[重賞回顧]’奇跡’から'必然'への道程〜2022年・府中牝馬S〜

毎日王冠・京都大賞典も終わり、ここから秋のG1競走が3週連続で開催される。その第一弾目は秋華賞。仁川で走る夏を超えた女達の戦いが開かれる10月の3週目──その前日には古馬牝馬の戦い、府中牝馬Sが行われる。この先迎えるエリザベス女王杯のトライアルレースであると同時に、それ以降のレースを見据える馬達にとっても重要な一戦である。

今年は白毛の女王、ソダシが参戦。マイルCSを大目標に備える白き馬体は、このレースはあくまで叩きだろうか。ただそれでも、春の府中で見せたあの強さは鮮明に我々の脳裏に刻まれており、1ハロン伸びたとはいえ断然の1番人気に支持されていた。

離れた2番人気にサトノセシル。クイーンSで2着に追い込み、勝ったテルツェットに肉薄したその末脚と実力が評価されたか7.7倍に推されていた。鞍上にもクリストフ・ルメール騎手を据え、この後に控える牝馬戦線へ向けて盤石の体制。

それに追随する形で3番人気に推されていたのが前年の秋華賞でも3着と好走したアンドヴァラナウトで、こちらはヴィクトリアマイル以来の実戦。ヴィクトリアマイルでは14着と大敗したものの、前年のこの時期に好走を重ねている事などから8.3倍の上位人気となった。

一桁台のオッズはここまでで、それ以降はオッズが割れる混戦模様。ヴィクトリアマイルであわやの4着に逃げ切りクイーンSでも3着に逃げ粘ったローザノワールや、すでに何回も波乱の立役者になっているクリノプレミアム、昨年の覇者シャドウディーヴァ、エリザベス女王杯で勝利したアカイイトなど、混戦模様になるのも納得の牝馬達が顔を揃えていた。

レース概況

各馬ほぼ揃ったスタートとは言え、前を取りたかったローザノワールが若干出負けする形に。好スタートを切ったライティア、そして内からソダシも前へと付けていく。ソダシはやや行きたがる素振りを見せていたものの、名コンビ吉田隼人騎手がなだめるように手綱を絞ってすんなり2番手に落ち着いた。

そしてその外から鞭も叩いてローザノワールと田中勝春騎手が春の再現を狙うべく先頭へ。4.5番手に落ち着いたソダシの周りにはアブレイズ、リアアメリア、クリノプレミアム、サトノセシルらが付ける。

その後ろ、インの経済コースぴったりにアンドヴァラナウトと福永祐一騎手がつけ、妹を見るかのように真横に全姉ゴルトベルク。イズジョーノキセキがそれを見るようにラヴユーライヴ、ホウオウピースフル、クールキャット共に進めていき、離れた最後方集団にピンクの帽子・アカイイトとシャドウディーヴァが虎視眈々と仕掛けるタイミングを見計らっていた。

1000m通過は57.9。

とはいえ加速をつけたローザノワールが引っ張るその流れは、時計以上に流れるペースを作り出していたようだった。直線に向いたところで、春に突き放したはずの粘りはローザノワールに無く、既に手応えは怪しい。2番手追走から気合をつけたライティアが捉えに行ったその瞬間、先団から中団馬群に位置していた馬達が殺到。その中、一際目立つ白き馬体も仕掛けを開始し、あっという間に抜け出すかに思えた。

しかし、内からアンドヴァラナウトがソダシに急襲。簡単には抜けさせまいと福永祐一騎手のアクションに応え、ソダシを追い詰める。更に外からはアブレイズもこの争いに加わり、脱落するかに見えたライティアも火がついたか末脚を伸ばす。

残り100m、彼女らの猛追を全て競り落としてソダシは抜け出す。ヴィクトリアマイル同様、このまま決まるか──。

刹那、最後の矢が後ろから飛んでくる。

乾坤一擲、岩田康成騎手の激しい激励に応えて確実に脚を伸ばしてきたイズジョーノキセキが、競り合いを繰り広げた彼女らもまとめて飲み込んで白い馬体に襲いかかる。

その末脚は、最後アタマ差、確実にソダシを下していた。

渾身のガッツポーズが、岩田騎手から出た。

上位入線馬と注目馬短評

1着 イズジョーノキセキ

長い間重賞戦線にも顔を出しながら条件戦で鍛え抜かれていた淑女が、ついにその花を開かせた。

元々、2歳時からマルターズディオサやシャインガーネット等、のちに重賞の常連となる馬達と好勝負を繰り広げ、昨年のエリザベス女王杯でも『もしや』の末脚を見せていただけに、12番人気のこの評価はやや実力を低く見積もられていた感はある。それに反発するかのような末脚を最後まで伸ばし切っての重賞初制覇だった。

父エピファネイアにとっても、2021年の有馬記念をエフフォーリアが制して以来となる重賞制覇。イズジョーノキセキ以外にも本格化し始めたジャスティンカフェやスカイグルーヴ、そして王者格のデアリングタクトとエフフォーリアも控えていて、この後のG1戦線でも産駒の活躍は益々期待できる。

2着 ソダシ

絶対的な人気を集めていた彼女だが、結果は2着。最後の最後に差し切られたその瞬間、東京競馬場のスタンドから悲鳴も上がっていたように、その期待度はかなりのものだったろう。

それでもワンターンの競馬はやはり合う。2歳時には札幌2歳Sでユーバーレーベンを突き放してはいたが、歳を重ねた今、やはりベスト距離はマイルか。ひと叩きして臨むマイルCSに改めて期待したい。

3着 アンドヴァラナウト

一瞬、抜け出しにかかったソダシを交わさんとばかりに内から急襲したアンドヴァラナウトは3着。+14キロだったとは言え、夏を越した成長分と捉えて問題はなかった。

昨年のこの時期にローズS、秋華賞と勝利、好走を続けていただけに、秋のこの時期は走るのだろうか。来月、仁川の舞台で走るのであれば改めて注意が必要な1頭かもしれない。

総評

勝利したイズジョーノキセキの馬主、泉一郎氏と管理する調教師石坂公一はこれがJRA重賞初勝利。泉一郎氏は岩田騎手と園田時代から縁があり、勝負服も自身の地方時代と同じデザインを使っているほどの仲。恩師とも言える人物に、女王撃破で大金星をプレゼントする形となった。

イズジョーノキセキ自身も、これまでOP戦で見せていた惜敗の鬱憤を晴らすかのように、見事な差し切り勝ちを決めてみせた。次走はエリザベス女王杯を予定。前年惜しくも敗れたその舞台で、借りを返すことはできるかどうか。成長を遂げた淑女の更なる活躍に期待したい。

また、2着以降の馬達でも流れるペースの中前目から残ったソダシは勿論、最後まで粘ったアブレイズ、ライティアらは次走以降も注視するべき存在であろう。アブレイズは天皇賞秋にも特別登録しているため、強豪ぞろいの相手にはなりそうだが注目してみてみたい。

菊絵巻、天皇盾と続くG1ロード、そしてその向こう側にあるエリザベス女王杯での戦い。蹄音は確かに聞こえてくる。

写真:shin 1

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