[重賞回顧]幻惑のルメールマジックで二強を完封!大外枠を克服したドゥレッツァが、5連勝で菊の大輪を戴冠~2023年・菊花賞~

実に23年ぶり──今世紀初めて、皐月賞馬とダービー馬が再戦する舞台となった菊花賞。2頭は春二冠で1、2着を分け合っており、同世代の中でも実績では一枚抜けている、まさに「二強」と呼ぶに相応しい存在だった。

この「春二冠の1、2着を同じ2頭が分け合った」例は珍しく、95年の皐月賞馬ジェニュインとダービー馬タヤスツヨシ以来28年ぶり。その前は、77年のハードバージとラッキールーラまで遡らなければならず、これら2組は菊花賞で再戦していない。

また、タスティエーラに関しては、今回がダービー以来5ヶ月ぶりの実戦。グレード制導入以降、ダービー馬が前哨戦を挟まず菊花賞に直行した例はなく、2023年の菊花賞は異例ずくめのレースとなった。

その中で1番人気に推されたのは「二強」の一角ソールオリエンス。この馬もまた京成杯以来、かつキャリア2戦という異例のローテーションで皐月賞を快勝。このとき繰り出した末脚はレース史に残るといっても過言ではなく、強烈なインパクトを残した。続くダービーとセントライト記念は2着に敗れるも、後者に関してはいかにも前哨戦といった内容。キタサンブラックとの菊花賞父仔制覇へ視界良好だった。

これに続いたのがタスティエーラ。弥生賞ディープインパクト記念で重賞初制覇を成し遂げた本馬は、皐月賞でソールオリエンスの強烈な決め手に屈し2着に敗れたものの、ダービーで見事に雪辱。世代の頂点に立った。前述したとおり、今回は前哨戦を挟まなかったとはいえ、実績では、ソールオリエンスとともに他馬と一枚も二枚も抜けた存在。タケホープ以来、ちょうど50年ぶりとなるダービー、菊花賞の二冠制覇なるか注目を集めていた。

僅かの差で3番人気となったのがサトノグランツ。初勝利まで3戦を要したものの、そこから3連勝で京都新聞杯を制し、初タイトルを獲得した。続くダービーは11着と敗れるも、繰り出した上がりはメンバー中2位。勝ち馬から0秒7差と着差も僅かで、騎乗した川田将雅騎手からも「秋が楽しみになりました」とのコメントが聞かれたとおり、秋初戦の神戸新聞杯をレコードで勝利した。父サトノダイヤモンドとその父ディープインパクトは神戸新聞杯と菊花賞を連勝しており、前走に続いて父仔3代制覇が懸かっていた。

以下、未勝利戦から4連勝中のドゥレッツァ。ダービー3着馬ハーツコンチェルトまでの計5頭が、単勝オッズ10倍を切った。

レース概況

ゲートが開くと、ダノントルネードが好スタートを切ったのに対し、トップナイフが僅かに出遅れ。後方からの競馬を余儀なくされた。

前は、ダノントルネードを交わしてパクスオトマニカがハナを奪い、同枠のリビアングラスがこれに続くも、坂の下りでいきたがったドゥレッツァが、3、4コーナー中間で先頭に立った。

これら3頭から5馬身ほど離れた位置にダノントルネードとファントムシーフ、ハーツコンチェルト、ノッキングポイントが固まり、タスティエーラはちょうど真ん中の8番手。そこから2馬身差の11番手にサトノグランツが続き、ソールオリエンスはさらにその1馬身半後方に控えていた。

1周目のスタンド前で、逃げるドゥレッツァから最後方のウインオーディンまでは20馬身以上の差。多頭数の長距離戦らしくかなり縦長の隊列となるも、前半1000mは1分0秒4。ゆったりとした流れだった。

そこからペースは落ち、1コーナーで馬群は13馬身ほどに凝縮。さらに、向正面に入ったところで再びパクスオトマニカが先頭に立ったものの、それ以外、先団の隊列に大きな変化はなかった。

