[重賞回顧]府中に轟く1分55秒2の衝撃。タイムでも世界最強を証明したイクイノックスが破竹のGⅠ5連勝!~2023年・天皇賞(秋)~

例年「最強馬決定戦」ともいえる豪華メンバーが集う天皇賞(秋)。2023年は、グレード制導入以降レース史上最少の11頭立てとなったものの、文字どおり少数精鋭のメンバーが顔を揃えた。

また、天皇賞(秋)といえば、数々の名場面が生まれてきたレース。「永遠のライバル」ウオッカvsダイワスカーレットによる究極の名勝負をはじめ、近年も、史上初の芝GⅠ8勝を達成したアーモンドアイ。三冠馬コントレイルと、当時GⅠ5勝のグランアレグリアをまとめて撃破したエフフォーリア。そして、パンサラッサの火の出るような逃げをゴール寸前で捕らえたイクイノックスなど。

これらは、日本の競馬史に燦然と輝く名勝負、名場面といっても過言ではなく、戦後3度目の天覧競馬でまたしても名場面が生まれるのか。大きな注目が集まっていた。

そんな2023年の天皇賞(秋)は、4歳馬2頭に人気が集中し二強ムードの様相。とりわけ、イクイノックスの単勝オッズは最終的に1.3倍と、圧倒的なものだった。

1年前の当レースで初GⅠ制覇を成し遂げて以降、負けなしの本馬。中でも、2走前のドバイシーマクラシックを勝利した際に獲得したレーディング129は、半年以上が経過した現在でも今季世界最高となっている。東京、中山、ドバイ、阪神と、条件を問わず勝ちきれる点こそイクイノックスが世界最強たる所以で、「令和の盾男」ルメール騎手とともに、GⅠ5連勝を懸けての出走だった。

これに続いたのが、2022年のダービー馬ドウデュース。その時、一騎打ちの末に破ったのがイクイノックスで、同馬の後の活躍を考えると、いっそう価値ある勝利だったといえる。3月のドバイターフを取消し、8ヶ月半ぶりの実戦になるものの、国内では4着以下がなく安定感も魅力。急遽、乗り替わりとなった戸崎圭太騎手を背に、イクイノックスとの3度目の対決で勝ち越すか。大きな期待を背負っていた。

以下、札幌記念を4馬身差で圧勝したディープインパクト産駒プログノーシス。上位人気2頭と同じ4歳馬で、2022年の当レース3着馬ダノンベルーガ。大阪杯勝ち馬で、全8勝を2000mであげているジャックドールの順に、人気は続いた。

レース概況

ゲートが開くと、僅かにジャスティンパレスが出遅れ。プログノーシスも、後方からの競馬となった。

一方、前はガイアフォースがいこうとするところ、外からジャックドールが交わして先頭。イクイノックスが、早くも3番手につけた。

その後ろはノースブリッジ、ドウデュース、ヒシイグアスの3頭が併走し、そこから1馬身半差でエヒト、ダノンベルーガ、アドマイヤハダルと、ここも3頭が併走。3馬身差でジャスティンパレスが続き、プログノーシスは最後方に控えていた。

前半1000mは57秒7の平均ペース。真ん中7頭と前2頭、後ろ2頭がそれぞれ4馬身ほど離れ、ジャックドールからプログノーシスまではおよそ15馬身差と、前年ほどではないにしてもやや縦長の隊列。その後、3、4コーナー中間で全体の差はやや縮まり、続く4コーナーで後方2頭が前との差をさらに詰める中、レースは直線勝負を迎えた。

直線に入ると、逃げ込みを図るジャックドールに対し、坂下でガイアフォースが並びかけるも、すぐにこれを交わしたイクイノックスが単独先頭。そこから、徐々に後続との差を開きはじめる。

一方の2番手は、粘るガイアフォースにダノンベルーガ、プログノーシス、ジャスティンパレスが迫りドウデュースは後退。その後、残り100mでジャスティンパレスが単独2番手に上がるも、既に独走態勢を築いていたイクイノックスが最後は2馬身1/2差をつけ1着でゴールイン。2着にジャスティンパレスが入り、そこから1馬身1/4離れた接戦の3着争いは、プログノーシスがアタマ差で制した。

勝ちタイムは1分55秒2で、従来の記録を0秒9も更新する驚愕のJRAレコード。完全無欠のパフォーマンスを披露したイクイノックスがタイム面でも世界最強を証明し、天皇賞(秋)連覇とGⅠ5連勝を達成した。

