毎年2月に開催される佐賀競馬場2000mの交流重賞、佐賀記念。
これまで16時30分や17時スタートだったレースが今年は日が暮れた18時15分(この日の佐賀県の日没時刻は18時01分ごろ)に組まれ、明るいライトに照らされたコースを駆け抜ける一戦になりました。
地方競馬の代表格は2頭。
1頭はサンタアニタダービー2着馬マンダリンヒーローで、もう1頭はJRAとの交流重賞で2着4回の実績があり2023年に白鷺賞と中島記念を制しているヒストリーメイカーでした。
JRAからは牝馬交流重賞4勝のグランブリッジ、父ホッコータルマエとの父子制覇を目指すメイショウフンジン、南関三冠馬ミックファイアにあと一歩まで迫ったキリンジ、2022年ジャパンダートダービー勝馬ノットゥルノ、そして2022年の佐賀記念勝馬ケイアイパープルの5頭が出走しました。
多くのファンが見守る中、各馬一斉に駆け出していきました。
レース概況
スタート直後からマンダリンヒーローの吉原騎手、メイショウフンジンの酒井騎手の手が動き、2頭の逃げ争いとなりました。内枠を利してまずはマンダリンヒーローがハナを奪うかと思われましたが、出鞭を入れたメイショウフンジンがスピードを上げて最初の3コーナーで1馬身差をつけて先頭に立ちます。
メイショウフンジンの後ろは内にマンダリンヒーロー、外はキリンジが続いて、その半馬身ほど離れた4番手にグランブリッジ。ケイアイパープルが正面で藤岡康太騎手に鞭を入れられてロングスパートに入ります。一方ノットゥルノは先団後方の6番手、1コーナーに入るころには7番手のヒストリーメイカーらと3馬身以上差をつけて、2周目の攻防へと移っていきました。
向こう正面でケイアイパープルの手ごたえが無くなり後退、先行していたマンダリンヒーローも吉原騎手が懸命に追いますが、メイショウフンジンのペースについていけずに離されていきます。中団にいたヒストリーメイカー、ノットゥルノが前を目指してゴーサインを出され、2度目の3コーナーへ。
3コーナーでも粘るメイショウフンジンをとらえようと。キリンジ・グランブリッジがスパートをかける中、大外から1頭、ノットゥルノが雄大な馬体を弾ませて、馬なりのまま並ぶ間もなく先頭を奪います。武豊騎手がノットゥルノを促すと、4コーナー出口で重心を下げてスパート、後続をあっという間に4馬身離してのゴールでした。
一方、2着争いは大接戦に。
最後まで粘ったメイショウフンジンを、キリンジがゴール寸前で差してクビ差だけ先着を果たしました。グランブリッジは半馬身差の4着、さらに大差をつけられつつ11番人気のファルコンウィングが5着に食い込む大健闘を見せます。ヒストリーメイカーは先に仕掛けた分、ファルコンウィングの目標にされてしまって7着に沈みます。途中で後退したケイアイパープルは11着、マンダリンヒーローも10着に敗れました。
各馬短評
1着 ノットゥルノ
2022年ジャパンダートダービー以来、久しぶりの勝利をあげました。
左回りのレースは(0-0-0-6)とすべて掲示板外に敗れる一方で、右回りでパワーやスタミナを要求されるレースになれば510~520キロ台の雄大な馬体を武器にJBCクラシック2着、東京大賞典でも4着と健闘していました。
今回のレースで特筆すべきは『59キロを背負って重賞級の相手に馬なりのまま勝った』こと。
ジャパンダートダービーと同じく8枠を引いたことで閉じ込められることなく、先行各馬を射程圏に入れた競馬ができたことは収穫です。外側が有利な馬場コンディションであったにせよ、4歳馬の斤量55キロよりも4キロ背負っていましたから、ダービー馬の名に恥じない強い勝ち方であったと言えるでしょう。
また、最後の直線ではゴールまで200mの短い直線の間に、馬体を沈めて一気に抜け出す姿が印象に残りました。この走法は、2022年の"芝の日本ダービー馬"ドウデュースが有馬記念で見せた走りを彷彿とさせました。
2頭はともに早くから活躍していますが、晩成傾向のハーツクライ産駒であることも共通しています。
両者共に5歳シーズンが更なる飛躍の年になるかもしれませんね。
2着 キリンジ
シリウスステークス・東海ステークスで敗戦が続いたキリンジですが、今回は普段よりも前のポジションで競馬をしての2着でした。
