[連載・片目のサラブレッド福ちゃんのPERFECT DAYS]ドコフクカゼの厩舎決定!(シーズン2-27)

福ちゃんを取り巻く状況にも大きな変化が生まれていました。3月初旬に理恵さんがエクワインレーシングを訪れた際、「調教師から連絡がないのですが、大丈夫ですかね?」とそれとなく聞かれたそうです。他の馬たちの調教師は北海道に来たタイミングでエクワインレーシングを訪れ、管理予定馬の仕上がりを目の前で見たり、進捗状況を確認したり、はたまた実際に背中に跨ってみたりすることもあるそうです。オーナーはストーカーのように頻繁に見学に来るにもかかわらず、肝心の調教師からはコンタクトがなくて、このオーナーは預かり先の当てがあるのか?と心配してくれたのでしょう。

福ちゃんはすでに僕だけの馬ではありません。チーム福ちゃんの皆さまのためにも、YouTubeチャンネルなどの動画撮影や情報共有が大切になってきます。福ちゃんが今、どのような状況なのかを逐一知る必要があるのです。この情報共有という点において、ずっと引っ掛かってきました。

追い切りの感触や出走するレースの予定、レース後の馬の状態や騎手からのフィードバック、そしていつ外厩に放牧に出して、いつ戻ってきたのかなど、ひと通りの報連相は当たり前として、それ以上の情報提供は、僕が調教師や厩舎で働くスタッフだとしたら、面倒くさいと思うかもしれません。全ての馬主と細かくやり取りをしていたら、キリがなくなってしまいます。結果が全ての世界ではありますし、細かい情報提供ややり取りは十分でも、馬が走らなければ本末転倒です。

それを分かった上で、それでも福ちゃんに関しては、普段の様子や調教の過程を撮影させてもらったり、レースの選定から外厩に出すタイミングまで、細かくやり取りをさせてもらいたいと願います。決して僕のエゴやわがままでそう言っているのではなく、福ちゃんはファンの方々に支えられて育ってきた馬なので、できる限りの情報はお伝えする義務があるからです。

自分たちのやりたいように仕事をさせてもらうけど、お金は払ってねというスタイルの調教師でも、普通の馬であれば納得しますが、福ちゃんに関してはゆずれない部分があるのです。福ちゃんの生い立ちや存在を理解してくれて、できる限り快く協力してくださる調教師を探していました。

船橋にこだわりすぎても埒が開かないと思い、ある日、川崎競馬で調教助手をやっている志村直裕さん(彼に関しては、「馬主は語るシーズン1-3」にて詳しく書いています)にLINEをして、それとなく聞いてみました。

「川崎でおすすめの厩舎とかってありますか?」

「長友厩舎はしっかりやっていますよ。マメですし」と即レスがありました。僕が聞きたかった部分まで手が届くような回答が返ってきて、嬉しくなってしまいました。僕の友人の上手獣医師も馬を預けている関係で長友厩舎は知っていましたし、Xにて木村拓己くんの育成牧場である99.9を訪れたという投稿も見て親近感を覚えていました。「厩務員経験も長いので、馬に対しても知見が深いです」とのこと。さらに「何かいましたら、長友厩舎をお願いします!」と言うので「長友厩舎の広報担当か!」とツッコミを入れたほど(笑)。その他のいくつかの厩舎もお勧めしてもらいましたが、長友厩舎はバランスが良さそうだと感じました。

長友豊厩舎は2025年9月に開業した、新装オープンの新しい厩舎です。南関東競馬のHPで調べてみると、預託馬が今のところ8頭であり、2026年4月から1馬房プラスになって9馬房になりますから、1頭分空いている計算です。

ほとんどの厩舎は馬房数以上の馬を預かって、外厩に出したり入れたりしながら回しています。厩舎にいるとどうしても馬はピリピリした人間の雰囲気を感じてストレスがかかりますから、肉体的にも精神的にも環境を変えて、外厩に出してゆったりとリラックスさせる必要があります。常に走れる状態にある馬たちが厩舎内にいて、そうではない馬たちを外厩で休ませるというサイクルを上手につくることで、効率の良い厩舎運営が可能になります。ただしその回転が行き過ぎてしまうと、まだ走れる状態の馬が外厩に出されてしまったり、馬房が一杯で走れる状態の馬が戻ることができずに待機状態で詰まってしまったりが起こります。

福ちゃんは馬運車の輸送を苦手とするはずですから、外厩に行く時の輸送で疲れ、外厩の環境に慣れるのに時間がかかり、慣れてきたと思ったら川崎の厩舎に戻され、帰り道の輸送でも消耗し、疲れを取るために外厩に出したのに、出す前よりも悪くなって(馬体が減って)戻ってきたなんてことが起こり得るのです。

実際にルリモハリモがそうでした。昨年12月のレース後に外厩に放牧され、向こうでも入れ込んでなかなか体が戻ってこず、ようやく3月下旬に戻したら、帰途の馬運車で暴れてしまい、張田厩舎に到着した頃にはガリガリになってしまったそうです。そのままではレースに使うことができず、結局、5月まで待って立て直すことになり、何のために4か月も放牧に出したのか分からない結末となりました。普通に放牧に出て戻ってくる馬もいれば、ルリモハリモや福ちゃんのように、環境が変わることや馬運車に乗っての輸送でストレスがかかる馬もいるのです。

十把ひとからげに扱われてしまうと、ルーティーンワークから外れる馬は損を被ってしまいます。調教師や厩舎としては、嗚呼、せっかく放牧に出したのにガレて戻ってきたよとひと言で済むかもしれませんが、金銭的にケツを拭くのはいつもオーナーなのです。この馬は環境が変わることがマイナスに働くから、今は外厩に出すよりも厩舎に置いておいた方が良い、という個別の判断ができる調教師が理想です。