各馬短評

1着 イクイノックス

淀みない流れで逃げるジャックドールを3番手で見ながら、早目先頭で押し切る横綱相撲。他の先行勢は崩れ、後方追走の2頭が2、3着となっただけに、いっそう価値ある勝利となった。

淀みないペースで逃げる馬がいた、という意味では2022年の天皇賞(秋)と共通しているが、大きく離れた2番手以下が実質スローだった当時と、2番手以下がそこまで離れていなかった今回はレースの性質が大きく異なる。

それら2つのレースを勝利した点もまたイクイノックスの価値をいっそう引き上げるものであり、3歳最強リバティアイランドとの対戦がいっそう楽しみになった。

2着 ジャスティンパレス

僅かに出遅れるも、無理に挽回することなく後方待機。エンジンがかかるまでにやや時間を要すため、4コーナーでは一度プログノーシスに交わされるも、坂上から全開。プログノーシスを再び交わして2着を確保した。

ホープフルS2着の実績があるとはいえ2歳戦の話。筆者は、現状2200m以上ないと厳しいと思っていたが、多少の展開利があったとはいえ、本馬の2着好走もまた驚きだった。

同じディープインパクト産駒で、天皇賞(春)を連覇したフィエールマンと重なる部分があり、次走、有馬記念に向かうようであれば積極的に狙いたい。

3着 プログノーシス

こちらも僅かな出遅れを無理に挽回することなく後方からの競馬。最後はジャスティンパレスに交わされるも、国内GⅠ初出走ながら堂々のレースで3着を確保した。

札幌記念を見る限り、時計は少しかかったほうが良さそうなタイプ。また、今回を含めた全11戦で2000mを超えるレースに出走したことがなく、年内もう1走するとしたら、香港Cが適当だろうか。

レース総評

前半1000mが57秒7で、同後半が57秒5。前後半ほぼイーブンで勝ちタイムは1分55秒2。この内訳をみると、

12.4-11.0-11.5-11.4-11.4-11.4-11.4-11.6-11.4-11.7

大半のレースは1ハロン目が最も遅く、2ハロン目が最も速い。そのため、3ハロン目以降に注目すると、11秒台半ばのラップがゴールまで8ハロン続くという、非常に過酷なレース。しかも、パンサラッサが大逃げを敢行し、2番手以下が実質スローだった前年とは異なり、今回逃げたジャックドールと2番手以下はそこまで離れていなかった。

そのため、先行勢の大半は直線に入ると失速。ところが、3番手を追走していたはずのイクイノックスだけは失速するどころか加速し、残り200m地点から独走態勢を構築。ゴール寸前でほんの僅かに失速したものの、後方から追い込んだジャスティンパレスに2馬身1/2という決定的な差をつけ、タイム面だけでなく、内容面でも世界最強であることを証明してみせた。

冒頭にも書いたとおり、天皇賞(秋)は「現役最強馬決定戦」(2023年はジャパンCになる可能性もあるが)の意味合いを持つレース。そこで求められるのは、スピードや持久力、瞬発力など高いレベルの総合力で、イクイノックスは、父キタサンブラックから類い希な持久力を。その母父サクラバクシンオーから最高レベルのスピードを。母父の父ダンシングブレーヴから瞬発力を受け継いでいる。

イクイノックスが条件を選ばずGⅠを次々と勝利できるのは、この部分が大きい。とりわけ、天皇賞(秋)と宝塚記念は性質が大きく異なり、近年これら2レースを制したのは、他にラブリーデイだけである。

また、天皇賞(秋)と有馬記念も大きく異なり、近年この両レースを制したのは、他にキタサンブラックとエフフォーリアだけ。あのアーモンドアイすら、天皇賞(秋)1着から臨んだ有馬記念で生涯唯一の大敗を喫している。

さて、イクイノックスについてさらに驚くべきことは、この天皇賞が秋の最大目標ではないということである。

陣営は、予てから秋の最大目標をジャパンCに定めており、順調にいけば、3歳最強リバティアイランドとの初対決が実現する。同馬もまた、オークスで獲得した120ポンドはレース史上最高。牝馬のセックスアローワンス4ポンドを考慮すると、ディープインパクトが日本ダービーで獲得したレース史上最高の124ポンドに匹敵する値で、2023年に関しては、ジャパンCが「現役最強馬決定戦」になる可能性もある。

それどころか、GⅠ3勝のタイトルホルダーや、今回7着に敗れたドウデュースも出走を予定しており、凱旋門賞馬のエースインパクトが引退した今、大げさでもなんでもなく、1ヶ月後のジャパンCは「世界最強馬決定戦」となるだろう。

写真:shin 1

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