[重賞回顧]エルトンバローズがGI馬2頭を撃破し4連勝!~2023年・毎日王冠~

1着馬に天皇賞(秋)の優先出走権が与えられる毎日王冠。ただ、本番まで中2週のローテーションが敬遠されてか、どちらかといえば、近年はマイルCSを目標とする有力馬の前哨戦になっている。

とはいえ、毎年のように豪華メンバーが集い、多頭数で争われることはほとんどないものの、まさに少数精鋭。夏競馬最大のレース、札幌記念と並んで「スーパーGⅡ」とも称され、前日のサウジアラビアロイヤルCとともに、秋、東京の開幕を飾るに相応しいレースとなっている。

また毎日王冠は、春の重賞で活躍した3歳馬が初めて古馬と激突する舞台になることもあり、世代間の戦いも見所の一つ。それでも、2023年の毎日王冠は5歳馬3頭に人気が集中し、牝馬のソングラインが1番人気に推された。

2022年の安田記念で並み居る強豪を撃破し、GⅠ初制覇を成し遂げたソングライン。その後、連敗を喫するも、帰国初戦のヴィクトリアマイルを快勝すると、超豪華メンバーとなった安田記念で連覇達成。3つ目のGⅠタイトルを獲得した。今回、生涯初となる1800m戦とはいえ東京コースは8戦5勝、GI・GⅡを計4勝と歴代最強クラスの成績。大目標の米国遠征がこの後に控えているとはいえ、負けられない一戦だった。

僅かの差でこれに続いたのがシュネルマイスター。本馬のGI初制覇は2021年のNHKマイルCで、先に抜け出したソングラインを差し切ってのもの。さらに、安田記念3着を挟んで毎日王冠を勝利したものの、1年半も勝利から見放されてしまった。それでも、今春のマイラーズCで久々の勝利を手にすると、安田記念も3着と好走。ライバルのソングラインと実に4度目の対戦となる今回は、レース史上2頭目の隔年制覇が懸かる一戦でもあった。

そして、3番人気となったのがジャスティンカフェ。前述の2頭と異なり、まだGIタイトルを獲得していないものの、2022年の毎日王冠で2着と好走した実績がある。5歳となった今シーズンはGⅢで2連敗を喫するも、前走のエプソムCで待望の重賞制覇を成し遂げた。この馬の武器といえば、現役屈指といっても過言ではない素晴らしい瞬発力で、東京芝1800mの重賞勝利はソングラインにない実績。二強の一角を崩して重賞連勝なるか、注目を集めていた。

レース概況

ゲートが開くと、好スタート、好ダッシュを決めたウインカーネリアンがハナを切り、バビットが3馬身差の2番手に位置。いきたがるのをなだめられながらエエヤンが2馬身差で続き、それを外からフェーングロッテンが交わしていった。

中団は、エルトンバローズが内からスルスルと上がって前との差を詰め、その後ろは、バラジを筆頭に人気のソングラインとシュネルマイスターなど5頭が一団。この集団から4馬身離れたところにアドマイヤハダルがつけ、さらに3馬身差の最後方にジャスティンカフェが控えていた。

前半800mが47秒9、1000m通過は59秒5と遅い流れ。その後、3、4コーナー中間で逃げるウインカーネリアンにバビットとフェーングロッテンが並びかけ、前は3頭が横一線。ただ、4番手以下の隊列に目立った動き、大きな変化はないまま、レースは最後の直線勝負を迎えた。

直線に入ると、ウインカーネリアンが再び差を広げリードは1馬身。フェーングロッテンは後退し、バビットも失速したところへ、内でじっと我慢していたエルトンバローズがスパート。残り200m地点で先頭に躍り出た。

一方、人気2頭は馬群を捌くのに苦労し、この時点でソングラインは中団。シュネルマイスターに至っては、まだ後ろから2頭目の位置だったが、大外に持ち出されると凄まじい末脚を発揮。ソングライン、アドマイヤハダルとともに、先に抜け出していたエルトンバローズに襲いかかり、最後は4頭がもつれるようにしてゴールイン。

写真判定の結果、僅かにハナ差残していたエルトンバローズが1着。同じくハナ差2着にソングラインが続き、シュネルマイスターは3着だった。

良馬場の勝ちタイムは1分45秒3。GI馬2頭との大激戦を制したエルトンバローズが、未勝利戦から4連勝。重賞も2連勝とし、中距離路線に向かう3歳馬の中で一歩抜け出す存在となった。

