札幌記念。北海道シリーズの大一番である。

北海道開催では唯一のGIIである札幌記念。今年は9年ぶりにGI馬の出走がない一戦となったが、秋の飛躍を目指す16頭が札幌競馬場に集まった。

1番人気に支持されたのはショウヘイ。3歳時に京都新聞杯を制し、4歳初戦のアメリカジョッキークラブCでも勝利を挙げている。鞍上には、夏は中京を主戦場にする川田将雅騎手が札幌まで駆けつけた。前走大阪杯から間隔を開けて迎える夏競馬。重賞3勝目を決め、層の厚い4歳世代の強さを改めて示せるだろうか。

2番人気はアドマイヤテラ。目黒記念、阪神大賞典を勝っているステイヤーで、次走には凱旋門賞を予定している。当初は武豊騎手とのコンビで出走を表明していたが、シックスペンスとのコンビで一足先にフランスへ挑むことになり、このレースでは坂井瑠星騎手との初コンビを組む。2000mは普段よりも短い距離だけに、どのように立ち回るのかが注目された。

友道厩舎の2頭が人気を集める中、宮徹厩舎の6歳馬、シェイクユアハートも重賞2勝馬として参戦する。鞍上は、3歳時から長くコンビを組んでいる古川吉洋騎手。前走の宝塚記念は雨の中での決戦となり、前のメイショウタバルが止まらない差し馬泣かせの展開だった。それでも、この馬の唸るような末脚は、今回のメンバーでも屈指のものがある。

サマー2000シリーズを走ってきた馬たちも、このレースに参戦してきた。前走函館記念からはマジックサンズ、アラタ。七夕賞からはマイネルモーントとオニャンコポン、小倉記念からはゼンダンハヤブサが札幌へ北上。サマー2000シリーズのポイント争いという意味でも、見逃せない一戦である。さらに、函館記念からダートのマリーンSへ転戦し、ここへ臨んできたイガッチも面白い1頭であった。

重賞実績か、夏の勢いか、それとも思わぬ大逆転か。GIホースへの挑戦権をかけて、ファンファーレの音とともにゲートインが始まった。3万人近いファンが見守る札幌競馬場で、北海道シリーズの主役に名乗りを上げるのは、果たしてどの人馬か。

レース概況

スタートは大きな出遅れなく、各馬ほぼ横一線。まずは最内のオニャンコポンが出たなりに前を目指す。その後方では、外枠からレディネスとホウオウビスケッツがインコースの前目を求めて進出。1コーナー入口でホウオウビスケッツが先手を取り、隊列を引っ張る形で向こう正面へ入っていった。

レディネスの外にはショウヘイ。その後ろにイガッチ、サクラファレルが続く。エコロヴァルツとアドマイヤテラは中団で1コーナーを通過したが、坂井瑠星騎手はここで早くもアドマイヤテラを促し、前との差を詰めにいった。2000mでは本来距離が短いステイヤーらしく、早めに動いてスタミナ勝負へ持ち込もうとする。

アドマイヤテラが動いたことで空いたスペースにはグランディアが入り、前半1000m通過は59秒4。ホウオウビスケッツを楽には逃がさないアドマイヤテラの進出によって、レースは緩まない流れになっていく。3コーナー入口では、中団まで位置を上げてきたシェイクユアハート、ローシャムパーク、マジックサンズが差し脚をうかがう形。前の速い流れに置かれるように、マイネルモーント、ピンクジン、アラタは後方からの競馬となった。

逃げるホウオウビスケッツ。その直後からショウヘイとアドマイヤテラが追いかけ、さらに外から勢いよく進出してきたのがマジックサンズだった。一方、インコースではレディネスが仕掛けどころを待ち、外ではシェイクユアハートがまだ脚を溜めている。残り400mを迎える頃には、最後方にいたマイネルモーントも先団へ迫る勢い。前にいた馬たちは内へ、差し馬たちは外へ広がり、直線は横に広がっての脚比べとなった。

