夏の風物詩とも言ってもよい、ローカルで開催される4つの2歳重賞。中でも、新潟2歳Sはひときわ異彩を放つレースである。
4レースの中で唯一のマイル戦。左回り。そして、長い直線コースを使う点は、いささか多くのGⅠがおこなわれる東京競馬場と似た条件。ただ、サウジアラビアロイヤルCやアルテミスSが創設されて以降、新潟2歳Sが多頭数で争われることは以前より少なくなった。
2023年も12頭立てと手頃な頭数に収まったものの、5頭が単勝10倍を切る混戦模様。とりわけ、人気上位3頭の順番は度々入れ替わり、最終的に牝馬のアスコリピチェーノが1番人気に推された。
メンバー中、唯一、東京の新馬戦を勝ち上がってきた本馬。その前走は、直線に向いてすぐ進路をなくしかけるも、外に持ち出されてからはどんどん加速。前をいく10頭を次々と交わしさる様は圧巻だった。父ダイワメジャーの産駒は、当レースで過去2勝2着2回と相性が良く、母のきょうだいには、ローズS勝ちのタッチングスピーチや菊花賞2着のサトノルークスがいる良血。日本一長い直線でも再び豪脚が炸裂するか、注目を集めていた。
2番人気となったのが同じく牝馬のルージュスタニングで、こちらは、父が4年連続北米のリーディングサイアーに輝いているイントゥミスチーフ。一方、母ボインビューティーはGⅠ・4勝アロゲートの半妹で、世界的良血といっても過言ではない。デビュー戦となった前走は、血統に違わぬ走りで完勝したが、当時の2着馬も、次走で4馬身差の完勝を収めるなどメンバーレベルが低かったわけではなく、2連勝での重賞制覇が期待されていた。
僅かの差で3番人気となったのがエンヤラヴフェイス。ルージュスタニングと同様、中京芝1600mの新馬戦を勝ち上がり、2着につけた5馬身差は、ヴァンヴィーヴと並び今回のメンバーでは最大だった。母タイキアプローズは、世界的名マイラー、タイキシャトルのいとこで、浦和記念勝ちのサミットストーンや、オープンのもみじSを勝利したカジュフェイスを送り出すなど、繁殖としても優秀。また、エイシンヒカリ産駒の重賞初制覇なるかにも注目が集まっていた。
以下、今回と同じ新潟芝1600mで初陣を飾ったクリーンエア。3代母に名牝ブロードアピールがいるジャスタウェイ産駒の良血ヒヒーンの順で、人気は続いた。
レース概況
ゲートが開くと、ジューンテイクが出遅れ。ホルトバージもスタートが決まらず、後方からの競馬を余儀なくされた。
一方、前は僅かに好スタートを切ったショウナンマヌエラが先手を取り、1馬身のリード。4頭が固まった2番手集団からヒヒーンとニシノクラウンが前にいき、ルクスノア、クリーンエアの順で続いた。
その後ろにアスコリピチェーノがつけ、2馬身差でルージュスタニングが7番手。次いでエンヤラヴフェイスと、上位人気3頭は仲良く中団に位置し、ホルトバージ、ヴァンヴィーヴと続いて、4馬身差の後ろから2頭目にシリウスコルト。さらに、そこから6馬身ほど離れた最後方をジューンテイクが追走していた。
前半600m通過は35秒4、800m通過47秒7と遅い流れ。先頭から最後方までは20馬身近い差があったものの、後ろの2頭以外は10馬身ほどに固まり、レースは4コーナーへ。
ここで、アスコリピチェーノが少しポジションを上げると、内ラチ沿いを通ったホルトバージも、コーナリングで同じく5番手まで進出。後方に位置していたシリウスコルトとジューンテイクもスパートし、全体が12馬身ほどの差となって、そのまま直線勝負を迎えた。
直線に向いても、逃げるショウナンマヌエラの手応えには余裕があり、リードは2馬身。ニシノクラウンを内から交わしたルクスノアが2番手に上がり、末脚を伸ばしたアスコリピチェーノとクリーンエアも加わって、ゴール前200mで上位争いはこれら4頭に絞られた。
さらに残り100m地点で、逃げるショウナンマヌエラ、追うアスコリピチェーノと2頭の争いになり、ゴール寸前で前を捕らえたアスコリピチェーノが1着でゴールイン。1馬身差でショウナンマヌエラが2着となり、同じく1馬身差の3着にクリーンエアが続いた。
良馬場の勝ちタイムは1分33秒8。今回も決め手を発揮したアスコリピチェーノがデビューから2連勝。騎乗した北村宏司騎手は、プリモシーンで制した2018年の関屋記念以来、5年ぶりの重賞制覇となった。
各馬短評
1着 アスコリピチェーノ
中団追走から勝負所で僅かにポジションを上げ直線へ。前走から頭数が減った今回は進路がなくなることなく末脚を伸ばし、逃げ馬の抵抗にやや手を焼いたものの、ゴール寸前で力強く差し切った。
