JRAのダート重賞を締めくくるカペラS。意外にも、ダート1200mで行なわれるJRA重賞はカペラSのみだが、この路線の頂点に位置するJBCスプリントとは密接な関係にある。
というのも、直近7年のJBCスプリント勝ち馬のうち、6頭が過去カペラSに出走。直近でも、2021年のカペラSを勝ったダンシングプリンス、2着リュウノユキナが、22年のJBCスプリントでもそのまま1、2着を独占している。
一方、11月末にJRAとNARからダートグレード競走の大改革案が発表され、24年からさきたま杯がJpn1に昇格することが決定した。この路線における上半期の総決算的な位置づけとなり、カペラSがJBCスプリントだけでなく、さきたま杯にも直結するレースになるのか。今後が注目されるが、そんなダート短距離界の出世レースに、今年もまたこの路線の王者を目指す16頭が集結した。
その半数以上が、前走連対を果たしている好調馬で、一時は8頭が単勝10倍を切る大混戦(最終的には6頭)。その中で、リュウノユキナが1番人気に推された。
地方ホッカイドウ競馬でデビューし、3歳秋、中央に転入した本馬。当初は芝のレースで苦戦が続くも、転入後初のダート戦を快勝すると、1年後に3勝クラスを卒業。さらに1年後、オープンを初めて勝利した。ただ、そのジャニュアリーSが2着に6馬身差をつける圧勝で、以後本格化し、そこから13戦4勝2着7回3着1回と素晴らしい成績。前走のJBCスプリントも2着に惜敗するなど実績は一枚上で、大きな注目を集めていた。
これに続いたのが3歳馬リメイク。16年のUAEダービーを制したラニの初年度産駒で、ここまで重賞勝ちこそないもののオープン特別を2勝している。前走は、交流重賞のオーバルスプリントに出走し、古馬との初対戦でいきなり2着に好走。先日、調教師試験に合格し、2月に引退が決まった福永祐一騎手と引き続きコンビを組み、初のタイトルを狙っていた。
3番人気に推されたのはアティードで、こちらも地方競馬デビュー組。大井で11戦3勝の実績を残し中央に移籍すると、わずか5戦でオープン入りを果たした。前走のオータムリーフSはスタート直後に落馬、競走中止となったものの、2走前には当コースで完勝しており、仕切り直しの一戦で重賞初制覇が期待されていた。
そして、わずかの差で4番人気となったのがクロジシジョー。4走前の端午Sではリメイクに先着を許すも、そこから条件戦を連勝してオープンに昇級すると、前走の大阪スポーツ杯でもいきなり2着と好走した。重賞初挑戦とはいえ、端午S7着以外ダート戦ではすべて掲示板を確保しており、この馬もまた重賞初制覇をかけての出走だった。
以下、昨年の当レースで3着に好走したオメガレインボー。前走の室町Sで、実に2年10ヶ月ぶりの勝利をあげたエアアルマスの順で人気が続いた。
レース概況
ゲートが開くと、ほぼ揃ったスタートからカルネアサーダがわずかに好発を切るも、想定されていたとおり先行争いは激化。芝とダートの切れ目では6頭が横一線となり、その中からハコダテブショウが先手を取った。
これに続いたのがヤマトコウセイで、以下ヒロシゲゴールド、シンシティ、カルネアサーダ、ジャスティンまでの6頭が先行集団を形成。そこから4馬身差の位置にリュウノユキナがつけ、ピンシャンとジャスパープリンスをはさんで、オメガレインボーは10番手。さらに3馬身差でリメイク、クロジシジョーと続き、アティードは後ろから2頭目を追走していた。
前半600m通過は32秒2で、猛烈なハイペース。前から最後方のエアアルマスまではおよそ17、8馬身差で、かなり縦長の隊列となった。
その後、先行集団の中ではジャスティンが3番手に上がり迎えた直線。ハコダテブショウがスパートして後続を引き離しにかかり、坂上まで懸命に粘るも、さすがにハイペースがたたったかここで失速。かわってジャスティンが先頭に立つと思われたが、大外からリメイクがまったく違う勢いで突き抜け、後続を一気に突き放した。
一方、2番手争いは、リュウノユキナがジャスティンに襲いかかり、そこへオーヴァーネクサスとオメガレインボーが加わるも、そのはるか前でリメイクが先頭ゴールイン。4馬身差の2着にリュウノユキナが入り、アタマ差でジャスティンがこれに続いた。
