![[追悼]大きな流星がチャームポイントの菊花賞馬 - オウケンブルースリ](https://uma-furi.com/wp-content/uploads/2026/09/ph6.jpeg)
2026年9月9日、当時(08年)、デビューから最速となる184日で菊花賞を制し、一気にGⅠホースへと上り詰めたオウケンブルースリが、肺炎のため息を引き取った。21歳だった。
菊花賞を制したのちも、GⅠ戦線で安定して上位に来る活躍を見せており、2009年のジャパンCでは当時の女王・ウオッカに肉薄するハナ差の2着に。7歳まで現役を続け、息の長い活躍を見せていた。
晩年は、北海道浦河町のうらかわ優駿ビレッジAERUで過ごしたオウケンブルースリ。
昨年のオウケンブルースリの様子を取材した記事が「もうひとつの引退馬伝説2~関係者が語るあの馬たちのその後」に掲載されている。在りし日のオウケンブルースリを振り返り、追悼としたい。

■同じ放牧地にいる対照的なパートナー
牧柵の先にいる見学者のことをよく見ているスズカフェニックスとは対照的に、同じ放牧地の中で「我関せず」と草を食べている馬がいる。その馬、オウケンブルースリがうらかわ優駿ビレッジAERU(以下:AERU)にやってきてからもうすぐ3年が経とうとしている。初めて訪れる場所ではきょろきょろと周囲を見渡したりする馬も少なくないが、オウケンブルースリはAERUの地に初めて足を踏み入れたその日も、まったく物怖じすることなく落ち着いていたという。
競走馬としては3歳のデビューから7歳末まで常に一線級で活躍し、2008年の菊花賞と2009年の京都大賞典を制するなど5勝を挙げた。出走したすべてのレースが2000メートル以上という中長距離路線のスペシャリスト。ハイレベルな馬たちが揃う路線において息の長い活躍ができたのは、そんな落ち着いた性格も大きく関係していることだろう。そして2023年、9年間に及んだ種牡馬生活にピリオドを打ち、AERUの仲間になった。普段の世話などを担当している乗馬課の渡邊有美さんは、オウケンブルースリについて話す時、同じ放牧地にいるスズカフェニックスと比較する。
「寂しがり屋でバタバタしてしまうこともあるスズカフェニックスとは反対に、オウケンブルースリのテンションは常に一定です。スズカがいろいろとちょっかいを出してきても、それは変わりません。たまにじゃれ合いの範疇で蹴ったり、噛んだり……ということはありますが、お尻にべったりくっつかれても怒るようなことはないですね」

スズカフェニックスを“動”とするなら、オウケンブルースリは“静”。その骨太でコロンとした体格に見合うどっしりとした性格は、自分の中に芯のようなものを持っていて、他馬に影響されるようなことが少ない。人に甘えず、噛んだり蹴ったりと反抗的な態度を取るようなこともほとんどないそうだ。手入れの際も大人しく、洗い場で隣に別の馬をつないだとしてもあまり興味がないとのこと。
「ホースから直接水を飲むのが好きなため、顔に水をかけても嫌がるそぶりも見せないです。オウケンにはさく癖(馬房や牧柵などに上の前歯を引っかけて空気を呑み込む動作)があるので、お腹にガスがたまるのを防ぐため、ウオーキングマシンや丸馬場での追い運動などを日課に取り入れています。運動に連れ出されるのがわかっている時だけはさすがに人に抵抗する様子を見せることもありますが、それ以外は癖という癖もないのですごく扱いやすいですね。まったく手がかからないです。自我をちゃんと持っていて、少し変わった馬なのかも(笑)」
自分の世界の中に入り込んで周りにはあまり興味がないようだが、何も考えていないわけではない。この地区では、毎年の年初めに子どもたちが馬に乗ったままAERUの敷地の中を通って神社に向かっていく「騎馬参拝」という地域行事が行われている。普段は見ない馬たちが放牧地の近くを通ることもあってスズカフェニックスは興奮して走り回ってしまうなどするのだが、渡邊さんは「その様子を見たオウケンブルースリの反応が非常に印象的でした」と語る。
「オウケンがゆっくりとスズカフェニックスの方に近寄っていくんです。スズカフェニックスはそれに気がつくとオウケンの後ろにピタッとくっついて走るのをやめるんですよね。オウケンが理解して守ってあげているのかどうかはわからないですが、満更でもないような顔をして、まるで『大丈夫だよ』と落ち着かせているみたいでかわいかったです。馬同士の相性がいいんだと思います」
このエピソードには、2頭の絆を垣間見たような気がした。性格に関しては「静と動」で真逆のでこぼこコンビではあるが、まさに“馬が合う”ベストパートナーといったところだろうか。オウケンブルースリがスズカフェニックスに寄り添う様子は、今やAERUの新しい目玉になっているともいえるだろう。
そんなオウケンブルースリだが、AERUに来た当初は少し心配なこともあった。食事をほとんど口にしなかったのだ。

