![[重賞回顧]1年越しの記録越え、越後路最速決戦!!~2026年・アイビスサマーダッシュ~](https://uma-furi.com/wp-content/uploads/2026/08/202608041-scaled.jpeg)
新潟競馬場の夏の風物詩、アイビスサマーダッシュ。
先週の関屋記念に続き、新潟競馬場のメインレースは7Rに組まれている。
国内で唯一、芝直線1000mを舞台に行われる重賞である。スタンドから見れば、スタート地点は遥か向こう。夏の陽炎に霞むような位置から各馬が一斉に飛び出し、長い直線をただひたすらに駆け抜ける。
コーナーはない。息を入れる場所もない。
ゲートが開いてから1分にも満たない時間で、夏の最速決戦は勝敗を決する。
スピードだけで押し切れるようでいて、実際には枠順、馬場の内外、スタート後の位置取り、そして最後まで脚を鈍らせない持続力が問われる舞台でもある。とりわけ夏の新潟は、暑さとの戦いも避けられない。
今年は猛暑日を下回る中での開催だったが、それでも30℃に迫る気温の中で争われる一戦となった。
人馬ともに消耗の大きい季節だからこそ、直線1000mという短い距離の中にも、濃密な駆け引きが詰まっている。だからこそ、多くのファンが新潟競馬場へ足を運び、この一瞬の攻防に思いを馳せるのである。
今年は昨年出走馬のうち、1着ピューロマジック、2着テイエムスパーダ、3着ウイングレイテスト、5着デュガ、9着ブーケファロス、11着クムシラコの6頭が再び顔をそろえた。新潟直線1000mに実績のある馬たちにとっては大舞台である。ピューロマジックには連覇が懸かり、テイエムスパーダは一昨年3着、昨年2着と順位を上げてきた。今年こその制覇が期待される。
また、一昨年の京阪杯を制したビッグシーザーが大外17番枠から参戦。
世界中を駆け回るアメリカンステージも、究極のスピード比べで重賞初制覇を狙う。
夏の越後路、芝を一直線に駆け抜けるサマースプリントシリーズ第3戦。
ファンの待つスタンド前に一番に飛び込んでくるのは、果たしてどの人馬のコンビだろうか。
レース概況
スタートして最初の1秒。ゲートの出が良く見えたのは、エコロレジーナ、アメリカンステージ、テイエムスパーダだった。そしてゲートを出てすぐに、今年は17頭すべてが外ラチ沿いへ馬体を寄せ、一団の攻防が始まる。
2024年のアイビスサマーダッシュから、JRAのレース動画では、画面左上に速度表示が見られるようになった。
各馬のスピードアップに要した時間は5秒から7秒ほど。この間に8枠のアメリカンステージ、昨年と同じ6番枠のピューロマジック、そして内枠4番から発走したカウスリップが前に出て、外ラチを目指して馬体を寄せていく。
カウスリップの後ろにロードトレイル、ピューロマジックの後ろにテイエムスパーダの姿も見える。この2列目集団にウイングレイテストも加わり、前に2頭、2列目に4頭という先行集団が形成された。
そしてハナを取り切ったピューロマジックは、田辺裕信騎手が強気に出していく。すでに時速70キロを超えるスピードで、後続を引っ張っていった。
3列目には外ラチ側からビッグシーザー、エコロレジーナ、デュガ。ベルギューンとクムシラコもこの列についていく。少し離れた後方にブーケファロス、バグラダス、ミカッテヨンデイイ、カウンターセブンが追いかけ、最後方にシュラフとアタリダイキチが続いた。
前半400mに入る手前で、田辺騎手は後方外、カウスリップの位置を確認する。しかし、ここからペースを落とすことはない。ピューロマジックは一直線に突き進んでいった。後半に入るにつれて、徐々に仕掛けたり、ムチが入ったりする馬が出始める中、ピューロマジックは余裕の手応えで残り400mに入る。

すぐ後ろにいたアメリカンステージとテイエムスパーダの間が空き、そこにビッグシーザーとエコロレジーナが勝機を求めて脚を伸ばしてきた。末脚勝負に自信のあるビッグシーザーが、先に前の隙間へ入る。
先行各馬も必死に食らいつく中、田辺騎手がついにピューロマジックにムチを入れた。残り200mを過ぎ、左ムチ一発でスパートに入る。最高速度からは少し落ちていたが、それでも後続はついてこられない。差はむしろ広がっていった。
スタンド前の日陰を抜け、一頭だけゴール前の日向に姿を現す。その瞬間が、今年のアイビスサマーダッシュの決着だった。
2着争いは、2列目で運んだ2頭の勝負になる。ゴール前でわずかにロードトレイルが前へ出て2着、カウスリップが3着。3列目から馬群を抜けてきたビッグシーザーも脚は使ったが、ピューロマジックは止まらず4着まで。アメリカンステージが外枠を活かして5着に残った。