母系にデインヒルを持つダイワメジャー産駒は成功しており、2019年の阪神ジュベナイルフィリーズを勝ったレシステンシアや、同年のJBCスプリントを勝利したブルドッグボスがこれに当てはまる。
また、母系にサドラーズウェルズを持つダイワメジャー産駒も活躍馬が続出。本馬とレシステンシアもこれに該当しており、2歳GⅠを制したメジャーエンブレムやアドマイヤマーズらも、この組み合わせだった。
2着 ショウナンマヌエラ
父ジャスタウェイと同じく2着惜敗。12年越しの雪辱はならなかったが、人気や脚質は対照的。好スタートから前走に続いてハナを切ると、直線に入っても逃げ脚は衰えず、低評価を嘲笑うようにゴール寸前まで見せ場を作った。
日本一直線が長い外回りコースを使用する新潟芝1600m。一見すると、差し馬が強い舞台にも思えるが、序盤からハイペースになることはほとんど無く、逃げ馬が非常に強い。今回逃げる馬を予想することは簡単ではないが、前走も逃げた馬が強いのがこのコースの特徴。小柄な馬でなければ、好走率はさらにアップする。
3着 クリーンエア
出走馬中、唯一、今回と同じ新潟芝1600mの新馬戦を勝ち上がってきた馬。その前走は、アスコリピチェーノと同様、直線で前が詰まる致命的な不利があったものの、素晴らしい末脚を繰り出し勝ち上がってきた。
今回も、直線入口から内回りとの合流点までやや前が塞がり、勝ち馬に比べて仕掛けのタイミングが遅れたことは痛恨だった。それでも、前が開くと素晴らしい伸び脚を披露。東京のマイル戦で、今回より頭数が少ないレースに出走してきた際は、積極的に狙ってみたい存在。ラウダシオンと同様、リアルインパクトの代表産駒になるポテンシャルは十分に秘めている。
レース総評
前半800m通過が47秒7で、同後半46秒1=1分33秒8と、新潟外回りらしい後傾ラップ。中団より後ろに位置していた馬には厳しく、ある程度、前にいった馬が上位を占めた。
勝ったアスコリピチェーノの父はダイワメジャー。現在22歳とかなり高齢で、種付け料は2年連続プライベート表記。2023年も12頭に種付けしたのみで、これから産駒は減っていくが、アスコリピチェーノを含め、この世代も既に5頭が勝ち上がっている。
また、ダイワメジャーと同じ2001年生まれのサラブレッドは種牡馬の宝庫。内国産では、キングカメハメハやハーツクライ。ブラックタイド、スズカマンボ、メイショウボーラーらが、国内のGⅠ勝ち馬を送り出すなど第二の馬生でも活躍。日本の生産界を牽引してきた世代といっても過言ではない。
また、ダイワメジャー産駒といえば、父の現役時と同じく、先行して長く良い脚を使えるのが特徴。カレンブラックヒルやメジャーエンブレム、レシステンシアらはその典型ともいえる。
ただ、近年は瞬発力を武器に活躍するニュータイプの産駒も出てきており、2021年の当レース勝ち馬で、2022年のマイルCSを制したセリフォスが、まさにこのタイプ。アスコリピチェーノも、デビューからの2戦を見る限り同じタイプに見え、産駒が得意としている阪神ジュベナイルフィリーズはもちろん、桜花賞やNHKマイルCでも好勝負する可能性は十分。また、距離も2000m前後であれば、こなすのではないだろうか。
一方、騎乗した北村宏司騎手は、実に5年ぶりの重賞勝利。近年は、ケガや落馬事故の影響で度々長期の休養を余儀なくされているものの、今期は順調に勝ち星を積み重ねている。
ただ、これだけの長期離脱がありながら、現役ジョッキーでは10位となるJRA通算1437勝をあげており、年齢だけでいえば、同じ美浦所属の柴田善臣騎手や横山典弘騎手よりも10歳以上若く、まだまだ老け込む年ではない。
今回は、前走騎乗したルメール騎手がワールドオールスタージョッキーズに参戦するための乗り替わり。ではあったものの、北村宏司騎手とのコンビで、秋や来春の大舞台に臨むアスコリピチェーノの姿を見たいと思ったファンも、少なくなかったのではないだろうか。
というのも、北村宏司騎手がデビューしたのは名門・藤沢和雄厩舎であり、同馬を管理する黒岩陽一調教師が、大学卒業後、馬術部の監督に紹介されたのも藤沢調教師。師が関わるミホ分場で2年間勤務した後トレセン入りし、翌年、鹿戸雄一調教師の下で調教助手となった。その鹿戸調教師もまた、技術調教師時代、藤沢調教師の下で学んだことでも知られている。
歴代2位となる1570勝をあげたレジェンドトレーナー・藤沢和雄元調教師。引退から早1年半が経過しようとしているが、その影響はいまなお計り知れないほど大きい。
写真:かずーみ