各馬短評

1着 エルトンバローズ

やや展開に恵まれたとはいえGI馬2頭に競り勝ち、なにより前走と正反対の条件で重賞を制したことに意義がある。

グレード制導入以降、3歳馬の毎日王冠勝利は7度目。ただ、前走GⅢからの勝利はエルトンバローズが初。また、父ディープブリランテは、早目先頭から押し切ってダービーを制したように、牡馬の産駒は持続力タイプが多いが、エルトンバローズは速い上がりも使えるため、次のステージが楽しみになる内容だった。

2着 ソングライン

僅かの差で敗れたものの、シーズン初戦としては上々の内容。タラレバを言ってもしょうがないが、直線の紛れがなければ突き抜けていた可能性は高く、少なくとも、今回の内容に関して悲観することはなにもなかった。

ただ、次走予定されているブリーダーズCマイルは、コーナーを4度まわるレース。実力、実績上位は間違いないものの、直線も非常に短く、左回りであること以外、今回と条件は大きく異なる。そのため、この馬の末脚を上手く発揮できるかがポイントとなる。

3着 シュネルマイスター

ソングライン以上に馬群を捌くのに苦労し、追えたのは正味200mちょっと。直線半ばでは絶望的な状況だったが、外に出されてからの伸び脚は凄まじく、本当に惜しい内容だった。

とはいえ、勝ちきれないのもこの馬の特徴。ただ、国内の1600m戦では[3-2-2-1/8]とほぼ崩れておらず、この馬も敗れたとはいえシーズン初戦としてはかなり良い内容。目標としているマイルCSで、久々のGⅠ制覇が期待される。

レース総評

前半800m通過は47秒9で、11秒6をはさみ、同後半は45秒8。その差2秒1の後傾ラップで、勝ち時計は1分45秒3。道中のペースが遅く、直線を向いた時点でほぼ全馬が体力を温存できていたため、頭数のわりに紛れが生じ、中団以下に構えた馬、特に人気2頭にとっては厳しい展開となった。

それでも進路を確保すると、さすがの瞬発力を発揮。結果的に順番が違うとはいえ、上位人気5頭中4頭が掲示板を占める、ほぼ実力どおりの決着となった。その中でも、エルトンバローズは好位のインから上手く抜け出すソツのない競馬。初対戦の古馬、しかもGⅠウイナーを2頭撃破し、連勝を4に伸ばした。

前走のラジオNIKKEI賞に続いて重賞連勝となったエルトンバローズは、父がディープブリランテで、産駒3頭目のJRA重賞勝ち馬。一方、母父はブライアンズタイムで、同じくラジオNIKKEI賞(2017年)を制したセダブリランテスも、この組み合わせ。さらに、2016年のラジオNIKKEI賞を勝利したゼーヴィントは、父がディープインパクト(ディープブリランテの父)で、やはり母父はブライアンズタイムだった。

これら2頭は、古馬になってから2000mの重賞を制したものの、度重なる故障に泣かされて、GI制覇は叶わなかった。また、父ディープブリランテや、代表産駒の一頭モズベッロも屈腱炎で引退しただけに、この先のエルトンバローズには、結果はもちろん、脚元が無事にいってくれることを願うばかりである。

一方、騎乗した西村淳也騎手とのコンビでは、4戦全勝と相性抜群。レース後、同馬を管理する杉山晴紀調教師は「この馬のことをよくわかっている」と評しており、騎乗馬の特徴を掴むのが得意なようだが、同騎手と連勝を継続している馬はエルトンバローズだけではない。

例えば、9月の紫苑Sで連勝は止まったものの、同じく杉山晴紀調教師が管理するソレイユヴィータも、3連勝はすべて西村淳也騎手とのコンビ。また、2月のダイヤモンドSを制したミクソロジーは4連勝中で、そのうち3勝は西村淳也騎手とのコンビである。

そして、杉山晴紀調教師自身も、全国リーディングの首位を快走しており、賞金でも中内田充正調教師と約6,000万円差の2位につけている。10月6日に厩舎の看板馬デアリングタクトの引退が発表されたものの、天皇賞馬ジャスティンパレスをはじめ、重賞ウイナーが多数在籍。前年を僅かに下回った2021年を除けば、開業した2016年から成績は右肩上がりで、8年目にして頂点に立つ可能性は十分にある。

写真:かぼす

あなたにおすすめの記事