[重賞回顧]超新星レモンポップがダート界の頂点に。~2023年・フェブラリーS~

JRAのGI開幕を告げるフェブラリーS。ジュンライトボルトやテーオーケインズ、さらには当レースを2連覇中のカフェファラオなど、昨秋のGIを制した馬は海外遠征を控えるため出走しなかったものの、GI級勝ち馬が5頭参戦。バラエティー豊かなメンバー構成となった。

中でも、レース史上初めて出走する外国調教馬のシャールズスパイト。そして、地方所属馬としてはメイセイオペラ以来24年ぶり、またGI昇格後、牝馬としては初めての勝利を目指すスピーディキックが注目を集めた。

単勝オッズは一騎打ちムードで、レモンポップが1番人気に推された。

1年に及ぶ長期休養をはさんだものの、ここまで10戦7勝2着3回とほぼ完璧な戦績を残している本馬。前走の根岸Sで初めて重賞タイトルを獲得し、東京ダート1400mは5戦全勝となったが、今回は2走前の武蔵野Sで2着に敗れたマイル戦。200mの距離延長、そして中2週を克服できるかが課題だった。

これに続いたのがドライスタウト。キャリアは浅いものの、6戦4勝2着1回と戦績にほぼキズがなく、2021年の全日本2歳優駿を制した実績は上位。前走はリステッドのすばるSで2着に敗れたとはいえ、直線で前が詰まり追い出しが遅れたことが敗因。また、レモンポップともコンビを組む戸崎圭太騎手がこちらに騎乗することもあって、大きな注目を集めていた。

そして、2頭からやや離れた3番人気に推されたのがレッドルゼル。2021年のJBCスプリントを勝ち、ドバイゴールデンシャヒーンでも2年連続2着に好走するなど、今回のメンバーでは実績ナンバーワンといってもよい存在。ただ、フェブラリーSは過去4、6着と敗れているだけに、レモンポップと同様、1600mを克服できるかが注目されていた。

レース概況

ゲートが開くと、メイショウハリオがつんのめるような格好となって落馬寸前に。なんとか体勢を立て直したものの、6馬身ほど遅れてしまった。

一方、前はショウナンナデシコが逃げ、ジャスパープリンスとヘリオスが追って、そこにケイアイターコイズが加わる展開。その後ろにレモンポップとドライスタウトが仲良く並び、セキフウ、シャールズスパイト、アドマイヤルプス、テイエムサウスダンまで、10頭ほどが固まっていた。

これに対し、レッドルゼルは後ろから2頭目に位置。さらにそこから2馬身差のところまで盛り返したものの、メイショウハリオは依然として最後方を追走していた。

前半600mは34秒6で、同800mは46秒6と平均ペース。後方3頭はややバラバラの追走で、先頭から最後方まではおよそ15馬身と縦長の隊列だった。

その後、3~4コーナー中間に入ると、後ろから3頭目にいたスピーディキックと直後のレッドルゼルが前との差を詰め始めるも、相変わらず前の10頭ほどは固まったまま。しかも、その大半は楽な手応えで4コーナーを回り、最後の直線勝負を迎えた。

直線に入るとショウナンナデシコは失速し、かわってヘリオスとケイアイターコイズが先頭に立とうする。しかし、坂を上り始めたところでもまだ持ったままのレモンポップが、残り300m地点で満を持して抜け出すと、あっという間に2番手以下との差が2馬身に広がった。

追ってきたのはレッドルゼルで、前はこの2頭が完全に抜け出し、その後ろではメイショウハリオがようやくといったかんじで追い込み、ドライスタウトとアドマイヤルプスをかわして3番手に上がるも、まだレッドルゼルとの差は3馬身ほどあった。

一方、前は川田将雅騎手が大きなアクションでレッドルゼルを叱咤するも、レモンポップとの差はなかなか縮まらず、ゴール前では同じような脚色に。結局、1馬身半差をつけたレモンポップが先頭でゴール板を駆け抜け、レッドルゼルが2着。さらにそこから2馬身半離れた3着にメイショウハリオが続いた。

良馬場の勝ちタイムは1分35秒6。200mの距離延長をまるで問題にしなかったレモンポップが、重賞初制覇となった前走からの連勝でGI初制覇。同じく、開業6年目の田中博康調教師も嬉しいGI初制覇となった。

