[地方レース回顧]黒、青袖、黄鋸歯形と武豊騎手の「夜想曲」~2022年・ジャパンダートダービー~

G1級競走の中で、夏の3歳頂上決戦に位置づけられるジャパンダートダービー。
帝王賞や東京大賞典でもおなじみの「グランプリコース」大井競馬場2000mで争われます。

昨年は仲野光馬騎手とキャッスルトップが乾坤一擲の激走を見せました。今年、その仲野騎手は同じオーナーのキャッスルブレイブで参戦。
東京ダービーを制したカイルは出走回避しましたが、同レース2着のクライオジェニック、3着リコーヴィクター、7着キャッスルブレイブと9着トーセンエルドラドが東京ダービーからの続戦で参戦します。別路線からはオープンの若竹賞を制したコスモファルネーゼが大井競馬所属の南関勢、更に兵庫ダービー馬バウチェイサーと高知優駿馬ガルボマンボが遠征してきました。

JRAからは海外で2走して帰国初戦のユニコーンステークス2着のセキフウ、そのユニコーンステークスを制したペイシャエス、兵庫チャンピオンシップを勝ったブリッツファングと2着ノットゥルノ、JBC2歳優駿の勝ち馬アイスジャイアント、鳳雛ステークスまで3戦無敗のハピ、そしてこれが初のダート挑戦となるコマンドラインが顔を合わせました。昨年とは異なり、少なくともオープンか重賞での入着が無いと参戦できないという、実績馬が多いメンバー構成。

昨晩からの雨で水の浮く不良馬場の中、馬場を踏みしめて各馬が飛び出していきました。

レース概況

最内枠のセキフウが1歩目で出負けし、大外枠のノットゥルノも躓きながらのスタート。
馬場の真ん中からブリッツファング、外からリコーヴィクター、バウチェイサー、コマンドラインが先団めがけてポジションを上げてきました。先行馬を前にやってペイシャエスは中団に。一歩目で出負けしたセキフウ、外から先行馬に進路を取られたハピは後方からの末脚勝負を選択します。

1コーナー入り口でリコーヴィクターが逃げ、2番手にブリッツファング、コマンドライン、ノットゥルノが2番手で並ぶ展開。バウチェイサーが5番手、ペイシャエスはインの6番手、その後ろにガルボマンボ、クライオジェニック、トーセンエルドラドがいて、後方集団にセキフウ、コスモファルネーゼ、キャッスルブレイブ、アイスジャイアントの順で続き、ハピは最後方から前の様子をうかがいます。

向こう正面、リコーヴィクターが少し掛かりながらペースを刻み、ブリッツファングとコマンドラインが2番手で並ぶ形に。その後ろで内からペイシャエス、バウチェイサー、ノットゥルノが3頭横並び、その後ろも内からトーセンエルドラド、クライオジェニック、ガルボマンボが横並びで、その後ろのコスモファルネーゼとセキフウまでひとかたまりで進みます。

3馬身ほど離れた位置にキャッスルブレイブがいて、ハピはこの辺りから馬群めがけて追走開始。アイスジャイアントには早くも鞭が入りますが進んでゆかず、殿で3コーナーへ。

3コーナー入り口、川田騎手が促しますがコマンドラインが進んでゆかず後退。先頭で手が動くリコーヴィクターの外から、待ってましたと言わんばかりにブリッツファングが進出開始、その外からノットゥルノも馬なりで上がってきます。
2頭の後方にはペイシャエスと中段から上がってきたクライオジェニック、更に最後方から一気に捲ってきたハピが唸る末脚でコーナーで先行馬群まで追いつきます。

直線ではブリッツファングが先に抜け出しをはかりますが、ノットゥルノが外からパワフルに追いこして先頭へ。後方から末脚勝負のペイシャエスとハピも突っ込んで来ましたが、3/4馬身差でノットゥルノが勝利。

最後までしぶとく追ってきたペイシャエスがゴール前わずかのところでブリッツファングを差して2着、ブリッツファングはこの2頭に交わされたものの3着を確保し、最後方一気で追ってきたハピは半馬身差の4着まででした。5着以下との着差は8馬身あり、上位4頭の実力が顕著な結果に終わりましたが、ペイシャエスと4コーナーで近い位置にいたクライオジェニックがコーナーで馬群から抜け出したことで5着を確保、東京ダービー2着の実力を見せました。

各馬短評

1着 ノットゥルノ

この馬の血統が素晴らしく、父ハーツクライ×母父アンブライドルズソングの組み合わせには、日本ダービー2着、その後ジャパンカップを制したスワーヴリチャードがいます。
更に母系にはストームバード、ダマスカスの名前が連なりますが、この点はハーツクライの代表産駒ウインバリアシオンと共通。ウインバリアシオン産駒はダートで4勝して南関に移籍したドスハーツや、道営記念2着のオタクインパクトなどダート戦の活躍馬が多く、血統構成は芝でもダートでも走る下地がありました。

ノットゥルノ自身は芝の新馬戦、未勝利戦では結果が出ず、ダートに戦場を移してからは4戦して全て連対、前走の兵庫チャンピオンシップでは小回りコースで馬群を捌く間にブリッツファングに離されてしまいましたが、今回は大外枠で閉じ込められることもなく、ブリッツファングをきっちり射程圏に入れた競馬での勝利でした。