3歳時は中団から末脚を繰り出してミトノオーを差し、ミックファイアを追いかける走りが出来た馬なので、4歳世代上位の1頭としての力は見せたと言えるでしょう。
斤量差4キロのノットゥルノとの着差は完敗ですが、逃げるメイショウフンジンを最後にとらえています。
東海ステークスでも展開に恵まれなかったものの、最後の脚を使うレースは出来ていたので、スムーズな競馬が出来るレースでノットゥルノのような走りが出来るようになるのが理想ではないでしょうか。
3着 メイショウフンジン
酒井騎手が出鞭まで入れてハナを主張、マンダリンヒーローを最序盤で抑えてレースの主導権を握ったことが好走に繋がりました。
仮にマンダリンヒーローがハナを取った場合、外有利な馬場コンディションから1番枠のマンダリンヒーローが外へ進路を取れば、後続の馬はイン突きを試みるか外を回す必要があります。
コーナーを6回迎える佐賀記念。直線が短い佐賀競馬場で自分より内枠のグランブリッジ、マンダリンヒーローは外に出せず、差されはしたもののキリンジやノットゥルノが外から来るレース展開を逃げ足で作ったことは、今後において貴重な経験となったはずです。
既にオープンで2勝しているので、相手に譲らずにレースを支配出来れば重賞でも勝ち負けできるでしょう。
4着 グランブリッジ
斤量56キロは牡馬換算で58キロなので、ノットゥルノに次ぐ斤量を背負っていたことになるグランブリッジ。
とにかく大崩れしない安定感が武器で、掲示板を外したのは新馬戦の7着のみ、唯一の1400m戦でのことでした。
先行した各馬が後退し、ノットゥルノが外から上がっていったタイミングで外に出せず、距離ロスを最小限に収めるために砂の深いインを攻めざるを得なかったことで、最後の直線勝負の明暗を分けたのではないでしょうか。それでも牡馬3頭についていっての4着なので、牝馬限定戦に戻れば勝ち負けでしょう。
1週前のクイーン賞を勝ち切ったアーテルアストレアや、JBCレディスクラシック勝ち馬アイコンテーラーとの再戦が楽しみです。
10着 マンダリンヒーロー
世界に挑み、南関三冠馬にも同期のライバル相手にも果敢に攻め続ける"挑戦者"マンダリンヒーロー。
最内枠からメイショウフンジンとの先頭争いに挑んだ姿に感じ入るものがあったファンも多いのではないでしょうか。
レース後のインタビューで「馬場の内側の砂が深いところに入ってしまい苦しい競馬になりました」と吉原騎手が振り返っていたように、コースの内側数頭分は蹄跡のないコースで、終始前にプレッシャーをかけながらのレースでしたから、最後に脚が残らなかったのはスタミナによるものでしょう。
同じ2000m戦でも時計の出やすい盛岡競馬場で行われたダービーグランプリでは不良馬場も味方して2分3秒台の時計も持っているので、今回の経験を糧にリベンジしてほしいところです。
レース総評
2024年のJBC競走は佐賀競馬場での開催となります。重い斤量を背負う覚悟で年明け初戦にこの舞台を選んだノットゥルノが、見事に地力の高さを見せつけた一戦でした。
ノットゥルノは、この後、4月に開催時期が変わった川崎記念を使って、得意の大井競馬場での夏のグランプリ帝王賞を目指します。秋は今回と同舞台で行われるJBCクラシックに参戦予定とのことですから、優勝インタビューで「JBCに帰ってきたいと思います」と語った武豊騎手との再度の活躍に期待しましょう。
また、敗れた各馬も成長や課題がそれぞれ見えたレースでした。
結果的にはノットゥルノの実力を見せつけたレースと見たファンも多いかもしれませんが、果敢に逃げに挑んだマンダリンヒーロー、それを制して展開をものにしたメイショウフンジン、一歩前でレースをしたことで最後に2着に届いたキリンジ、牡馬相手に斤量を背負っても僅差の勝負になったグランブリッジと、それぞれの次走も楽しみです。
フェブラリーステークスやサウジアラビア、ドバイ国際競走、川崎記念、そして今年からJpn1に格上げされたさきたま杯等、ダート路線はほぼ毎月大レースが続く日程になりました。それぞれの路線で走る馬たちをこれからも応援していきましょう!
写真:ゆーま