ペースを握っていたホウオウビスケッツは、残り200m付近まで粘る。先にアドマイヤテラやショウヘイが苦しくなる中、最内から抜け出してきたのはレディネスだった。外からはサクラファレルが脚を伸ばし、そのさらに外から末脚全開でシェイクユアハートが突っ込んでくる。

最後は、4コーナーで大外に持ち出したシェイクユアハートが一気に前を飲み込み、後続に2馬身半差をつけてゴール。勝ち時計は1分58秒2のレースレコード。北海道シリーズの大一番で、重賞3勝目を鮮やかに決めてみせた。

2着にはサクラファレル。3着争いは、最内をロスなく立ち回ったレディネスに軍配が上がった。中団後方で構えていたローシャムパークは、コーナーで内をすくって4着。外から脚を伸ばしたグランディアが5着に入った。人気を集めたショウヘイは7着、早めにスタミナ勝負へ持ち込んだアドマイヤテラは、最後の末脚比べに対応し切れず9着に終わった。

各馬短評

1着 シェイクユアハート 古川吉洋騎手

長くコンビを組むシェイクユアハートと古川吉洋騎手。デビューからここが31戦目となるが、そのうち25戦で古川吉騎手が手綱を取っている。

後方から外を回して末脚に懸ける形は、前走の宝塚記念と同じだった。ただ、前走は大雨の重馬場で、前のメイショウタバルが止まらない差し馬泣かせの展開。今回は天候にも恵まれた良馬場で、序盤から各馬が動き合う流れになった。その展開を最後まで待ち、馬場の大外から突き抜けた脚は見事だった。

3歳時には準オープンまで上がっていたものの、オープンクラスへ昇級するまでには1年以上を要した。それでも、その間も2着、3着、4着と大きく崩れない走りを続けてきた。オープンクラスに上がった5歳以降も、大きく崩れたのは宝塚記念と、上がり32秒台が出る究極の末脚比べになった昨夏の新潟記念くらい。とにかく最後は末脚を使える馬である。

これまでの重賞2勝は、中日新聞杯と金鯱賞。いずれも中京芝2000m戦だった。しかし今回は、右回りで洋芝の札幌芝2000mを1分58秒台で快走してみせた。6歳にして充実しているのは、ハーツクライ産駒の成長力のなせる業だろうか。

2000mのGIと言えば、秋の天皇賞である。実はこれまで関東圏で走ったことがない馬だが、末脚比べになりやすい東京競馬場なら、この馬の持ち味は存分に発揮できるはずだ。北海道シリーズの大一番を制した勢いそのままに、秋の東京でどのような走りを見せるのか楽しみになった。

2着 サクラファレル 佐々木大輔騎手

半兄はマイル重賞を2勝し、現在は金沢競馬に移籍しているサクラトゥジュール。その兄の背中も知る佐々木大輔騎手との初コンビで、サクラファレルは強豪たちに挑んだ。

堀宣行厩舎の馬らしく、これまで挙げた4勝はいずれも外国人騎手とのコンビだった。そうした素質馬を任された佐々木騎手にとっても、腕の見せどころとなる一戦だったと言えるだろう。

道中では、アドマイヤテラが外から動いていったタイミングで行きたそうな素振りを見せていた。それでも、佐々木騎手は慌てなかった。アドマイヤテラを先に行かせた後、少し外へ持ち出してコーナーから勝負に加わるという戦法で、仕掛けを待てたことが直線での伸びにつながった。

これまではもう少し前のポジションで運ぶことが多かった馬である。そのサクラファレルを、GIIの舞台で我慢させ、最後に脚を使わせて2着まで持ってきた佐々木騎手の腕は評価されるべきだろう。

もちろん、このメンバーを相手に鞍上の指示に従い、勝負どころまで待てたサクラファレル自身の操縦性の良さも好走につながっている。ここまで9戦して掲示板外なし。2度の5着に敗れていた重賞クラスで2着賞金を加算できたことも、大きな収穫だった。

