[重賞回顧]恵みの雨に応えた“本物”の一閃~2026年・関屋記念~

夏競馬が後半戦に入り、執筆するレース名を探す。このとき、夏競馬をふと感じる瞬間がある。それはレース番号だ。

先週までの3場開催のメインレースは、すべて11レースに組まれていた。しかし、今週からの中京、新潟では、2024年度より実施されている暑熱対策により「競走時間帯の拡大」が行われる。5レース終了から6レース開始までの“昼休み”が長く取られたことで、メインレースは昼休み後の7レースに組まれ、以降12レースまで競馬が続く。

今年の新潟7レースに組まれたメインレースは、サマーマイルシリーズ2戦目の関屋記念。新潟競馬場の長い直線で競い合うハンデ戦だ。

前走、シリーズ初戦のしらさぎSで復活勝利を挙げ、ここに転戦してきたエルトンバローズがトップハンデの59キロを背負う。前走で勝利へ導いた松若風馬騎手は、お手馬のドロップオブライトと参戦。近走でコンビを組んだ西村淳也騎手は札幌競馬場で騎乗するため、今回は短期免許で来日中のJ.コレット騎手との初コンビとなった。コレット騎手は土曜日に灼熱の中京競馬場で騎乗したあと、新潟2レース、3レースで連勝。ここでも実力を発揮できるだろうか。

松若騎手が騎乗するドロップオブライトは、7歳牝馬にして斤量56.5キロ、牡馬換算で58.5キロを背負う。前走ヴィクトリアマイルこそ最下位に終わったが、上がりは全体2位タイの32秒9。5歳時にスプリント戦のCBC賞、6歳暮れにマイル戦のターコイズSを制した重賞2勝馬であり、夏も冬も変わらず元気に走る。

前走の京王杯スプリングCでは9着に終わったが、左回りで4勝、2着1回のダノンセンチュリーには戸崎圭太騎手が跨る。33秒を切る鋭い末脚が武器で、今回は3連勝を飾ったマイル戦に距離を戻し、脚を溜める競馬を狙う。

ダノンセンチュリーと条件戦で2度対戦経験のあるアンパドゥも、勝った4勝すべてが左回りだ。6戦4勝、2着1回。ダノンセンチュリーとの対戦成績は1勝1敗の五分で、重賞の舞台での先着を目指す。鞍上は主戦のC.ルメール騎手が海外渡航中のため、岩田望来騎手との新コンビで参戦となった。

年始の京都金杯でワンツーを決めたブエナオンダとファーヴェント、3歳馬でシンザン記念を勝ったサンダーストラックも夏のマイル路線に挑む。3歳から7歳まで、5世代14頭が集まった。

しかしながら、今年の関屋記念の明暗を分けるのは、暑さよりも豪雨ではないか。

新潟競馬場の芝コースは、午前中こそ良馬場だった。しかし、昼休憩中に降り出した猛烈な雨により、不良馬場まで悪化した。夏競馬期間中に芝コースが不良馬場となったのは、2020年8月9日以来、約6年ぶりだという。夏競馬以外でも、不良馬場で重賞が行われた新潟として記憶に新しいのは、カラテとセイウンハーデスが競った2023年5月の新潟大賞典だろう。

マイル適性だけでなく、馬場適性も、斤量に負けない力も問われた今年の一戦。雨雲の向こうにマイル路線の道筋を見出したのは、どの人馬か。

レース概況

スタートで大きく出遅れる馬はなく、ブエナオンダとドロップオブライトが後方から。前は菊沢一樹騎手が促してクランフォードが出ていった。

そのままクランフォードが逃げるかに見えたが、内からファーヴェント、間にジュタ、外にレディマリオンの3頭が並んで2列目を形成。さらに外からシリウスコルトやランスオブカオスも前をうかがう。大外からはメタルスピードが徐々に進出し、序盤の400mで先頭が入れ替わった。クランフォードはメタルスピードを行かせ、2番手で運ぶ形となる。

前を目指す馬たちと後方の馬たちで、馬群は二分される。最序盤でダッシュ良く出たジュタが後方集団の先頭で落ち着くと、その後ろにサンダーストラック、マテンロウスカイ。末脚勝負のアンパドゥ、ダノンセンチュリー、ドロップオブライトがその後ろに続き、エルトンバローズは普段より後方。最後方にはブエナオンダが控えた。

不良馬場でもペースは淀みなく流れ、レースは後半戦へ。コーナーに入る前にクランフォードが再び前へ出ると、内ラチ沿いをぴったり回って直線へ向かった。後方の各馬も直線で馬場の外めへ進路を求め、長い直線での攻防が始まる。

残り600m。先頭はクランフォード。この時、大外にはドロップオブライトがいた。ダノンセンチュリーは、前にいるサンダーストラックの内で動き出せない形。馬場の真ん中にいたジュタやシリウスコルトも追走が苦しくなり、その後ろにいたレディマリオンは外のランスオブカオスの前へ出して追い出しにかかる。