つけた着差は3馬身。そして、タイムの上には“レコード”の赤い文字が灯った。決着タイム53秒5は、直線1000mの王者カルストンライトオが持っていた53秒7を0秒2更新するもの。24年ぶりに、JRAレコードが塗り替えられた。
ピューロマジックの昨年の勝ちタイムは、カルストンライトオと並ぶ53秒7。1年を経て、ついにその記録を超える走りを披露した。スプリント重賞5勝目。最速女王は、夏の越後路でさらに速くなっていた。
各馬短評
1着 ピューロマジック 田辺裕信騎手
昨年の覇者が、今年は記録を塗り替えて帰ってきた。昨年はカルストンライトオの持つJRAレコードに並ぶ53秒7。今年はその時計を0秒2上回る53秒5で駆け抜け、アイビスサマーダッシュ連覇を達成した。
なお、昨年は横山和生騎手が騎乗予定だったが、代打のルメール騎手で勝利。今年は松山弘平騎手が騎乗予定だったものの、調教中のケガで騎乗をキャンセルすることになり、田辺裕信騎手へ代打が回ってきた格好だ。連覇した2度にとどまらず、これまで挙げた7勝すべてが異なる騎手という、面白い記録も持っている。
さらに今回は、函館スプリントSからの重賞連勝でもある。芝1200mの函館では北村友一騎手とのコンビで重賞4勝目を挙げ、そこから国内唯一の芝直線1000m重賞へ。早い時期からスピードには定評のある馬だったが、舞台が変わってもその速さを出し切り、サマースプリントシリーズの主役としての存在感をさらに強めた。

田辺騎手は、スタートから迷わず出していった。外ラチ沿いへ馬体を寄せ、序盤から時速70キロを超えるスピードで後続を引っ張る。直線半ばでも手応えは十分で、残り200mを過ぎて左ムチが入ると、そこからさらに後続との差を広げた。
テン乗りでも、ピューロマジックの速さを信じて強気に出していく。2019年にライオンボスとのコンビで挑んだ際も、代打騎乗で強気の逃げを見せて勝ち切っていた。馬の得意な勝ちパターンへ迷わず導いた田辺騎手の手腕が、今回も冴えわたったレース運びだった。
3馬身差の完勝。昨年、直線1000mの王者カルストンライトオと並んだ馬が、1年を経てついにその記録を超えてみせた。後続を離し、レコードを更新したのはピューロマジックただ一頭。連覇で、サマースプリントチャンピオンへ王手をかけた。
2着 ロードトレイル 大野拓弥騎手
14番人気での2着は、大きな好走だった。人気がなかったのは、2勝クラスからの格上挑戦だったことも影響していただろう。
しかし、まったく根拠のない好走ではなかった。3勝クラスで2着に入った今年春のレースは、新潟芝1000m直線。その時も緑帽子の6番枠から、カウスリップに先着する2着で力を見せていた。後にも先にも、1000m戦はこの一度しか走っていなかったが、そこで適性はすでに示していたのである。
勝った時の持ち時計は決して速い部類ではない。それでも、先行して粘る競馬をするロードトレイルにとっては、1200mでも少し長いのかもしれない。ピューロマジックの後ろで流れに乗り、最後はカウスリップを交わして2着。直線1000mという条件が、この馬のスピードと粘りを最も引き出す舞台なのではないかと思わせる内容だった。
これで賞金を加算できたことも大きい。格上挑戦から一気にオープン馬の仲間入りを果たした。
このコースが向くのであれば、次の目標は秋の新潟、ルミエールオータムダッシュだろう。今度は今回ほどの人気薄ではなく、この舞台で改めて注目を集める存在として戻ってくるはずだ。
3着 カウスリップ 津村明秀騎手
牝馬にして馬体重556キロという、立派な馬体で出走したカウスリップ。
アイビスサマーダッシュでは、ダートでの好走経験がある馬がパワーで走り切ることもある。カウスリップも、そのパターンに当てはまる一頭と見て良いだろう。10番人気での3着はこちらも2勝クラスからの格上挑戦だったが、前走ではロードトレイルと同じ新潟芝1000mの3勝クラスで3着に入っており、この舞台で走れる予感はすでに感じさせていた。
このレースとしては不利になりやすい2枠から、黒い帽子に黒い勝負服のカウスリップが、ピューロマジックをマークする競馬を選択した。これまで3勝をともにした横山和生騎手は札幌での騎乗となり、今回は津村明秀騎手との新コンビ。それでも、津村騎手はピューロマジック相手に勝負を挑むレースをしたと言って良いだろう。
ただし、ロードトレイルとの枠の関係もあり、最序盤で脚を使わなければ位置を取れなかった。その分、最後はロードトレイルに差し返される形となったが、直線1000mらしいレース運びの難しさを経験しながらも3着は確保。ピューロマジックが強い競馬で押し切る中、前で運んだ一頭としてよく踏ん張っている。
