[連載・馬主は語る]背の高い種牡馬、低い種牡馬(シーズン2-35)

年末になると、来年度の種牡馬の種付け料が発表され始めます。社台スタリオンステーションが先陣を切って発表すると、優駿スタリオンステーションやアロースタッドなど、他のスタリオン(種牡馬の繋養所)も後に続きます。生産者にとっては、来年、自分の繁殖牝馬にどの種牡馬を配合しようかおおよその見当はつけている時期ですから、種付け料のアップダウンについては敏感になります。競馬ファンからすれば、種付け料が50万円アップしたところで何とも思わないはずですが、その種牡馬を配合しようと考えている生産者にとっては50万円余計にお金がかかるということなのです。

今年度、大幅に種付け料が上がったのはキタサンブラックです。2022年度の500万円から、2023年度はなんと1000万円と500万円アップ。昨年ドレフォンが300万円から700万円に上がったときも驚きましたが、今年もキタサンブラックの種付け料がまさかの2倍に跳ね上がり、僕も身体も跳ね上がりました(笑)。イクイノックスやガイアフォースの活躍ぶりを見ると、種付け料が上がるのは仕方ないにしても、あわよくば(500万円のままであれば)つけたいなとも考えていただけに残念です。あっという間に僕の手の届かない種牡馬になってしまいました。

僕だけではなく、日高の中小牧場の生産者にとって1000万円は大きな投資です。繁殖牝馬であれば長い目で見て回収できますが、種付け料は一発勝負ですから大きな賭けになります。牝馬に出たり、馬体が小さく出たりすれば、種付け料すら回収できるかあやしくなります。繁殖牝馬の質を高めるためには必要なことですし、市場原理と言ってしまえばそのとおりですが、社台グループとしては、種付け料を一気に上げて高額に保つことで、優秀な種牡馬を自分たちである程度囲い込むこともできるのです。

僕がキタサンブラックを種牡馬として評価するひとつの理由に、背の高さがあります。そんな理由でキタサンブラックを評価する人は稀でしょうが、僕は背が高いという一点においてキタサンブラックは他の種牡馬と一線を画していると考えています。この1年、どうすれば走る馬を生産することができるのかを考えた結果、大きな馬をつくろうという単純な結論に至りました。そのロジックはここでは説明しませんが、走る馬と高く売れる馬はつながっていて、つまり大きい馬ということです。肉屋のように重さを計って大きいから馬が高く売れるのではなく、大きい馬は走るから高く売れるのです。しかもそれはダート馬だけに当てはまる話ではなく、芝のレースにおいても馬場が高速化すればするほど大きな馬が活躍しているのが現実です。

大きな馬と言っても、大きさには2つの種類があります。横に大きいタイプと縦に大きいタイプです。横に大きいとは身体の幅が分厚いということあり、縦に大きいとは背が高いということです。横に大きいタイプの種牡馬は多いのですが、縦に大きい種牡馬は意外と少ないのです。たとえば、アメリカの種牡馬は全体的に大きいのですが、やはり幅が広いマッチョなタイプが多いです。キタサンブラックは現役時代には540kg前後の馬体で走りましたが、縦に大きいタイプの馬体でした。同じ500kg超えの馬体でも、横に大きいのか縦に大きいのかは全く違うということですね。

ちなみに、日本のスタリオンで現在繋養されている種牡馬を背の高さ(体高)順に並べて見ると以下のとおりです。(参考:https://www.jrha.or.jp/stallion/

173cm
ウィルテイクチャージ

172cm
キタサンブラック

171cm
サトノアラジン

170cm
ラニ
ダノンバラード

169cm
キンシャサノキセキ
モーリス
ダイワメジャー
コパノリッキー
ストロングリターン
サングレーザー
ゴールドドリーム

168cm
クリソベリル
ナダル
ロゴタイプ
ビッグアーサー
アニマルキングダム
アメリカンペイトリオット
フィエールマン
ミッキーグローリー

167.5cm
キズナ

167cm
リアルスティール
ルーラーシップ
サトノダイヤモンド
シニスターミニスター
リーチザクラウン
マジェスティックウォリアー
フリーオーソ
ゴールドシップ
サトノアレス
ブラックタイド
リオンディーズ
エスポワールシチー
ホッコータルマエ
ブルドックボス