兄サクラトゥジュールは6歳、7歳で重賞を勝った馬である。その血を思えば、4歳のサクラファレルにもまだまだ伸びしろがありそうだ。初重賞勝利も、そう遠くはないかもしれない。

3着 レディネス 横山典弘騎手

昨年覇者のトップナイフと同じ厩舎、鞍上、オーナー、そして同じ10番人気で挑み、見事3着に激走したレディネス。

新馬戦を勝つと、すぐに弥生賞へ挑戦。その後はプリンシパルSを制し、ダービーにも駒を進めた。七夕賞が組まれていたため横山典弘騎手が騎乗できなかった函館の巴賞では、横山和生騎手が代打を務めた。それでも、横山典騎手が長く手綱を離さず乗り続けてきたお手馬の1頭である。そのコンビが、札幌記念という大舞台で“典マジック”を見せてくれた。

7枠14番から迷いなく先行し、インコースへ進んでいく。1コーナーではすでに前のオニャンコポンとホウオウビスケッツを行かせ、3番手の位置に収まっていた。アドマイヤテラが上がってきたタイミングでは、外を進むショウヘイに対し、レディネスは最内へ潜り込む。コーナーではホウオウビスケッツについていきすぎず、内でじっと待機した。

外からは差し馬たちが続々と迫ってくる。それでも横山典騎手は、最内で直線まで我慢した。そしてコーナーの出口でホウオウビスケッツが空けた隙間へ、一直線にレディネスを導く。直後からローシャムパークやグランディアに迫られたが、序盤から徹底してインコースにこだわり、脚を温存していた分で凌ぎ切った。

まさに、札幌記念を知る横山典弘騎手の作戦がしっかりとはまっての好走だった。

サクラファレルと同じ4歳世代で、こちらも今回がキャリア9戦目。4歳になり、3歳時には跳ね返された重賞の壁を越えられそうなところまで成長してきた様子がうかがえる。終始折り合いの心配もなく、距離を延ばしても対応できそうだ。今回の3着を見れば、レディネスも重賞タイトルに手が届く日はそう遠くはないはずだ。

4着 ローシャムパーク 池添謙一騎手

オールカマーでの勝利から、間もなく3年が経とうとしているローシャムパーク。日本に留まらず、香港、アメリカ、オーストラリアと世界中を転戦してきた7歳馬が、夏の札幌に戻ってきた。

今年の日経賞で3着に入り、復調気配は見せていた。今回も僅差の4着で、重賞馬としての力を改めて示したと言えるだろう。

ポイントは、初コンビの池添謙一騎手が後半勝負に懸けた動きである。序盤で無理に出して行かず、コーナーでは池添騎手がわかりやすく右の手綱を引き、ローシャムパークをインへ誘導した。先に仕掛けた馬たちが外を回って空いたところへ、果敢に飛び込んでいく。終始インコースの前にいたレディネスには届かなかったものの、クビ差まで詰めており、内容としては悪くない。

5歳秋は毎日王冠、6歳秋はアルゼンチン共和国杯を走っていたが、秋初戦で最も向くのは、やはり中山芝2200mのオールカマーではないだろうか。2500mの日経賞でも好走しており、距離が延びても対応できる馬である。GIならば、もう一度有馬記念に挑む姿も見てみたい。

9着 アドマイヤテラ 坂井瑠星騎手

武豊騎手がシックスペンスとのコンビでジャックルマロワ賞に参戦することが決まり、坂井瑠星騎手との初コンビで挑んだアドマイヤテラ。目黒記念、阪神大賞典と、ステイヤーとしての能力を発揮してGIIを2勝している馬だが、それゆえに札幌記念の洋芝2000mは距離が短いのではないかという不安もあった。