内枠からでも、自分のスピードで外ラチ沿いの攻防に加われたことは収穫だろう。芝、ダートを問わず1000mから1200m戦で結果を出してきただけに、次はどちらの舞台へ向かうのかにも注目したい。
4着 ビッグシーザー 荻野極騎手
前の3頭、逃げ、先行勢で決まった中で、最後に脚を使って4着まで押し上げたのがビッグシーザーだった。
空いたスペースへ入って脚を伸ばし、エコロレジーナに勝り、最後の直線でアメリカンステージも交わした。重賞勝ち馬として、力を見せた内容と言っていいだろう。
しかし、ビッグシーザーが繰り出した上がり32秒0に対し、ピューロマジックのラストは31秒7。前にいればそのスピードについていくのは難しく、後方からでは差し届かない。今回は相手の強さを褒めるしかない一戦でもあった。
この馬は夏よりも、秋から冬にかけて調子を上げてくる戦績でもある。現時点でこれだけ走れていれば、この先へ向けての準備としては十分だろう。これまでは1200m戦を中心に使われてきたが、2勝目が懸かる京阪杯や、1ハロン延長して阪神Cへ挑戦しても面白いのではないか。
5着 アメリカンステージ 戸崎圭太騎手
世界を転戦してきたアメリカンステージが、新潟直線1000mでもスピードを見せた。
8枠16番から好発進を決め、序盤からピューロマジックとともに前へ。外枠を活かし、理想的な形で先行集団に加わった。
直線半ばまでは勝ち馬のすぐ近くで運び、残り400m付近でも前をうかがう場面があった。戸崎圭太騎手の騎乗も、このコースらしく外ラチ沿いを進む正攻法だったと言えるだろう。最後はピューロマジックの加速に離され、直後から伸びてきたビッグシーザーにも交わされたが、今年に入ってすでに6走目で5着に残した内容は評価できる。

2走前に好走した韋駄天Sは稍重馬場だった。先週こそ大雨が降った新潟競馬場だが、今週は良馬場での開催となり、一層前が止まりにくい馬場だった。その中で韋駄天Sを使った組では最先着しており、確かなスピードを示している。
前走の青函Sで16キロ減らしていた馬体重を戻しながら、国内芝直線1000mの重賞にしっかり対応し、見せ場を作った。重賞初制覇には届かなかったが、ダート短距離を主戦場にしながら、芝1000mの究極のスピード勝負にも対応できることを示した一戦だった。
レース総評
先週の関屋記念は、不良馬場でありながらも開幕週らしくインを選んだ馬たちが上位を占めた。
一方で、今週のアイビスサマーダッシュは、全馬がこのレースらしく外ラチ沿いを目指し、究極のスピード勝負を繰り広げた。
その中で、最も速かったのがピューロマジックだった。
今年の夏に入って復活した快速牝馬は、函館スプリントSに続いて重賞連勝。さらにアイビスサマーダッシュ連覇を達成し、サマースプリントシリーズ優勝へ王手をかけた。
そして何より、芝1000mのJRAレコードに自らの名前を刻むことになった。
このレースで上がりが最も遅かったテイエムスパーダでも32秒4。各馬が最後まで速い脚を使っている中で、逃げたピューロマジックのラストは31秒7だった。先頭でレースを引っ張りながら、後続よりも速い上がりを使われては、後ろの馬たちは追いつけない。
最序盤の位置取りを譲らず、最後までスピードを鈍らせなかった人馬の勝利だった。
だからこそ、3列目から脚を伸ばして4着まで来たビッグシーザーは、展開が向き切らない中でも地力を見せている。
2着ロードトレイル、3着カウスリップは、このコースへの適性を改めて示した。秋の新潟で、もう一度見てみたい2頭である。
5着のアメリカンステージは、このレースにおけるひとつの基準になったようにも見える。序盤から外枠を活かして前へ行き、最後まで掲示板に残した。そのアメリカンステージより前にいた4頭は、新潟直線1000mへの適性で上回ったと言えるだろう。
一方で、後方から進めた馬たちにとっては、前が止まらない流れの中で、純粋なスピード勝負に屈する形となった。秋の新潟で再び出走表明したときには、このレースの経験とタイムを覚えておきたいところだ。
直線1000mは短い。しかし、その短い距離の中に、スタートの一歩、外ラチ沿いへの位置取り、最高速に達するまでの加速、そして最後まで脚を鈍らせない持続力が詰まっている。今年のアイビスサマーダッシュは、そのすべてを高い次元で満たした馬だけが勝てるレースだった。
昨年、カルストンライトオの記録に並んだピューロマジックは、1年を経てその記録を超えてみせた。
越後路の最速決戦で、最速女王はさらに速くなって帰ってきたのである。

写真:ぼん(@Jordan_Jorvon)
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