166cm
ポエティックフレア
ダンカーク
エスケンデレア
サンダースノー
タリスマティック
アルアイン
アジアエクスプレス
サトノジェネシス
トゥザワールド
モーニン
パドトロワ
ドゥラメンテ

165cm
ドレフォン
ハービンジャー
エポカドーロ
ダノンプレミアム
ヴァンゴッホ
クリエイターⅡ
デクラレーションオブウォー
ノーブルミッション
アドマイヤムーン
ディスクリートキャット
パイロ
ホークビル
ファインニードル
ディープブリランテ
ヘニーヒューズ
ベストウォーリア
リアルインパクト
ワールドプレミア
エピカリス
スマートファルコン

164cm
アドマイヤマーズ
スワーヴリチャード
ルヴァンスレーヴ
ロードカナロア
シャンハイボビー
バゴ
マクフィ
シュヴァルグラン
ジャスタウェイ
トーセンラー
ミスターメロディ
ミッキーロケット
エイシンフラッシュ

163cm
オルフェーヴル
マインドユアビスケッツ
レイデオロ
レッドファルクス
カリフォルニアクローム
ワールドエース
ウインブライト
シルバーステート

162.5cm
ミッキーアイル

162cm
エピファネイア
コントレイル
サートゥルナーリア
タワーオブロンドン
グレーターロンドン
ラブリーデイ

161cm
イスラボニータ
ブリックスアンドモルタル
モズアスコット
ダノンレジェンド
ミスチヴィアスアレックス
フォーウィールドライブ
カレンブラックヒル
スクリーンヒーロー

160cm
サトノクラウン
シスキン
ベンバトル
ノヴェリスト
ビーチパトロール

159cm
ニューイヤーズデイ
ダノンキングリー

僕の参考資料としても使えるのでズラリと並べてみましたが、種牡馬の体高は159cmから173cmの間に収まっていることが分かります。今年度からウィルテイクチャージが導入されるまで、最も背が高かったのがキタサンブラックで、低いのがニューイヤーズデイとダノンキングリーです。意外なところでは、エピファネイアは162cmと低かったり、モーリスは169cmと高かったりするのですね。どこまで正確に計られているのか分かりませんし、さすがに163cmと165cmの体高差に意味はないと思いますが、大ざっぱには背の高い種牡馬と低い種牡馬がいることが知れたのではないでしょうか。同じ大きさ(馬体重)でも、横に大きい種牡馬と縦に大きい種牡馬がいるということです。当然のことながら、背の高さという身体的特徴は産駒たちにも遺伝するはずです。

ニューイヤーズデイのような背の低い種牡馬を背の低い繁殖牝馬につけてしまうと、ちんちくりんの馬が生まれてきてしまう可能性が高いでしょうし、背の低い繁殖牝馬にはキタサンブラックのような背の高い種牡馬を配合することで産駒の背が伸びるかもしれません。ダートムーアは背の高い繁殖牝馬であり、横幅を出したいと思いますので、ニューイヤーズデイとは相性が良いはずです。スパツィアーレのような横にも縦にも大きい繁殖牝馬は、種牡馬の背の高さや幅をそれほど気にすることなく配合できますね。

話を戻すと、キタサンブラックは産駒の体高を上げるという目的のためにもベストな種牡馬なのです。日本の競馬に適したニュータイプの種牡馬ということです。横に幅を出せる種牡馬は多くいますが、縦に高さを出せる種牡馬は案外少ない。ということはつまり、産駒の横に幅を出すことは簡単ですが、縦に高さを出すことは案外難しいということですね。僕たちが目指しているのは、横にも縦にも大きい、陸上選手のウサイン・ボルト(身長195cm、体重94kg)のような大きな馬をつくること。横に幅を出していくのは限界がありますから(ばん馬のようになってしまいます)、これからは縦に高くしていくことで全体的にバランスの良い、大きな馬をつくっていく方向に進むはずです。

Photo by Rie Hasegawa

(次回へ続く→)

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