なお、これが国内で最後のGIとなった福永祐一騎手は、オーヴェルニュに騎乗し12着だった。

各馬短評

1着 レモンポップ

200mの距離延長、中2週、乗り替わりなど、いくつか懸念材料があげられていたものの、終わってみれば、むしろそれらがすべてプラスに働いたような完勝劇。初の重賞タイトルを獲得した前走よりも強い内容でGI馬へと上り詰め、連対率100%もキープした。

体質面が弱かったとはいえ、2歳冬から1年間休養させた効果が出ているのは明らか。現状、課題らしい課題は見つからないが、もしあるとすれば、まだ走ったことがない地方のダート。さらには、かしわ記念のように周回コースでおこなわれるレースに出走したときだろうか。

2着 レッドルゼル

完璧な立ち回りで3着以下を2馬身半も突き放したが、やはり距離が長かったのか、最後は勝ち馬と同じ脚色になってしまった。

とはいえ、相手が悪かったとしか言いようがないレースで、レモンポップがいなければ完勝といえる内容。こちらも、ワンターンのレースではほぼ大崩れがなく、とりわけ1400m以下では、およそ2年半もの間4着内をキープしている。

根岸Sの回顧で「ダート1400mであればレモンポップは現役最強クラス」と書いたが、今回の内容を見ると、この馬も良い勝負をしそう。筆者の勝手な希望で実現する可能性は低いが、来年の根岸S、もしくはワンターンの1400mで再び対決してくれないだろうか。

3着 メイショウハリオ

スタートであれだけのロスがありながら驚異の追い上げ。それだけに、タラレバとはいえあまりにも惜しまれる出遅れだった。

マイル戦を走ったイメージがほぼなかったが、3勝クラスを卒業したのはこのコース(2021年5月の薫風S)で、1600mを走ったのはその時だけ。そこからはすべて1700m以上のレースに出走しており、実戦で芝を走ったのも薫風S以来久々で、これが大きな出遅れに繋がってしまったのかもしれない。

逆に、1600m。そして、中央のGIで好走したことにより今後の可能性はさらに広がったといえ、6歳にしてなお先が楽しみになる内容だった。

レース総評

前半800m通過は46秒6、同後半が49秒0と前傾ラップで=1分35秒6。良馬場でおこなわれた過去のフェブラリーSを見ると、2021年の1分34秒4(1着カフェファラオ)は抜けて速いが、大半は1分35秒台で決着しており標準的なタイムといえる。同じ良馬場でも馬場差があるため単純比較はできないものの、インティが逃げ切った2019年と同タイム(前半800m48秒0→同後半47秒6=1分35秒6)だった。

展開面では、レース前半が平均ペースで流れたとはいえ、後半はメイショウハリオ以外の15頭はほぼ一団となって進んだため、先行各馬には厳しい展開。結果、2、3着は後ろから2頭目と最後方に位置していた追込み馬で、これを4コーナー4番手から横綱相撲で押し切ったレモンポップのレース内容は、いっそう評価できるものだった。

今後に関して、中2週でGIを制したばかりの馬に次走どうこういうのは酷だが、ドバイのゴールデンシャヒーン(GI1200m)とゴドルフィンマイル(GⅡ1600m)には登録しているとのこと。一方、国内でおこなわれる直近のマイルGIは5月のかしわ記念。同じ左回りとはいえ、こちらはレモンポップが未経験の周回コースでおこなわれる。

過去には、モーニンやモズアスコット、カフェファラオなどがフェブラリーSを制した後に出走。人気を裏切ってしまったが、一方でコパノリッキーのようにまったく問題にしなかった馬もいる。

また、10月のマイルチャンピオンシップ南部杯は、コース形態が似ているせいかフェブラリーSと親和性があり、そこに出てきた際は、当然、有力候補になり得る存在。さらにカフェファラオ、ジュンライトボルト、テーオーケインズらとの対決も非常に楽しみで、1800mのチャンピオンズCであれば、激突する可能性もあるのではないだろうか。

ただ、血統面でいえば、レモンポップの4代母は世界的大種牡馬ノーザンダンサーの半妹で、2代母も世界的大種牡馬デインヒルの全妹という超名門ファミリーの出身。なおかつ父の父はキングマンボで、日本における同産駒の種牡馬といえばキングカメハメハだが、キングカメハメハを介さないキングマンボ系という意味でも非常に貴重な存在。

まだGIを勝ったばかりの5歳馬で、連続連対記録がどこまで伸びるかにも注目が集まるが、ゆくゆくは無事に種牡馬入りしてくれることを願うばかりである。

写真:shin 1

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