[重賞回顧]過酷なサバイバルマッチを制したゼルトザームが、世代の一番星に輝く~2023年・函館2歳S~

1ヶ月に渡っておこなわれた函館開催も、あっという間のフィナーレ。近年は、最終週の土、日曜日それぞれに重賞がおこなわれ、土曜日のメインレースに組まれているのが、世代最初の重賞、函館2歳Sである。

開催日程の変更により、かつておこなわれていたラベンダー賞が廃止。地方所属馬の参戦が無ければ、1勝馬もしくは未勝利馬同士の対戦となり、混戦必至のこのレース。また、2023年は16年ぶりの重馬場開催となり、デビュー間もない若駒にとって、非常に過酷な条件でおこなわれることとなった。

その一戦にエントリーしたのは15頭。4頭が単勝10倍を切り、最終的にベルパッションが1番人気に推された。

開催2週目の新馬戦で初陣を迎えた本馬。やや出遅れながらも二の脚の速さで挽回し、さらに直線入口で進路をなくしかけるも、見事に差し切ってみせた。このとき、レースの上がり3ハロンは加速ラップ。前は止まっていなかったものの、ノーステッキで差し切った内容は秀逸で、父ダノンレジェンドにとっても、産駒初のJRA重賞制覇が懸かっていた。

これに続いたのが、メンバー中、唯一東京の新馬戦を勝ち上がってきたバスターコール。その前走はハイペースでレースを引っ張り、直線早目に捕まるかと思われたものの、抜群の勝負根性を発揮。3頭による大接戦を制してみせた。母デクラーティアは小倉2歳Sの勝ち馬。母仔2代での2歳重賞制覇が懸かっていた。

僅かの差で3番人気となったのがロータスワンド。こちらは開幕2日目におこなわれた函館芝1200mの新馬戦でデビューし、ハイラップを刻んで逃げ切っている。半姉ブランボヌール、半兄ビアンフェは過去に函館2歳Sを制しており、史上3例目の3きょうだいによる同一重賞制覇が期待されていた。

そして、こちらも僅かの差で4番人気となったのがスカイパッション。年に1度しかおこなわれない函館芝1000mのレースで初陣を迎え、上がり最速で逃げ切った本馬。この新馬戦と函館2歳Sは相性が良く、57秒5の勝ち時計もまずまず。関東リーディングトップをひた走る横山武史騎手が継続騎乗することもあり、注目を集めていた。

レース概況

ゲートが開くと、ルージュレベッカが大きく外へ逸走。離れた最後方からのレースを余儀なくされた。

一方、前はダッシュ良くスカイキャンバスが飛び出し、そのまま逃げる展開。ナスティウェザーとクールベイビーが続き、ロータスワンド、ナナオまでの5頭が先団を形成した。

そこから4馬身ほど離れた中団は、ゼルトザームとレガテアドールを筆頭に、人気のベルパッションやバスターコールなど9頭が固まり、後ろから2頭目にコルルディ。そして、ルージュレベッカが離れた最後方を追走していた。

前半600m通過は34秒7で、馬場を考慮すれば速い流れ。先頭からコルルディまではおよそ16、7馬身で、縦長の隊列となった。

その後、3、4コーナー中間で、ロータスワンドが早くも失速。替わってゼルトザームが5番手に上がり、ベルパッションやバスターコールなど、中団に位置していた4頭が前との差を詰める中、レースは直線勝負を迎えた。

直線に入ると、スカイキャンバスが再び後続を突き放しにかかりリードは2馬身。ナスティウェザーは後退し、ナナオとゼルトザームが末脚を伸ばして、200mの標識を過ぎてからは、これら3頭の追い比べとなった。

そして、最終的にこの中から抜け出したのはゼルトザーム。残り50mでグイッと前に出ると、後続に1馬身のリードを取り1着ゴールイン。2着争いを制したのはナナオで、3/4馬身差3着にスカイキャンバスが入った。

重馬場の勝ちタイムは1分11秒7。前走ダートの新馬戦を勝ち上がったゼルトザームが、力強い末脚を繰り出し快勝。10番人気の低評価を覆し、世代の一番星に輝いた。

各馬短評

1着 ゼルトザーム

先行勢を前に見て、絶好位を追走。最後は2、3着馬とマッチレースになったが、力強い末脚を繰り出して勝ち切った。

騎乗した浜中俊騎手がレース後のインタビューで答えていたとおり、馬場が味方したことは確か。それでも、体力の完成が早いヘニーヒューズ産駒は、ダートだけでなく2、3歳馬限定の芝重賞で何度も好走しており、本馬も二刀流での活躍が期待される。

2着 ナナオ

牝馬で、前走から中1週続きのローテーション。さらに、出走馬の中では2番目に軽い412kgの馬体重。重い馬場がいかにも堪えそうだったが、まるで苦にせず好走した。

母父オルフェーヴルは、この世代から頭数が大きく増えているものの、血統登録されている現4歳は4頭。3歳が18頭。その数少ない中からホープフルS勝ちのドゥラエレーデが登場し、本馬も重賞で2着。これら2頭は、ともに2代父がキングカメハメハという共通点がある。

