![[重賞回顧]秋雨と共に急上昇!「傑作」への道拓く~2026年・紫苑S~](https://uma-furi.com/wp-content/uploads/2026/09/202609066.jpeg)
今年で重賞となってちょうど10年の紫苑S。GⅢ時代にはディアドラ、ノームコアといったのちのGⅠ馬を送り出し、2022年には秋華賞馬スタニングローズを輩出した。GⅡに昇格したあとも、23年の3着馬シランケドが2年後に新潟記念を制し、ヴィクトリアマイルや天皇賞(秋)といったGⅠでも好走するなど、このレースで圏内に入ってくる馬にはのちの活躍馬が非常に多い。まさに秋の登竜門かつ出世レースと言えるだろう。
今年はあいにくの空模様となり、芝の馬場状態は重まで悪化。2000年の創設以来、中山競馬場での施行では初の道悪開催で、本番の秋華賞を前に、相当なパワーとタフさを要求されるコンディションとなった。
そんな条件下でも抜けた1番人気に推されたのがオークス2着馬のドリームコア。桜花賞こそ9着に敗れたが、春にはクイーンCを制し、実績は折り紙付き。夏の間に、桜花賞馬スターアニスはスプリンターズSへ路線を変更し、オークス馬ジュウリョクピエロは秋華賞へ直行することが確定した。こうなれば、春の実績馬として負けるわけにはいかない。さらにドリームコアの母は、17年に紫苑Sを勝利したノームコアで、レース史上初となる母子制覇の快挙もかかっていた。
そしてそのオークスで道中自ら動き、決勝戦手前まで見せ場を作ったのがリアライズルミナスが2番人気。1000m通過が62秒2というスローペースを見抜き、中団から一気に捲っていった津村明秀騎手の手腕が光る1戦だった。結果は4着だったが、十分に実力を示していたと言えるだろう。休み明け初戦の燕特別は3着だったが、たたき2戦目の上昇を見込んだファンは多かった。
この2頭からやや離れた3番人気となっていたのがジッピーチューン。こちらは桜花賞2着以来の実戦となるが、同競走ではドリームコアに先着したうえ、クイーンCでも同馬に食らいついての2着の実績がある。何より、中山で未勝利戦を勝利しているという点は、昨秋、この場所で3着に負けているドリームコアより評価できるポイント。骨折明けで久しぶりの実戦ではあるが、いきなり走ってくれても不思議はないという見方だった。
これにクイーンC4着以来の実戦となるマスターソアラまでがひとケタ台のオッズで続き、レースを迎えた。
レース概況
横一線とまでは言えないが、特に出遅れた馬はおらず先行争いへ。まずはリアライズルミナスが行くように見えたものの、それを制して外からナイスプレーアスクがハナを叩く。その内からロングトールサリーも先手を主張し、久々の実戦であるジッピーチューンも今日は先行策。
一方、条件戦を逃げて連勝してきたベンヴェヌータは、石橋脩騎手が手綱を引いて中団からの競馬に。加えて番手からの競馬が多かったファムクラジューズも馬群の中に付け、これまでとは違う作戦を取る馬が散見された位置取り争いとなる。そのなかでもドリームコアは先手を取った2頭の直後、いつも通りを貫くような位置を取った。
向正面に差し掛かるまでには隊列も落ち着き、先行策を取った5頭を見ながらベンヴェヌータとファムクラジューズ、その直後にマスターソアラ、サムシングスイート、アストリルがいて、3馬身ほど離れてジワタネホが最後方を進む。先頭のナイスプレーアスクが作ったペースは1分1秒9と、馬場状態を加味してもかなりのスローペース。しかし、800mの直後でナイスプレーアスクが後続を離していくと、2番手にいたロングトールサリーは手ごたえが怪しくなり後退。それを飲み込むようにリアライズルミナス、ドリームコア、ジッピーチューンと人気4頭が進出を開始し、最後の直線に向かっていく。だが4角手前でジッピーチューンが遅れ、かわって後方からマスターソアラが進出。経済コースを突いてきたサムシングスイートも勝負圏内へ入ってきた。
坂の手前、逃げるナイスプレーアスクを捉えにかかった4頭のなかから、リアライズルミナスが脱落。ナイスプレーアスクも抵抗できるだけの脚力はなく、勝負のゆくえは3頭に絞られたが、坂を上り切ってドリームコアの手ごたえが怪しくなると、内のサムシングスイート、外のマスターソアラが抜け出す。そして最後にもうひと伸びを見せたマスターソアラが突き抜けて決着。およそ半年ぶりの実戦、キャリア3戦目で初の重賞タイトルを手にし、秋華賞への優先出走権も獲得した。

