[今週の注目]母の記憶を継ぎ、秋へ歩み出す - ドリームコア、紫苑Sへ

この秋、ひときわ注目したい3歳牝馬が始動する。

桜花賞こそ9着に敗れたものの、直前に師を失うという大きな試練のなかで臨んだオークスでは、勝ち馬とクビ差の2着に好走。悔しさと誇りを胸に、秋のGⅠ戦線へ歩み始めるドリームコアである。

父はキズナ。母はヴィクトリアマイルと香港CのGⅠ2勝を含め、重賞5勝を挙げた名牝ノームコア。その母が初めて重賞タイトルを手にしたのが、2018年の紫苑Sだった。

ノームコアの2番仔にして、初めての牝馬として生まれたドリームコア。その娘が母と同じレースを秋の始動戦に選んだことには、血統が紡ぐ物語ならではの夢がある。今週、母が飛躍への第一歩を記した中山競馬場に、その姿を現す。

■一瞬の切れ味が光る!ドリームコアの蹄跡

ドリームコアのデビューは、2歳6月の東京芝1600メートルの新馬戦だった。D.レーン騎手を背に単勝1.5倍の支持を集めると、危なげなく逃げ切って初陣を飾った。

続くサフラン賞では出遅れが響き、中団からの競馬を余儀なくされた。それでも直線ではしぶとく脚を伸ばし、3着を確保。敗れはしたものの、簡単には崩れない勝負根性と確かな素質を感じさせる一戦だった。その後、ベゴニア賞を制して2勝目を挙げ、3歳初戦のクイーンCへ向かった。

重賞初挑戦となったクイーンCでは、阪神ジュベナイルフィリーズ2着のギャラボーグに1番人気を譲ったものの、白毛馬マルガや新馬戦を鮮やかに勝ったモートンアイランドを上回る2番人気に支持された。

レースでは好スタートから4番手の内につけ、じっくりと脚をためた。しかし、直線を迎えても前が壁となり、進路が見つからない。内にも外にも抜け出す場所がなく、万事休すかと思われた。

それでも残り200メートル、わずかに開いた2頭の間を見逃さなかった。狭い進路を割って一気に抜け出すと、残り100メートルでは外から迫るジッピーチューンを振り切り、力強く先頭でゴールを駆け抜けた。

一瞬の判断に応える鋭い加速。あの勝ち方は、ヴィクトリアマイルでアエロリットやラッキーライラックを差し切った母ノームコアの末脚を、どこか思い起こさせるものだった。

「このまま桜花賞でも突き抜けるのではないか」

「距離が延びれば、東京の長い直線でさらに力を発揮するのではないか」

そんな期待が高まるのも当然だった。

しかし、桜花賞ではスタート直後の不利により、後方からの競馬を余儀なくされた。本来の持ち味である末脚を十分に発揮できないまま、9着に敗退。重賞を制した勢いをクラシックの舞台へつなげることはできなかった。

それでも、オークスに向けて帰厩してからの気配は良かった。陣営からは「桜花賞前より断然良い」との声が聞かれ、C.ルメール騎手も左回りと距離延長を好材料に挙げていた。舞台が東京に戻ることで、期待は再び膨らんでいった。

ところが、最終追い切りで抜群の動きを見せたその日の午後、管理する萩原清調教師の訃報が伝えられた。

母ノームコアを名牝へと育て、ドリームコアの才能を見いだした名伯楽の急逝。オークス直前にもたらされた突然の別れは、関係者はもちろん、多くの競馬ファンの胸を締めつけた。

亡き師への思いを背負って臨んだオークス。ドリームコアは好位から堂々とレースを進め、直線でも力強く先頭をうかがった。後続が迫るなか必死に粘り込みを図ったが、ゴール寸前、後方から伸びてきたジュウリョクピエロにクビ差かわされて2着。あと一歩、勝利には届かなかった。

悔しさの残る結果ではある。それでも、2400メートルの大舞台で最後まで勝利を争った走りは、ドリームコアの確かな成長と能力の高さを証明するものだった。

その後は夏を無事に越し、秋の始動戦として選ばれたのが、母ゆかりの紫苑Sである。田中博康厩舎へ転厩してからも調整は順調に進み、心身ともに充実した姿で中山へ向かう。

■亡き師への思いを胸に、紫苑Sへ

紫苑Sは、秋華賞へ向けた重要なステップであると同時に、ドリームコアにとっては母の歩みをたどる一戦でもある。

2018年、ノームコアは中山の急坂を力強く駆け上がり、初めて重賞の栄冠を手にした。そこからヴィクトリアマイル、さらには香港Cを制する名牝へと飛躍していった。母にとって大きな転機となった舞台が、今度は娘の前に新たな扉として現れる。

焦点のひとつは、中山の急坂への対応だろう。東京で見せた鋭い末脚はもちろん、クイーンCで披露した瞬時の加速力は、小回りの中山でも大きな武器になる。右回りもサフラン賞や桜花賞で経験しており、決して苦にするタイプとは思えない。

好位で流れに乗り、勝負どころまで脚を温存する。そして直線でわずかな進路を見つけ、一気に抜け出す──。クイーンCで見せたような勝負強さを発揮できれば、秋華賞へ向けて大きな追い風となるはずだ。

紫苑Sの先には、3歳牝馬三冠の最終戦・秋華賞が待っている。

オークスで見せた粘り強さと気迫。亡き師への思いを胸に、最後まで懸命に脚を伸ばした姿は、多くのファンの記憶に刻まれた。母ノームコアが古馬になってからさらに末脚に磨きをかけたように、ドリームコアも秋以降、まだまだ成長を遂げるはずだ。

ノームコアを名牝へと導き、その娘の才能を見いだして丁寧に育てた萩原清調教師。厩舎は変わっても、ドリームコアの走りのなかには、師が注いできた情熱と時間が息づいている。

再始動となる紫苑Sは、悲願のGⅠ制覇へ向けた大切な第一歩だ。母が飛躍のきっかけをつかんだ舞台で、娘はどのような走りを見せるのか。

ドリームコアが紫苑Sのパドックに姿を現すとき、母ノームコアが残した記憶、亡き師から託された思い、そして彼女自身が積み重ねてきた蹄跡が、ひとつの物語として結びつく。

まだ夏の名残が漂う中山競馬場で、ドリームコアの新たな挑戦が、静かに始まる。

Photo by I.Natsume

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