良馬場の勝ちタイムは1分8秒9。2ヶ月半ぶりの実戦となったリメイクが、衝撃の末脚で圧勝。父ラニに産駒初のJRA重賞制覇をプレゼントした。
各馬短評
1着 リメイク
焦らず騒がずマイペースで、中団やや後方を追走。直線入口でも前との差はかなりあったが、すぐにエンジン全開となり、坂上で先行集団が失速すると、一気に突き抜けて勝負を決めた。
超ハイペースで流れていたからこその圧勝で、着差を鵜呑みにして、即GI級の能力があるとは断言できない。ただ、前述したとおりカペラSはJBCスプリントと関連のあるレース。23年に同レースが行なわれるのは直線が長い大井競馬場で、この馬の末脚が活かせそうな舞台。かなり先の話にはなるが、再びの好走も十分可能とみている。
2着 リュウノユキナ
先行集団を前に見て中団7番手を追走したが、この位置でもまだ早かった。とはいえ、今回は相手が悪かったといえる内容で、十分に強さを見せている。
まもなく8歳となり、昨年のクラスターCを制して以降は9戦2着7回3着1回と勝ちきれないが、まだまだ元気いっぱい。現役最年長、柴田善臣騎手との大ベテランコンビで、念願ともいえるGI初制覇の瞬間を見てみたい。
3着 ジャスティン
超ハイペースを5番手で追走し、さらに4コーナーでは3番手まで上昇。最後は突き放されてしまったが、それでも3着に粘り込む好走で、展開を考えれば勝ち馬と同じくらい強い内容だった。
2年前の覇者で、こちらもまもなく7歳になるベテラン。今回は3番枠から好走したが、理想は外枠のはず。ダートグレード競走はもちろん、枠順に恵まれれば中央のレースでもまだまだ好走可能ではないだろうか。
レース総評
前半600m通過は32秒2で、同後半が36秒7=1分8秒9。その差、実に4秒5という超前傾ラップで、この前半600m通過32秒2は、しっかりとしたデータが残っている1986年以降では、ダート1200mの史上最速ペースだった。
また、32秒5以下に範囲を広げても過去3例しかなく(芝1200mでも年に1~2レースしかない)、いずれも稍重か重馬場で行なわれたレース。一方、今回は良馬場で行なわれており、いかに速いペースだったかがわかる。
その激流を生み出し、見た目にもさほど無理なく逃げているように見えたハコダテブショウは、前走このコースでJRAレコードをマークした馬。今後も、当コースに出走してきたときはもちろんのこと、新潟の直千競馬に出走することがあれば狙ってみたい。
一方、勝ったリメイクの父はラニで、これが産駒のJRA重賞初制覇。その父は米国を代表する大種牡馬タピットで、母は05年の天皇賞・秋を制したヘヴンリーロマンス。さらに半兄アウォーディーと半姉アムールブリエは、ダートグレード競走をそれぞれ5、6勝した超のつく良血馬である。
そのラニは現役時17戦3勝で、超一流の成績を残したとはいえないものの、日本調教馬として初めてUAEダービーを制覇。また、初めてアメリカのクラシック三冠レースにすべて出走するなど(ベルモントSでは3着)の偉業を成し遂げている。
また、ラニの好走によって日本調教馬に注目が集まり、ケンタッキーダービーを主催するチャーチルダウンズ社とJRAが提携。同レースの出走馬選定シリーズ、JAPAN ROAD TO THE KENTUCKY DERBYが創設された。
一方、放馬して自身に絡んできた馬に対し、蹴りを入れて撃退。恐怖心を抱いた相手には吠えまくって威嚇(米国では「ゴジラ」と呼ばれていた)。馬っ気がすごい。スピードに乗るまで時間がかかるため、場合によってはレース中盤から鞍上が追い通しになるなど、ラニは個性的な性格の持ち主でもあった。
それだけに、リメイクをはじめとした産駒が難なく短距離をこなし、重賞初制覇の舞台がスプリント戦だったことに驚きを禁じ得ないが、初年度は118頭だった種付け頭数も年々減少。22年はわずか10頭にまで落ち込んでしまったが、今回の結果を受けて23年の種付け頭数はもう少し増えるのではないだろうか。
記録よりも記憶に残る名馬ラニ。その血が繋がっていくことを願わずにはいられないような、リメイクの圧倒的かつ規格外の勝利であった。
写真:かぼす