各馬短評
1着 マスターソアラ
3戦2勝、2月のクイーンCからぶっつけの重賞挑戦だったが、そんなブランクを全く感じさせない走りで優勝。プラス10キロの馬体増も成長の証だろう。
前走の時点ではドリームコア、ジッピーチューンといった、今回上位人気に推された馬たちに水を開けられる4着であったが、もともとデビュー戦では上がり32秒8という驚異的な瞬発力も見せていたマスターソアラ。瞬発力が問われやすい京都競馬場での開催となる本番、秋華賞ではさらなる上昇も期待して良いのではないだろうか。

父シスキンはこれで中京2歳Sに続いて今年の重賞2勝目となり、2週連続の重賞勝利。2歳戦でも大活躍を見せているこの血が、秋の牝馬三冠路線も席巻するか注目だ。
2着 サムシングスイート
春はフローラSを出走取消、スイートピーSを4着と、惜しくも樫の舞台に駒を進めることは叶わなかったが、8月の1勝クラスを快勝して転戦してきた今回は2着。見事に最後の一冠に向けての切符を手にした。
荒れた馬場をものともせず、最内をピッタリ突いて回ってきての2着には、鞍上・団野大成騎手のコース選択も功を奏したに違いない。そしてその要求にしっかり応えてきたサムシングスイート自身の能力も水準以上と考えていいだろう。今日のようなタフなレースには強そうだ。
母であるサムシングジャストもグリーンファームの所有馬で、2歳の早い時期から重賞に出走もしていたが、牝馬三冠レースに出走することは叶わなかった。果たして、母の無念も同時に晴らす秋華賞となるだろうか。
3着 ドリームコア
1番人気に支持されながら3着という成績にはなったが、道悪でも3着に好走したという能力の高さは評価するべきだろう。むしろ、長く脚を使える強さは改めて示してくれた格好ではないだろうか。
オークスでもそうだったように、番手から安定して速い上がりを使うことができるのはこの馬のストロングポイントと言える。現役時代、同じような走りを見せていた母ノームコア譲りの末脚だろうか。

ただこの強みは、瞬発勝負の馬場となると切れ味に特化した馬たちに後れを取る可能性もある。そして三冠最後の舞台である秋華賞が行われる京都競馬場は、極限の上がり勝負になることもしばしば。この点をどう適応させて本番に臨んでいくだろうか。
総評
レース全体のラップは61.9-61.6で、走破タイムは2分3秒5とこれまでの紫苑Sでは最も遅いタイムとなった。だが、1ハロンごとのラップタイムに目を移すと、1600m通過地点から一律で12.5-12.5-12.3-12.4-12.3-12.2-12.4。全く息が入らないラップ構成になっていたことがわかる。こうなれば、先行馬には厳しくなる流れなのは必至だ。そういうなかで番手の競馬から3着に粘り通したドリームコアは、相当タフで長く脚を使える持ち主と考えて良さそう。古馬になった来年、さらなる成長があれば、天皇賞(春)に挑戦しても面白いかもしれない。
そして、この展開をまくり上げるような形で勝利したマスターソアラも同様に、力の要る馬場に適応できる馬と言える。加えて、デビュー戦で見せた末脚からは、高速決着になりやすい京都の芝にも十分に対応できそうな気配すら感じさせた。スピードとパワーを兼ね備えているのならば、難所となりがちな淀の坂も問題なさそう。春の牝馬クラシックは脚部不安で涙をのんだが、その鬱憤はこの秋、まとめて晴らしてくれるのではないだろうか。
マスターソアラの馬名由来は「傑作+上昇する人」。まさに名は体を表すかのごとく、春から一気に急上昇してきた。キャリア2戦での紫苑S制覇は、レース創設以降初だ。
また、マスターソアラを管理する蛯名正義調教師はJRAの重賞2勝目で、3歳限定の重賞は初勝利。おそらく、今後は秋華賞を目指すことになると思うが、これまで騎手、調教師の両方で同レースを制したのは松永幹夫調教師のみ。さらに騎手時代、牝馬三冠馬の手綱を握った調教師が秋華賞を勝利するとなれば、それは史上初の快挙となる。同師にとって3年ぶりの重賞制覇は、そんな快挙達成の予感さえさせるものだった。
加えて、マスターソアラに騎乗した大野拓弥騎手も、JRAの重賞勝利は24年、福島記念をアラタで制して以来約2年ぶり。馬主のインゼルレーシングも、JRA重賞は初めての制覇で、父シスキンは2週連続のJRA重賞制覇。まさに、数々の波が一気に上昇気流に乗ってきたと言える勝利だったと言えるだろう。
この勢いそのままに、樫の女王を撃破して秋の華を咲かせることはできるだろうか。1ヶ月半後に開催されるラスト一冠が、今から待ち遠しい。

写真:ぼん(@Jordan_Jorvon)、突撃砲
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