外へ持ち出そうとした馬たちがひしめき合う中、逃げて粘るクランフォードが空けた内を、アンパドゥが突き進んできた。残り200mで抜け出すと、岩田望来騎手が追うごとに後続との差を広げていく。最後はクランフォードに5馬身差をつけ、先頭でゴールへ飛び込んだ。

後方で控えた馬たちが仕掛けどころを探る間に、リードを保っていたクランフォードが2着。直後から追ってきたファーヴェントが3着に入り、4着、5着にも直線で内を抜けてきたブエナオンダとエルトンバローズが入った。決着タイム1分32秒4は、不良馬場としてはかなり速い時計に映る。パンパンの良馬場であれば、さらに速い決着になっていたのかもしれない。

新潟競馬場の重賞らしく、直線では馬群が内外に大きく広がった。しかし、今年は開幕週の馬場を利してインを選択した組に軍配が上がる。その中でも、道中後方から直線で迷いなく最内を突き抜けたアンパドゥの末脚は見事だった。

各馬短評

1着 アンパドゥ 岩田望来騎手

この馬の父Iffraajは、欧州でリブチェスターやウートンバセットを送り出した種牡馬である。すでに海外では孫世代からも活躍馬が出ている中、日本でもその血を引くマイル重賞馬が誕生した。

左回りで積み重ねてきた強さを、重賞の舞台でもはっきりと示した。道中は後方寄りで脚を溜め、直線では外へ広がる馬群を見ながら、迷わず最内へ進路を取る。開幕週とはいえ不良馬場。
外へ持ち出す馬が多い中で、岩田望来騎手の最内を抜ける判断が、勝利を大きく引き寄せた。

残り200mで抜け出してからの脚は圧巻だった。クランフォードとの差を一気に広げ、最後は5馬身差の完勝。これまで条件戦で左回りへの適性を示してきた馬が、マイル重賞で一気に主役へ躍り出た。
3勝クラスで1度ダノンセンチュリーに敗れたが、重賞の舞台で改めて自らの力を証明した一戦だった。

これで通算戦績は7戦5勝、2着1回。5歳夏で次がまだ8戦目と、レース数を多く使われていないだけに、今後の活躍が楽しみな存在が現れた。ただ、現時点では右回りの経験がないため、マイルチャンピオンシップや香港マイルを見据えるなら、右回りへの対応が今後のひとつの鍵になるだろう。

2着 クランフォード 菊沢一樹騎手

序盤は菊沢騎手が促して前へ出ていき、その後は大外から進出してきたメタルスピードを行かせて2番手へ。逃げを譲ったようにも見えるが、コーナーに入る前には再び先頭へ立ち、結果的には自らレースを動かす形となった。

ここで良かったのは、枠の内外の利を活かした菊沢騎手の判断だろう。大外枠から前を狙ったメタルスピードに完全にハナを取り切らせず、内のポジションを確保したまま主導権を握り返す。不良馬場だからといって外へ逃げるのではなく、開幕週の馬場を踏まえ、イン前の位置を譲らなかったことが2着好走につながった。

直線でも内ラチ沿いを通って粘り込みを図り、一瞬空けた最内を抜けた勝ち馬には大きく離されたものの2着を確保した。不良馬場で前に行って踏ん張るには楽な流れではなかったはずだ。それでも、重馬場で勝利した経験を活かすように、後方勢が仕掛けどころを探る間にリードを保ち、最後まで脚を使っている。

馬場負けを避けるよりも、展開負けしないことを選んだ一戦だった。
最序盤からイン前を譲らない強気の選択が、開幕週の競馬にマッチしての好走だったと言えるだろう。

3着 ファーヴェント 西塚洸二騎手

ファーヴェントは、鞍上の西塚洸二騎手との相性の良さを改めて見せた。これまで4度の騎乗経験があり、2勝、2着1回。着外に敗れた1戦も、先行馬に向かない展開でのものだった。

道中は1枠1番を活かし、先行集団の内側で流れに乗る形。直線でも外へ大きく持ち出すのではなく、内の進路を選択し、前にいたクランフォードのすぐ外から追う競馬を選んだ。どこを通るかが勝敗を分ける中、ロスを抑えた立ち回りが3着につながっている。

京都金杯ではブエナオンダとワンツーを決め、今回も馬場が難しい中で上位に食い込んだ。直線では後方から伸びてきたブエナオンダの追撃も振り切り、3着を確保。勝ち馬の末脚には及ばなかったものの、先行して流れに乗り、最後まで崩れなかった内容には安定感がある。