中団に目を向けると、出遅れて後ろから2頭目にいたトップナイフがいつの間にか8番手に位置し、スタート地点を過ぎたところで外からサヴォーナが、内からナイトインロンドンがロングスパートを開始。一方、上位人気3頭は、坂の上りで後ろから数えた方が早い位置にポジションを下げていた。

その後、坂の下りでリビアングラスが先頭に立つと、後方に控えていたソールオリエンスがいよいよスパート。タスティエーラもこれについていったが、サトノグランツは反応が鈍く、ポジションをほとんど上げられないまま直線勝負を迎えた。

直線に入ると、リビアングラスが逃げ込みを図ってリードは1馬身半。盛り返したドゥレッツァがこれを追い、残り250mで再び先頭に躍り出た。

その後ろは、馬場の中央から末脚を伸ばすタスティエーラ。外から懸命に前を追うサヴォーナとソールオリエンスという図式になったが、まだ余力のあるドゥレッツァは後続との差を徐々に開き、やがて独走体勢を構築。最終的には後続に3馬身1/2差をつける完勝で先頭ゴールイン。ダービー馬タスティエーラが2着となり、1馬身1/2差で皐月賞馬ソールオリエンスが続いた。

良馬場の勝ちタイム3分3秒1。不利と思われた大外枠から最後は独走を決めたドゥレッツァが、一気の5連勝で菊の大輪を戴冠。二強をはじめとする同世代のライバルたちにまざまざと実力を見せつけ、重賞初挑戦でGⅠ制覇を成し遂げた。

各馬短評

1着 ドゥレッツァ

スタート直後にややいきたがり、1度目の坂の下りで先頭。その後、2周目に入る直前で再び先頭を譲り、最後は再び盛り返して独走という、大レースではかつて目にしたことがないような展開で完勝した。

レース後のルメール騎手のコメントをシンプルにまとめれば「走りたがっていた馬の気分を尊重した」ということになるだろうか。とはいえこの大一番で、しかも3000mの長丁場で、それをやってのける勇気はなかなか出ないだろう。

それでもルメール騎手は相棒を信じ、実際にやってのけた。レイデオロに騎乗し、早目スパートから世代の頂点に立った2017年のダービーに通じる勝利だった。

2着 タスティエーラ

ソールオリエンスの父キタサンブラックは長距離GⅠを複数勝利した馬で、距離に不安があるのはタスティエーラのほうではないかと予想していた。ただ母父のマンハッタンカフェは、菊花賞をはじめ長距離GⅠを3勝。結果、距離はもちろんのこと、ダービーからの直行もまるで問題にせず好走。勝ち馬には突き放されたが、十分な内容だった。

ノーザンダンサー系種牡馬の産駒が菊花賞で連対したのは、ホワイトマズル産駒のアサクサキングスが勝ったレース以来で17年ぶり。以後、2013年のバンデ以外3着すらなかったが、さすがダービー馬たるところを見せつけた。

三冠馬を除けば、ダービーと菊花賞で二冠を達成した馬は2頭しかいない。この2レースはかなり異なる条件でおこなわれるため、それも当然といえば当然。むしろ、三冠すべてで好走したタスティエーラは、条件を選ばないオールラウンダーともいえ、次走どのレースに出走するのか、非常に楽しみになった。

3着 ソールオリエンス

長距離適性はタスティエーラよりも上だと思っていたが、外枠に入ったとはいえ、距離が微妙に長かったよう。残り200mで一伸びを欠いてしまった。

京都の外回りコースだからかもしれないが、課題のコーナリングはスムーズ。初めて連対を外したとはいえ着実に経験を積み重ねており、血統を見ても、本格化がまだ先だとしても不思議ではない。この馬もまた、今後がますます楽しみになった。

レース総評

最初の1000mは1分0秒4で、同中盤が1分4秒1。そして、最後の1000mが58秒6=3分3秒1。レースの半分以上で「先頭を走っていた」ドゥレッツァにとっては、ほぼ理想的なラップだった。

長丁場で重要になるレース展開。勝敗を分けたポイントは複数あったが、その中でも、ちょうど中間点を過ぎたあたり。パクスオトマニカが再び先頭に立ったシーンを取り上げたい。

