[重賞回顧]賭けの一手が道を開く!翼を広げたニュースター〜2023年・フェアリーS〜


有馬記念・東京大賞典が終わり、各世代・各路線のチャンピオンホースが集った激闘は幕を閉じ、2022年の競馬は締めくくられた。だが、息つく間もなく2023年の競馬は幕を開ける。

1月5日の東西金杯が終わったかと思えば、すぐに3日間開催がやってくる。今年も、西ではシンザン記念、東ではフェアリーSと、クラシック戦線を占ううえで重要なレースが続いた。

昨年末の阪神ジュベナイルフィリーズと朝日杯フューチュリティステークス、ホープフルSで世代の王者は決まったとはいえ、まだ暫定的。ここから新たな新星が誕生してくる可能性も十分にある。

東のフェアリーSは伝統の牝馬重賞。2009年にそれまでの1200m戦から1600mに距離が延長され、施行時期も1月に移動。昨年のこのレースで2着に敗れたスターズオンアースはのちのクラシック2冠牝馬に輝き、それ以前にも勝利したスマイルカナ・ファインルージュなどがクラシック戦線やマイル路線で活躍を遂げていたことから、近年は牝馬クラシックの登竜門的ポジションになりつつある。

だが、施行時期を移した以降も、三連単は毎年万馬券、三連複に限っても2009年以降で万馬券にならなかったのはわずかに4回という荒れ具合。13年間のうち2桁人気の馬が勝利したのは実に4回と、「荒れるレース」としてもその名を馳せている。

そんな混戦のフェアリーS、今年は地方からチハヤも参戦して16頭立てとなった。

1番人気はヒップホップソウル。父にキタサンブラック、母に2011年のこのレースを制したダンスファンタジア、祖母には2004年のクラシック戦線を賑わしたダンスインザムードという超一流の血統が立ち並ぶ。さらに血統だけでなく、同舞台の新馬戦では、スタートで後手を踏みながらも先団に進出しそのまま突き放すという勝ちっぷり。前走のベゴニア賞こそ後塵を拝したものの、血統からも将来を期待されるのは間違いなく、4.1倍の1番人気に推されていた。

差のない4.8倍の2番人気には同じ馬主のディナトセレーネ。こちらも同舞台の未勝利戦を勝ち上がり、アルテミスSの6着を経てこのレースに臨んできた。こちらも、祖母はダイワスカーレットと良血と言える。前走も負けたとはいえ大きな着差はなく、ヒップホップソウルとそれほど差のない人気に推された。

その後ろ、やや離れた3番人気に、ここが年始初の重賞騎乗となるルメール騎手が手綱を取るエナジーチャイム。エピファネイア産駒の同馬は、3戦続けてルメール騎手が手綱を取っていて、前走の京王杯2歳Sも8着ながら勝ち馬とは0.5秒差と力の差を感じさせなかった。血統的にもディープインパクト、キングカメハメハ、シンボリクリスエスにスペシャルウィークと、90年代後半から00年代前半のターフを賑わせた名種牡馬の血がこれでもかというぐらい入っている。

それぞれ魅力的な血統を持つ3頭が集まったというのが、今年のフェアリーSの構図だった。

それに続く4番人気にミシシッピテソーロ。出走メンバー中唯一G1で上位入賞も果たしており、実績的にはかなり上位。5番人気にジャパンカップ当日の未勝利戦を勝ち上がったイコノスタシスが推され、ここまでが一桁人気に推されていた。

レース概況

ポケット奥でゲートが開くと、最内のスピードオブライトが1頭抜け出た好スタートを切る。逆に外枠のキタウイングとブルーイングリーンがやや遅れるような格好に。好発そのままにスピードオブライトが先手を取る構えだが、押して外からマイレーヌ、さらに外からディナトセレーネが先頭に並びかけて先団は3頭となる。

その後ろにイコノスタシス、ミシシッピテソーロが追走し、やや引っ掛かり加減でブルーイングリーンが外からここまで進出。対して、手綱を抑えてリックスターが最内からややポジションを下げ、その間にヒップホップソウル。これを見るようにやや手綱を引いてアンタノバラードがつけ、その後ろにメイクアスナッチ、エナジーチャイムと黄帽でシルクの勝負服2頭で追走する。