「飼料が合わなかったみたいで、こちらに来てしばらくは食欲が落ちて体重も減ってしまいました。その時は本来の活力も出なかったのか、毛ヅヤもいまいちで年齢以上におじさんっぽくなってしまって……。今は彼に合った飼料を見つけられたこともあって、状況が大きく改善しました。毎回の食事をいちばん楽しみにしてくれているようで、よだれを垂らして馬房から顔を出してきます。一時は痩せていた馬体も今ではムチムチです!」
ファンの方々から届く腸内環境を整えるサプリメントも与えており、そのおかげもあってか毛ヅヤも体重も戻ってすっかり若々しさを取り戻した。渡邊さんは「本当にファンのみなさんのおかげです」と、ファンの方々への感謝を口にする。
■きっかけはSNS投稿 特徴的な顔は“コッペパン”
オウケンブルースリで真っ先に浮かぶのが、その特徴的な顔という方も少なくないのではないだろうか。前述のようにさく癖があるので、放牧地でも草を食べては牧柵をかじるために見学者の近くまでやってくるのだが、栗毛の馬体と顔の中央にある大きな流星、鮮やかなピンク色で柔らかそうな鼻先、その中心にボタンのようにある黒い模様があまりにもかわいいと見学者の間で人気になっている。
「AERUでは現在、功労馬に触ることを禁止させていただいているのですが、見学者の方から『思わず触りたくなっちゃう』という声がいちばん多いのがオウケンですね。ムチムチで柔らかそうですし、印象的な派手顔なので顔ファンも多いと思います」

過去にはSNSを通じてコッペパンみたいだと話題になったことがきっかけになり、地元の老舗洋菓子店に話を持ちかけたところ、期間限定での商品化が決定したこともある。公募により決定した商品名はオウケンブルースリの愛称にちなんで「うまコッペ アチョーくん」。販売の際には地元の方はもちろんのこと、遠方からもたくさんの方がオウケンブルースリそっくりのコッペパンを買い求めて行列をなし、あっという間に完売した。たいへん残念なことにその洋菓子店が火災によって全焼してしまい、再販の目途などは立っていないが、渡邊さんは「機会があれば」と前置きした上でまたコラボしたいと期待を寄せる。
「遠くから買いにきてくださったファンの方もいらっしゃったように、コッペパンはすごく反響の大きい企画だったと思いますし、今でも『また売ってほしい』という声をいただくことが多いです」
バズったきっかけがSNSの投稿だったこともあり、渡邊さんはSNSの力の大きさを強く感じている。現在もオウケンブルースリをはじめ、AERUの馬たちのかわいいグッズはたくさんあるが、現地に来た方にしか手に取ってもらえない現状を少し残念にも思っているそうだ。
「オウケンの特徴的な顔は抽象化してもわかりやすくグッズ化しやすいんじゃないかなと思いますし、多くの人に顔を覚えていただいて会いにきてくださるファンの方がひとりでも増えてくれるといいなと思います。今あるグッズの他にもコッペパンのようなかわいらしい商品を開発して、SNSを通じてたくさんの方にオウケンブルースリを知ってもらえたらうれしいです」
2025年、大きな節目となる20歳を迎えたオウケンブルースリは、これからもAERUを訪れる人たちを、そしてSNSを通じて多くの人たちを虜にしていくことだろう。「たくさんのファンに愛されながら長生きしてほしい」という渡邊さんのそんな願いは、今日も放牧地でパートナーに寄り添う彼に届いているに違いない。

取材・文:秀間翔哉

| 書籍名 | もうひとつの引退馬伝説2~関係者が語るあの馬たちのその後 |
|---|---|
| 発売日 | 2025年10月9日 |
| 価格 | 定価:1,980円(税込) |
| ページ数 | 144ページ |

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