも後押しを期待できるのではないだろうか。

宝塚記念で2着に惜敗した直後、よもやの形で現役生活に別れを告げなければならなかった、父ドゥラメンテ。ちょうどその6年後、同じ日に同じ舞台で雪辱を果たした孝行息子が、いよいよ世界へと羽ばたいていく。

写真:かぼす

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