西塚騎手がこの馬のリズムをよく理解していることも伝わる一戦だった。重賞制覇まで、あと少しのところまで来ている。

5着 エルトンバローズ J.コレット騎手

重賞3勝、マイルチャンピオンシップでは3年連続で掲示板に入っている、この路線ではトップクラスの存在である。トップハンデ59キロも、前走しらさぎSの勝利を考えれば納得の斤量だった。

今回は普段より後方からの競馬となったが、直線では馬群の内を選び、ブエナオンダとの競り合いの中で最後まで脚を使っている。ブエナオンダがファーヴェント、クランフォードの外から差しに動いた場面では、エルトンバローズも外へよれる形になり、決して楽な直線ではなかった。それでも最後は盛り返しており、実績馬としての地力を見せた5着だった。

59キロ、不良馬場、初コンビという条件を考えれば、着順以上に内容は悪くない。また、サマーマイルシリーズでは前走の勝利で10ポイント、今回の5着で2ポイントを獲得し、合計12ポイントとなった。重賞勝利という条件も前走でクリアしており、現時点でサマーマイルシリーズ優勝の資格を得たことは、この5着の大きな意味でもある。

中京記念、京成杯オータムハンデキャップの結果次第では、シリーズ優勝も見えている。勝利には届かなかったが、トップハンデを背負ってなお、夏のマイル路線の中心にいることを示す走りだった。

11着 ダノンセンチュリー 戸崎圭太騎手

左回りと鋭い末脚を武器に期待された一頭だったが、今回は不良馬場と進路選択が難しい競馬になった。

道中は中団後方で脚を溜める形。ただ、直線では前にサンダーストラック、すぐ外にドロップオブライトがいる位置で、動き出しが難しくなった。外へ進路を求める馬たちも多く、仕掛けのタイミングも限られている。

新潟の長い直線なら末脚を生かせるはずだったが、この日は馬場の外へ出せば伸びるという単純な状態ではなかった。結果的に、内を突いた馬たちが上位に入る中で、外差しを狙う形になったことも苦しかった。

最終的に進路が開いてからも差を詰め切れなかったことを考えると、この馬の真価は良馬場でこそ発揮されるものなのだろう。3歳時に挑んだスプリングSも重馬場での敗戦だった。前走の京王杯スプリングCでは1400mがやや短かったことを踏まえても、1600mから1800mで、良馬場の中スムーズに脚を使える条件なら、改めて見直したい馬である。

暑さに耐えられるようなら中京記念、秋なら富士Sや毎日王冠あたりで、もう一度この馬の末脚を見てみたい。

レース総評

今年の関屋記念は、開幕週でありながら不良馬場への適性も問われる、難しい一戦となった。

夏の新潟、長い直線、サマーマイルシリーズ。例年であれば、軽い馬場でどれだけ鋭い脚を使えるかに目が向きやすい舞台である。しかし今年は、昼休憩中に降り出した猛烈な雨によって、良馬場から一気に不良馬場へと悪化した。暑熱対策として競走時間帯が拡大された中で行われたレースだったが、明暗を分けたのは暑さだけではなかった。

勝ったアンパドゥにとっては、まさに恵みの雨だったのだろう。父Iffraajの欧州血統を背景に、不良馬場でも力強く脚を伸ばす。外へ広がる馬群を横目に、最内を突き抜ける岩田望来騎手の勇気ある選択に応え、最後は5馬身差の完勝を収めた。馬場をこなす力と、進路を選ぶ判断。その両方が噛み合った勝利だった。

一方で、外から突き抜ける末脚を見たかったダノンセンチュリーにとっては、涙雨となった。長い直線で末脚を生かしたい馬にとって、進路が開き切らなかったことも、道悪になったことも苦しい条件だった。良馬場なら違う脚を見せられたのではないか。そう思わせる敗戦でもあった。

暑さへの耐性が話題になりがちな夏競馬。しかし、夏にはもうひとつの顔がある。突然空が暗くなり、強い雨が馬場を一変させる夕立の季節でもある。今年の関屋記念は、その“夏の雨”にどう立ち向かうかを問うレースだった。

前で残す競馬を選ぶのか。直線でインコースにこだわるのか。あるいは、いつもの末脚勝負を貫くのか。答えは人馬によって分かれたが、結果として軍配が上がったのは、馬場を受け入れ、内を選び、最後まで力を出し切った馬たちだった。

夏から秋にかけては、ゲリラ雷雨や台風が馬場状態を大きく左右することもある。反対に晴れれば、酷暑との戦いになる。速さだけでも、力だけでも足りない。変わりゆく気象条件にどう対応するか。夏競馬は、そうした総合力も人馬に問いかけているのかもしれない。

雨雲に覆われた新潟の直線で、アンパドゥは新たなマイル重賞馬として名乗りを上げた。その勝利は、夏のマイル路線において、馬場を味方につけることの大切さを改めて感じさせる一戦だった。

写真:突撃砲

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