この直前のラップ、6ハロン目と7ハロン目のラップは12秒9-13秒1で、パクスオトマニカが再び先頭を奪い返した=ドゥレッツァが先頭を譲った8ハロン目も13秒0。今回の菊花賞で最もペースが緩んだのは、この3ハロンだった。

ここでパクスオトマニカに先頭を奪われたドゥレッツァは失速したように見えたが、実際は息を入れることに成功していた。トップナイフやサヴォーナなど、ここで仕掛けた馬はいたものの、ドゥレッツァの失速したような動きが上位人気3頭の騎手を幻惑させたのか。2度目の坂の上りでも、タスティエーラ12番手、ソールオリエンス14番手、サトノグランツ15番手と、いずれも後方で牽制しているような様子。結果、最後までドゥレッツァを捕らえることができなかった。

冒頭でも書いたように、皐月賞馬とダービー馬の対決や、ダービー馬が前哨戦を挟まず直行してきたことなど、異例ずくめとなった2023年の菊花賞。ドゥレッツァの勝利もまた異例ずくめだった。

まず、前走条件戦組の菊花賞制覇はスリーロールス以来14年ぶりで、中でも前走3勝クラス(以前の1400万下~1600万下)出走馬の勝利はメジロマックイーン以来33年ぶり。重賞未出走馬の勝利も同じく33年ぶり。

また、ドゥレッツァは不利な大外枠からの優勝だけにいっそう価値は高く、大外枠から菊花賞を勝利したのは2006年のソングオブウインド以来。翌07年以降の16年間で連対したのもオーソクレース(2021年2着。この年は阪神開催)だけ。18頭立ての17番でたとえとしては少し違うのかもしれないが、ピンク帽が直線早目先頭から独走する姿は、88年のスーパークリークを彷彿とさせるものだった。

さらに、近年、驚きのローテーションで菊花賞を制した馬といえば、前走ラジオNIKKEI賞2着から勝利したフィエールマンだが、今回のドゥレッツァも、それと同じくらいの衝撃と驚きがあった。

これら2頭が中間調整されていたのはノーザンファーム天栄で、近年のいわゆる「直行ローテ」もノーザンファーム天栄が先駆け。同場は、これまでの常識を破壊して新たなトレンドを生み出す育成牧場といえるのではないだろうか。

また、血統面に目を向けると、ミスタープロスペクター系種牡馬、とりわけキングマンボ系種牡馬の産駒が京都でおこなわれた菊花賞を制したのは、キセキ以来6年ぶり(阪神の菊花賞を含めると2年ぶり)。ドゥレッツァの父は、先週のリバティアイランドに続いてまたしてもドゥラメンテで、この世代4頭目のGⅠ馬を輩出。その4頭でGⅠを計7勝している。

2023年10月20日時点で、ドゥラメンテはリーディングサイアー争いでロードカナロアに次ぐ第2位。菊花賞の結果で差はさらに縮まっており、この先も天皇賞(秋)にスターズオンアースが。ジャパンCにはリバティアイランドとタイトルホルダーが出走を予定しており、逆転首位の可能性は十分にある。

そして、2023年におこなわれた3歳限定のGⅠを制した馬は、ドゥラメンテ、キタサンブラック、サトノクラウンの産駒で、いずれも2012年生まれの種牡馬。そのうち、ドゥラメンテは骨折で、サトノクラウンは天皇賞(秋)に出走したため、菊花賞に出走することはできなかったが、これら3頭は2015年の皐月賞とダービーで激闘を繰り広げた間柄。それから8年の歳月を経て、今度は産駒がクラシックの舞台で覇を競っており、競馬ファン、とりわけ血統派にとっては堪らない結果になっている。

近年では、キングカメハメハやハーツクライ、ダイワメジャーなどの2001年生まれが「種牡馬の宝庫」といえる世代だが、リアルスティールを含めた2012年生まれもそれに負けないレベル。日本競馬の未来は、2012年生まれの種牡馬に託されているといっても過言ではない。

写真:かぼす

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