その中で、このレースの流れを大きく動かしたのが、坂井騎手の早めの進出だった。アドマイヤテラがこれまで繰り出した最速の上がりは3ハロン34秒1。切れ味勝負では分が悪いだけに、スタミナ比べへ持ち込む方が勝算は高かっただろう。

しかし、逃げていたホウオウビスケッツも簡単には譲らない。アドマイヤテラが早めに動いたことで、レースは息の入らない流れになり、直後に3コーナーへ入ると、後続の馬たちも一気に末脚を繰り出してきた。近走の内容を踏まえれば、やはり2000mで競馬をするには少し忙しかったのかもしれない。

シェイクユアハートの切れ味を見ると、同じ位置からの末脚勝負では分が悪い。だからこそ先に動かざるを得なかったが、前のホウオウビスケッツには抵抗され、後続の差し馬たちにも迫られる展開になった。その分、最後は厳しくなったと言えるだろう。

今後は凱旋門賞を目指す予定とのこと。武豊騎手はメイショウタバルとのコンビで直行予定だけに、アドマイヤテラの次走で誰が手綱を取るのかも気になるところだ。距離が延び、本来のスタミナを生かせる舞台で、どのような走りを見せるのか注目したい。

レース総評

今年の札幌記念は、GI馬の出走こそなかったものの、秋の大舞台を見据える実力馬たちがそろった一戦だった。
その顔ぶれにふさわしく、レースは単なる末脚比べでは終わらない。序盤の位置取り、向こう正面での動き出し、そして直線での進路取りまで、人馬それぞれの判断が勝敗を分けるGIIらしい一戦となった。

展開を大きく動かしたのはアドマイヤテラだった。2000mでは切れ味勝負に付き合うよりも、早めに動いてスタミナを問う形に持ち込む。その坂井瑠星騎手の選択によって、逃げるホウオウビスケッツに早めのプレッシャーがかかり、レースは一気に緩みのない流れへと変わっていった。

その流れの中で、各馬の選択は分かれた。先行勢の中でインコースにこだわったレディネスは、横山典弘騎手の“典マジック”とも言うべき立ち回りで脚を温存。中団からは、佐々木大輔騎手がサクラファレルを我慢させ、勝負どころまでじっと待った。そして大外からは、古川吉洋騎手が長くコンビを組むシェイクユアハートの末脚を信じ、最後まで仕掛けを待っていた。

直線で横に広がった馬群の大外から、シェイクユアハートが一気に突き抜ける。勝ち時計1分58秒2は、2008年札幌記念でタスカータソルテが記録した1分58秒6を0秒4更新する札幌芝2000mのコースレコードだった。これで芝2000mの重賞は中日新聞杯、金鯱賞に続く3勝目。中京巧者の実績に、3歳1勝クラス以来の札幌コース挑戦で新たな勲章が加わった。

2着サクラファレル、3着レディネスの4歳馬2頭も、定量戦のGIIで堂々と力を示した。これまでのサマー2000シリーズとは異なり、斤量の助けがない舞台での好走である。ともにキャリア9戦目の馬であり、古馬になってからの成長を感じさせる内容だった。一方、人気を背負って受けて立つ立場だったショウヘイ、そして凱旋門賞を見据えるアドマイヤテラにとっては、札幌記念らしい速さと立ち回りが問われる流れが厳しく映った。

札幌記念は、夏の終わりを告げるだけのレースではない。ここから秋のGIへ向かう馬もいれば、国内重賞で巻き返しを図る馬もいる。さらに今年は、海を越える挑戦を見据える馬もいた。北海道シリーズの大一番に集った16頭は、それぞれの成果と課題を抱え、また次の舞台へ向かっていく。

雨に泣いた宝塚記念から、札幌の良馬場でつかんだコースレコード勝利へ。シェイクユアハートは、長く磨いてきた末脚で、夏の札幌に確かな名を刻んだ。国内重賞へ、GIへ、あるいは海を越えて。ココロオドル瞬間を求めて、再びスタートラインへ向かう夏が続いてゆくのである。

あなたにおすすめの記事