一方、この逆の配合。父オルフェーヴル×母父キングカメハメハは、既に多くの活躍馬が出ており、ドバイワールドCを勝ったウシュバテソーロを筆頭に、ライラックやショウリュウイクゾらが重賞を勝利。タガノディアマンテ、ホウオウピースフルなども重賞で連対している。

3着 スカイキャンバス

枠を利して積極的なレース運び。ハイペースで逃げ粘ったことを考えれば、最も強いレースをしたのはこの馬だったのかもしれない。

これが2世代目のファインニードル産駒。サンプルはまだ少ないものの、天候が小雨か雨の時に好走率が高く、単複の回収率が150%超であることは覚えておきたい。

また、函館芝1000mのレース(2歳新馬)は、年に1度しかおこなわれなくなったが、このレースの勝ち馬は、近年、函館2歳Sと相性が良く、20年1着リンゴアメ、21年2着カイカノキセキに続く好走となった。

レース総評

道悪ながらハイペースとなり、前半600m通過が34秒7に対し、同後半37秒0=1分11秒7。その差2秒3の前傾ラップで、デビュー間もない若駒にとっては過去なサバイバルマッチに。短距離戦ながら、馬力や持久力がいっそう要求される一戦となったが、そのレースを制したのが、ダートで多数の活躍馬を送り出してきたヘニーヒューズ産駒のゼルトザーム。グレード制導入以降、芝でおこなわれた函館2歳S(旧・函館3歳S)を、前走ダート戦1着馬が勝利したのは、今回が初めてだった。

そもそも、前走ダート戦1着から連勝で芝の重賞を制した例は少なく、18年ファルコンS勝ちのミスターメロディ以来5年ぶり。2歳重賞に限れば、13年朝日杯フューチュリティSを勝利したアジアエクスプレス以来で、同馬の父もまたヘニーヒューズである。

さらに、16年CBC賞1着のレッドファルクスを合わせたこれら3頭はいずれもGⅠ馬で、現在は種牡馬。ゼルトザームにも、同様の活躍が期待される。

一方、母系はいわゆる「バラ一族」で、ローズキングダムやスタニングローズなど、活躍馬多数の名牝系。本馬の母ロザリウムは、20年のノーザンファーム繁殖牝馬セールにおいて富田牧場が税別1600万円で落札しており、その時、受胎していたのがゼルトザームだった。

セリといえば、またしても大商いだったセレクトセールがすぐに思い浮かぶが、繁殖牝馬セールで取引された馬からも活躍馬が多数出ており、例えば2023年だけでも、高松宮記念を勝ったファストフォースの母ラッシュライフや、大阪杯を制したジャックドールの母ラヴァリーノ。先日、無敗で南関東クラシック三冠を達成したミックファイアの母マリアージュなど。

他、無敗の三冠牝馬デアリンタクトの母デアリングバードに、障害の絶対王者オジュウチョウサンの母シャドウシルエットと枚挙に暇がないほどで、俄然、注目度は高まっている。

また、ゼルトザームに騎乗した浜中俊騎手は、この1年で函館の重賞を3勝と相性が良く、加えて芝・良馬場以外の重賞で超のつく好成績。過去3年の3着内率は50%を超えており、特に、22年日経賞2着のボッケリーニから、23年阪神牝馬S1着のサウンドビバーチェまで8戦7連対と、凄まじい成績を残している。

最後に、上位人気で敗れた馬について。

まず、1番人気に推されたベルパッションは8着。今回は五分のスタートを切ったものの、前半600mは良馬場だった前走よりも早く、序盤は後方に置いていかれそうな展開。そこから徐々に盛り返したものの、最後は止まってしまった。

騎乗した松田大作騎手によると、馬場が影響したそう。父はダノンレジェンドで、産駒の主戦場はヘニーヒューズと同様ダートだが、現役時のダノンレジェンドが重賞を初めて制したのは4歳秋。GⅠ初勝利は6歳秋だった。

そのため、体力の完成が早いヘニーヒューズ産駒とは対照的で、母父ハーツクライの本馬はなおさら。牝馬で、今回の経験を引きずらないか心配だが、いずれにせよ、おそらく本格化は先。そして、芝はもちろん、この馬もまたダートでの走りを見てみたい。

一方、2番人気バスターコールは6着。

こちらは、多少「ルメール人気」があったかもしれないが、新馬戦を制した舞台は、東京芝1400m。今回とは、あまりにも条件が違いすぎた。

母デグラーティアは全4勝を1200mであげたが、おそらくバスターコールにとってこの距離は忙しく、最低でも1400m。マイルや1800mも、十分にこなすのではないだろうか。

写真:hozhoz

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