今日の場体重が526キロとかなりの大型馬なので、小回りコースや内枠で馬群を捌くレースには課題がありそうですが、今日のような広いコースの外回りであれば、今後ものびのびと走ってくるでしょう。

ノーザンファームや社台ファームからセレクトセール中心に購買する金子真人HD名義の競走馬では現役唯一の下河辺牧場生産馬。4,730万円とオーナーの所有馬としては比較的リーズナブルな馬でダービー競争を制してしまうのですから、「日本一の相馬眼」にも驚くばかりです。

2着 ペイシャエス

菅原明良騎手は昨年カラテとのコンビで東京新聞杯を制覇すると今年はオニャンコポンとのコンビで京成杯を制覇しクラシックにも参戦、ペイシャエスも菅原騎手らしい「思い切りの良さ」でユニコーンステークスを制覇して、ダートのダービーへの挑戦権を獲得しました。

前走ではハイペースの中先行集団で追走し、直線では外に出さず最内を攻め、インコース後方から伸びて来たセキフウと併せ馬に持ち込んでの勝利、今回も最後の直線で外から来たハピ、内にいたブリッツファングを最後まで追いかけるレース展開がこの馬の闘志に火をつけたように見えます。

インタビューで菅原騎手は「終わってみれば、強気に動いていれば着順は変わっていたかもしれません」と話していますが、ノットゥルノに余力があったことを考えると勝ち負けまでは難しかった気もします。それでも有力どころ2頭を負かして、前走の勝利がフロックでは無かったことを示したのですから、菅原騎手の騎乗は素晴らしいと言えるでしょう。

今後重賞戦線で戦えるお手馬が増えることで経験値を重ねれば、ビックタイトルに手が届くはずです。

3着 ブリッツファング

レース展開に乗るのが上手で今回も逃げ馬を行かせて先行策から勝ちに行く競馬を選んだブリッツファング。
大勝負にめっぽう強い池添騎手が主戦で、前走はノットゥルノに8馬身差をつける圧勝でした。

スタート直後にハナを狙う馬たちを気にしつつ、1コーナーまでに2番手の先行ポジションを早々に確保し、いつでも抜け出せるポジションを確保。兵庫チャンピオンシップを勝ったときと同じパターンで4コーナーまでロスなくレースを運び、勝ちパターンには持ち込めました。

しかし、今回はノットゥルノもロスがない競馬をしたことに加えて、終始ブリッツファングの後ろを回ってきたペイシャエスのしぶとい末脚にも差されてしまい3着まで。

広い大井コースの方が向いたノットゥルノとは対照的に、ブリッツファングは先行抜け出しの競馬が決まりやすい小回りコースでのレースの方が向いているように見えました。最序盤に位置を取りに行ってもしっかり折り合える馬なので、レースでの安定感はこのメンバーでも1番でしょう。

4着 ハピ

3戦無敗でビッグタイトルへ挑戦、前走差し切ったタイセイドレフォンとセイルオンセイラーが古馬相手の2勝クラスを勝ち上がり、鳳雛ステークスのレベルの高さを証明したハピ。
スタートで外から先行馬に進路を遮られてしまい、後方からの競馬を余儀なくされますが、向こう正面から押して4コーナーを捲る末脚を見たときには「まとめて差し切るのでは」と期待感を抱かせてくれました。

馬場の影響もあって先行していた組が止まらず、追込で4着まででしたが、アタマが低く推進力のあるフォーム、黒光りする馬体は父のキズナを彷彿とさせるかっこよさがありました。

5着以下は8馬身離していますし、上りもこのメンバーで最速を出しているので、今回の敗因は展開ひとつに尽きるでしょう。鳳雛ステークス組と同様に条件戦に行けばすぐに勝ち上がれるでしょうし、引き続き重賞で見たい馬です。また、負けはしたものの、藤岡佑介騎手との末脚勝負のレースは向いていると思います。

レース総評

日本ダービーをドウデュースで、そしてジャパンダートダービーをノットゥルノで制した武豊騎手。
同一年の日本ダービーとジャパンダートダービーのWダービー制覇は歴代3度目。過去には、2003年のタニノギムレット&ゴールドアリュール、2005年のディープインパクト&カネヒキリが達成していますが、その背中にも武豊騎手の姿がありました。
つまりは、Wダービー同一年制覇は武豊騎手以外の達成者がいない唯一無二の記録なのです。

また、おなじみの金子真人HDの勝負服で武豊騎手がG1級競走を勝ったのは、なんとディープインパクトの有馬記念以来とのこと。これも長きに渡りJRAのトップ騎手であり続ける武豊騎手でしか達成できない記録ですね。
前回のWダービー達成時のパートナーはどちらも金子真人オーナー所有、カネヒキリがこのレースを制した日が2005年の7月13日でした。

昨年に引き続いて人気どころが敗れ、ドラマチックな結果で終わったジャパンダートダービー、今後本格的に3歳ダート3冠路線が整備され、強豪ひしめき合うレースが続くことが期待されますが、その中でどんなドラマが私たちを待っているでしょうか。

このレースに出走した各馬がそれぞれの舞台に戻り、それぞれの地の一線級として、さらなる活躍をしていく姿も見たいですね。

写真:shin 1

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