そのためにも馬を中心に置いた情報共有が理想です。情報を得て、その馬のことを知った上で、目の前の馬を見て、どういう選択がベストかを考えるべき。出たところ勝負で、その場の感覚で馬を扱う人には、福ちゃんを預けるのは難しいのです。長友先生は今のところまだ8頭しか預かっていませんから、1頭1頭をしっかりと面倒見てくれるのではないでしょうか。

ひとつだけ迷っていたのは、調教師ときちんとコンタクトが取れ、厩舎の受け入れ態勢が良かったとしても、実際に福ちゃんに騎乗して調教してくれるのは誰になるのだろう?ということです。せっかく川崎に預託するのであれば、志村さんに乗ってもらいたいというのが僕の本音です。志村さん(現・酒井忍厩舎で、当時は別厩舎所属でした)は長友厩舎所属ではないので、ドコフクカゼに乗ってもらうことは難しいはずです。

踏ん切りがつかず、志村さんに「正直、迷っています」とLINEをしました。すると「長友厩舎でも僕が調教は担当できると思いますよ」とまさかの答えが返ってきました。「えっ、他の厩舎の馬には乗れないのかと思っていました」と返すと、「自厩舎の馬が優先になりますが、空き時間で乗れますよ」とのこと。調教師とはきちんとコミュニケーションが取れて、志村さんにも調教をつけてもらえる、という両方を満たすことができるならばもう迷う必要はありません。僕の心は決まりました。

上手先生にも連絡をして、長友調教師に福ちゃんを預けようかと思っていると話すと、「良いと思います。ちゃんとやり取りができる先生です」と太鼓判を押し、LINEをつないでくれました。ちょうど次週に川崎開催があり、僕もパドック解説に行くので、直接会うことになりました。

当日、川崎競馬場の関係者入口から入ると、向こうから長友調教師が近づいて来てくれました。「はじめまして」と互いに言葉を交わし、名刺を交換し、厩舎に預託する際の預託契約書やその他諸々、揃えていた書類を渡しました。長友調教師は僕よりも10歳ほど年下ですが、丁寧で親しみやすいという印象を受けました。昔ながらの調教師ではなく、新しい世代の調教師というイメージですね。志村さんや上手先生が推すのも納得です。

それ以外にも、エクワインレーシングからの毎月のレポートやレポジトリー検査の報告書を福ちゃんのクリアファイルに入れて渡しました。そして、押し付けるように福ちゃんの卒業アルバムも渡します。福ちゃんの情報を正確に共有したいという意味と、福ちゃんがこの世に誕生してから、碧雲牧場を離れてエクワインレーシングで育成をしてもらい、そうした過程があった上で長友先生にバトンを渡すので大切にしてあげてくださいという想いを込めたつもりです。長友先生は快く受け取ってくれました。

福ちゃんは立派な体躯をしていて、今のところ脚元にも何の不安もなく順調に来ているけれど、馬運車に乗っての輸送やゲートに課題があることを端的に伝えました。それはおそらく片目だからではなく、性格的なものが影響しているのではないか。環境が変わることにストレスを感じやすいタイプでもあり、あまり川崎の厩舎外厩の移動が激しすぎると、リフレッシュどころか調子を悪くしてしまう恐れがあるかもしれない。特にエクワインレーシングから本州への長距離輸送は心配で、最初かつ最大の障害となるのではと伝えました。おそらく、このとき長友先生は親バカで心配性なモンスターペアレントが来たと思われたかもしれません(笑)。

移動のタイミングや方法は、エクワインレーシングとも相談しつつ、できれば1頭ではなく川崎競馬もしくは南関東に移動する他の馬たちと乗り合いで来られたらという話になりました。長友調教師も来週エクワインレーシングを訪れるとのことで、まずは福ちゃんを見てもらいたいと思います。

もうひとつ吉報があります。スパツィアーレがサンダースノーの仔を受胎したようです。種付け2週間後の妊娠鑑定にて、とても水泡とは思えない綺麗な〇を発見し、数日後に改めて見ても同じ〇が確認できたことで、受胎が確定しました。この先、消えないことを祈るのみですが、昨年は受胎するところまで行きませんでしたから、今年は初回の種付けで受胎できたのは嬉しい知らせです。

一昨年、ホットロッドチャーリーを受胎したとき、アウトブリードにしたことが勝因だと僕は思い込んでいましたが、昨年はどれだけアウトブリードの配合でも受胎しませんでした。ということは、残された線は卵管PGを打ったことのみ。あのときだけ念のため卵管PGを打ったことが功を奏したのではないかというのが僕の仮説であり、結論です。アウトブリード配合の線が消えた今、もし卵管PGの線も消えてしまうようなことがあれば、あの受胎はまぐれだったことになり、僕たちにできる手立てはなくなります。その意味でも、今回、卵管PGを打って臨んでもらった以上、かなりの確率で受胎するという確信が僕にはありましたが、もし受胎しなければお手上げという崖っぷちにいたということでもあります。それゆえ、スパツィアーレの受胎の報告を受けたときは、やっぱり卵管PGだったか!という正解を得た嬉しさと、これでスパツィアーレは救われたという安堵の気持ちがふつふつと湧いてきました。

今年、受胎しないようなことがあれば、2年連続で不受胎ということになり、その原因さえも分からない以上、来年は用途変更しなければならなくなると考えていたからです。3年前と昨年、不受胎が続いた時点であきらめてもおかしくなかったのですが、可能性に賭け、何とか踏み止まれて良かった。卵管PGを打てば受胎するのであれば、来年以降は安定的に産駒を生むことができます。そしてもし1頭でも走る産駒が出てくれば、生き延びることができます。命がつながったのです。

(次回へ続く→)

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