ディヴァージオン、ミタマ、ブラウンウェーブが直後に固まり、この中団馬群からやや離れた位置にキタウイング、また少し離れて最後方にチハヤという展開となった。

800の標識あたりでピッチが上がり、逃げるマイレーヌのリードは2から3馬身へと広がった。追走するスピードオブライト、ディナトセレーネ、イコノスタシス、が気合をつけて先頭を射程圏に捉え、大外を回してヒップホップソウルも一気進出。最内に進路を取ったリックスターも前が開くのを今か今かとうかがっていた。

後方馬群からはメイクアスナッチが外を回したのが目立つものの、それ以外は進出してこないように見えた。

──しかし、リックスターよりさらに内、イン沿いに進路を取った赤と白の十字襷の勝負服がいた。

4コーナーを回って直線、先手を取ってきたマイレーヌの脚が鈍り、控えたスピードオブライトが先頭に代わる……が、後続が殺到。外に進路を探すリックスター、同じく脚をためてきたディナトセレーネ、イコノスタシスが追い上げ、一閃の末脚に賭けたヒップホップソウルもこの争いに加わってくる。後ろからの勝負に徹したメイクアスナッチは届くかどうか。横いっぱいの激しい叩き合いになるだろうと多くのファンが予想したであろう。

……そう、最内からただ1頭、とんでもない勢いでオレンジの帽子がその幻想も叩き合い馬群も交わし去って行くまでは。

翼を広げたかのように飛んできたキタウイングが、叩き合いを繰り広げる後続馬群を尻目に突き抜けると、同じく外から飛んできたメイクアスナッチも抑えて重賞2勝目となるゴールを決めた。

メンバー唯一の重賞ウィナーの意地を見せ、再び、クラシック牝馬戦線に名乗りを上げてみせた。

上位入線馬と注目馬短評

1着 キタウイング

唯一のG3馬が、貫禄を見せる重賞2勝目。下馬評では11番人気とかなりの低評価だったが、終わってみれば実績通りの決着となった。

特にこのレース、鞍上の杉原騎手の手綱捌きが光ったように感じられる。落ち着いて4コーナーを回り、空いた内に恐れることなく突っ込んで突き抜けるという見事なエスコート。新潟の未勝利を自身の手で勝利に導き、その後手綱を離れながらも再び舞い戻ってきたチャンスを見事にものにした。13年目の実力派。初のクラシック騎乗、そして制覇へ──期待は、高まるばかりだ。

2着 メイクアスナッチ

新馬、1勝クラスと連勝してきた同馬が2着。ここまで先団、または逃げての競馬が連続していたが、このレースでは一転して後方からの競馬となった。全体から見てもキタウイングに次ぐ上がり3F35.3を記録し、控える競馬でも実力を出せることを証明した。

1200,1400,1600と1ハロンずつ延長してきた距離も問題なく走れており、桜花賞でも十分に勝負になりそうだ。

3着 スピードオブライト

上位勢のほとんどが後方待機組で占めた中、スタートから先団につけたスピードオブライトが3着に粘った。

最内からロスなく立ち回れつつ最後は勝ち馬と2着馬の切れ味に屈した形ではあるが、京王杯2歳Sでも先団から3着に粘れていたように、最後の粘り腰は目を引くものがある。惜しむらくは最初の先行争いでやや脚を使わされたことか。スムーズに先頭、または2.3番手を走れていればまた違う結果になっていたかもしれない。

総評

混戦の下馬評、そして過去のレース傾向通り決着は11.7.6人気と荒れた決着。とはいえ、上位3頭はG3ウィナー、2連勝中、G23着と、馬柱の実績だけ眺めれば上位人気に推されていてもおかしくない馬達だった。

そして、上位に食い込んだ馬たちの中で一際輝いたキタウイング。鞍上・杉原騎手の手腕は本当に素晴らしかった。この日は4鞍中2鞍勝利、2着1回と絶好調。まさに「渾身の騎乗」ディープインパクトの後継種牡馬争いに割って入ろうかというダノンバラード産駒とともに、この後が楽しみになる走りを見せてくれた。

現状、阪神JFを圧勝したリバティアイランドが女王候補の地位を確固たるものとしているが、まだまだ桜の季節までは3ヶ月。ライバルの一角として、キタウイングが堂々と名乗りを上げた。

写真:Sarcoma

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