[連載・馬主は語る]アンビバレントな感情(シーズン2-5)

参加するとは言いつつも、千葉サラブレッドセールは社台ファームの育成馬が中心に上場されるため、毎年、高額馬が続出するセリになります。分かりやすくいうと、お金持ちのためのトレーニングセールであって、僕のような弱小馬主のためのそれではありません。ちなみに、2021年の販売実績を見ると、売却率は100%、平均価格は26,723,077円(牡36,944,444円、牝15,684,000円)です。いち、じゅう、ひゃく、せん、まんと何回も数えてみましたが、老眼による見間違いではなく、平均価格が2000万円を超えているようです。中間価格でも15,500,000円ですから、少なくとも1000万円以上の予算がなければ落札は難しそうですね。えっ、僕の予算ですか?本当に恥ずかしながら、今の僕に出せるのは500万円ぐらいです…。

もちろん、先々のことを見据えて、牝馬を購入しようと考えています。ある程度の血統の牝馬でそこそこ走ってくれたら、繫殖牝馬としての価値が高まり、消費ではなく投資に変わるはずです。牡馬よりも牝馬の方が安く買えるはずですが、それにしても、血統に筋が通っていて走りそうな馬を500万円で落札するのは常識的に考えて難しいですね。そもそもトレーニングセールに出てくる馬は、すぐにでもレースで走れるほど社台ファームで育成までしてくれていますから、育成費用(およそ300~400万円)が上乗せされて当然なのです。500万円で買うということは、馬自身は100~200万円ぐらいの価値ということになります。

生産者の側に立ってみたとき、自分が生産した馬を少しでも高く売りたいと思う一方、馬主として馬を買おうとする場合、少しでも安く買いたいと思う自分がいて、心が引き裂かれるような、実にアンビバレントな感情を抱くことになります。どの取り引きも互いにWIN-WINになれば良いのですが、そもそも適正な価格というものが存在しない以上、高く売ったとか安く買えたということが起こるのでしょう。生産者としてはあまり高く売れすぎると心配になりますし、馬主としてはあまり安く馬を買ってしまうのも申し訳ない気持ちになるということです。どちらの立場にも立ってみると、どちらの気持ちも分かって、サラブレッドの世界がより深く見えてきますね。

そんなことを考えていると、500万円しか持っていない男が世界を俯瞰している場合かよ!と競馬の神さまがハリセンでツッコミを入れてきましたので、今は何とか500万円で落札できる可能性のある良い牝馬を探すことに集中しなければいけません。幸いにも、昨年は500万円以下で落札された馬が4頭いましたので、絶対に無理ということではないのです。かといって、安い馬であればどの馬でも良いということではなく、僕が良いと思う馬と安く買える馬が一致しなければならないということは、確率がかなり低いことはたしかでしょう。

上場馬66頭の中から牝馬に絞り、1頭1頭の立ち写真とウォーキング動画、そして調教の走りをチェックしていきました。馬体は良くても気性が悪そうであったり、立ち写真は良くても動きがイマイチだったりする馬がいて、結局のところ、馬体も動きも気性も良さそうな馬は3頭に絞られてしまいました。そのうちの2頭がイスラボニータ産駒であり、1頭はノヴェリスト産駒です。イスラボニータ産駒はプルパレイなどが走っていることもあり、おそらく500万円では手に入らないと考えると、残るのは40番のノヴェリスト産駒(ナチュラルスタンスの20)です。この馬はトモに実がしっかりと入っており、毛艶も良く、顔つきも素直そうで、馬体重も現時点で453kgとある程度の馬格もありますので、競走馬としてだけではなく、その先の繁殖牝馬としても欠点はなさそうです。

母ナチュラルスタンスは南関東で56戦6勝の成績を挙げているように、長くコンスタントに走った牝馬でした。父はフジキセキで、母系にはエリンコートを生んだエリンバードがいます。ナチュラルスタンスの母エールスタンスはミュゼエイリアン(父スクリーンヒーロー)を出しており、たまに大物を誕生させる筋の通った牝系ですね。ノヴェリスト産駒はダートを苦手としていますので、正直、地方競馬で走らせるのは厳しいかもしれません。それでも僕が見る限り、ふっくらとした馬体はどちらかというと母や祖母に似ているため、ダートでも走るかもしれません。

セール1週間前には台付価格が発表されました。台付価格というのは、セリの開始価格というか、これ以下の価格では売りませんという販売者側の希望価格です。もし誰も入札しなければ、再度、台付価格を下げて再上場されることもあるかもしれませんが、基本的にはこれ以上の価格で競って購入してくださいという最低価格のことです。僕の見立てどおり、イスラボニータ産駒の2頭は600万円と800万円の台付価格となっており、最初から予算オーバーでした。40番のノヴェリスト産駒は台付価格が300万円となっており、思わず心の中でガッツポーズ。まだ買えたわけでもないのに、買えるような気がするから不思議です。冷静に考えると、チャンスはゼロではないという程度でしょうか。

(次回に続く→)

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