[重賞回顧]大接戦を制したクリノメイ。父オルフェーヴル譲りの根性を武器に、いざ混戦のクラシックへ!~2025年・チューリップ賞~

スタンドのリフレッシュ工事により、およそ10ヶ月ぶりにリニューアルオープンした阪神競馬場。その記念すべき最初の重賞として桜花賞トライアルのチューリップ賞がおこなわれた。

これまで、チューリップ賞といえば開催2週目の土曜日におこなわれるのが通例だった。ところが、年末の2歳GⅠから前哨戦に出走せず春のクラシックへ向かう、いわゆる「直行ローテ」が、近年は一般的になっており、2025年からは前哨戦の実施時期が見直され、チューリップ賞も開催が1週前倒しされた。同時に33年ぶりの日曜開催となり、阪神の芝・1600mという点では同じでも、これまでとはやや条件が異なるレースといえる。

そんな2025年のチューリップ賞にエントリーしたのは14頭。重賞勝ち馬が1頭もいない混戦で4頭が単勝10倍を切る中、ビップデイジーが1番人気に推された。

新馬戦と紫菊賞を連勝したビップデイジーは、勢いそのままに挑んだ阪神ジュベナイルフィリーズで初黒星を喫するも、勝ち馬から0秒2差の2着。非常に惜しい内容だった。

父サトノダイヤモンド×母父キングカメハメハの組み合わせは、こちらも阪神ジュベナイルフィリーズで2着に好走したシンリョクカと同じ。賞金面では桜花賞出走をほぼ確実にしているものの、クラシック制覇へ向け弾みをつけたい一戦だった。

これに続いたのがマイエレメント。

8月新潟の新馬戦で初陣を飾ったマイエレメントは、2ヶ月後、アルテミスSに出走するも5着に敗れ初黒星を喫した。ただ、このレースは道中のペースが遅く、後方を追走していたマイエレメントにとっては不利な展開。それでも勝ち馬とは0秒2差で、さらに上がり最速で追込むなど見所は多く、4ヶ月ぶりの実戦とはいえ多くの支持を集めた。

そして、3番人気となったのがナムラクララ。

重賞を5勝し、2022年の桜花賞でも3着に好走した現役馬ナムラクレアの半妹ナムラクララは、デビュー戦を勝利したものの、続く1勝クラスで4、2着と敗れてしまった。

それでも、格上挑戦で臨んだリステッドの紅梅Sを快勝し賞金加算に成功。満を持しての重賞出走となる今回は是が非でも3着内に好走し、本番への出走を確実にしたい一戦だった。

以下、前走の未勝利戦を4馬身差で圧勝したフェアリーライク。完勝した新馬戦から中2週で臨む良血馬ルージュソリテールの順で人気は続いた。

レース概況

ゲートが開くと、ザラタンとメイショウタマユラが出遅れ。ノクナレアもダッシュがつかず、後方からの競馬を余儀なくされた。

一方、前はクリノメイとナムラクララが好スタートを切るも、2頭を交わしたプリンセッサが逃げ、ビップデイジーがこれに続く展開。3番手は、好発を決めた2頭とラウルベアが併走し、その直後にルージュナリッシュとフェアリーライクが続くなど、7頭が先行集団を形成した。

対して、中団はウォーターガーベラやマイエレメントら4頭が固まり、メイショウタマユラを挟んだ後ろから2頭目にサウンドサンライズ。さらにそこから4馬身ほど離れた最後方をノクナレアが追走していた。

前半800m通過は48秒0と遅かったものの、先頭から最後方まではおよそ15馬身。やや縦長の隊列となった。

その後、3~4コーナー中間で、逃げるプリンセッサと後ろ2頭以外の11頭がほぼ一団となったのに対し、続く4コーナーでプリンセッサがこれらとの差を広げにかかる中、レースは直線勝負を迎えた。

直線に入ると、プリンセッサが後続に2馬身のリードを取るも、追ってきたクリノメイとビップデイジーが交わして先頭。中でも、ビップデイジーは直線に向いた時点で手応えが楽にみえ、ここから一気に抜き抜けるかと思われた。

ところが、クリノメイも非常にしぶとく、逆に坂上ではこちらが半馬身ほど前に出たものの、今度は内からウォーターガーベラが急襲。ビップデイジーを交わしさり、クリノメイに馬体を併せたところがゴールだった。

写真判定の結果、僅かにハナ差先着していたのはクリノメイで、ウォーターガーベラは惜しくも2着。そこから1/2馬身差3着にビップデイジーが入り、これら3頭が桜花賞への優先出走権を獲得した。

良馬場の勝ち時計は1分34秒0。父オルフェーヴル譲りの根性を武器に2頭の追撃を凌いだクリノメイが重賞初制覇。混戦の牝馬クラシックへ名乗りをあげた。

各馬短評

1着 クリノメイ

ゲート内で立ち上がり、外枠発走となって大敗した阪神ジュベナイルフィリーズから一転、抜群のスタート。発走調教再審査で、ゲート練習に時間を割かざるを得なかったものの、これが功を奏して好位を確保すると、直線半ばで抜け出し2頭の追撃を退けた。

気難しい部分を抱えているものの、スッと好位を確保できるセンスの良さと、父譲りの根性は大きな武器。牝馬クラシックは消耗との戦いでもあるため、本番までに激戦の疲れをどれだけ癒やせるか。これが好走へのカギになるかもしれない。

2着 ウォーターガーベラ

序盤は後方を追走するも、4コーナーで内ラチ沿いをピッタリ回り、直線は内を突いて急襲。あわやの場面を演出した。

シンザン記念3着の実績は上位でも、2度大敗を喫しており、ややあてにできない部分があった。それでも、中京以外では初の好走。道中スローだったことを考えれば、この馬が最も強い競馬をしたといえる。

なお、管理する河内洋調教師は3月4日付で引退となるため、これが管理馬最後の出走だった。直前には小倉の11レースを勝利し、チューリップ賞3連覇が懸かる弟弟子・武豊騎手とのコンビで劇的な締めくくりを願ったファンも少なくなかっただろう。結果、勝利には至らなかったが、前述したように中身は濃く、本番で再度の激走があってもなんら驚けない(今後は半兄ウォーターリヒトともに石橋守厩舎に転厩予定)。

3着 ビップデイジー

遅い流れを2番手で追走。理想的な展開にもみえたが、鞍上の幸英明騎手によると「前に壁を作ることが理想で、それが叶わず力んだ分の負け」とのこと。

GⅠ2着の実績を思えばやや物足りない内容だったが、本番まであと6週間。上積みを期待したい。

レース総評

10ヶ月ぶりの開催2日目となったレース当日は、雨が降ったりやんだりの天気。ただ、レースに影響を及ぼすほどではなく、前日と同様、適度なクッションがあって軽すぎない馬場だった。

そんな中おこなわれたチューリップ賞は、前半800m通過が48秒0で、同後半は46秒0の上がり勝負=1分34秒0。タイム面では強調できないものの、チューリップ賞は、出走馬の大半が桜花賞の優先出走権を賭けて臨むレース。しかも、最後は西日本一長い直線と急坂が待ち構えており、玉砕覚悟の逃げをうつ馬はまずいない。

そのせいか、先行馬有利の流れになりやすく、前走逃げた馬が1頭もいない今回は、なおさらそういった展開となった。結果、逃げ・先行馬が断然有利とはいえないまでも、ウォーターガーベラのように、内をロスなく回れなかった外枠の差し・追込み馬にとっては厳しい流れだった。

勝ったクリノメイはこれで4戦3勝。どうしても前走の大敗に目がいってしまうものの、その一度しか負けていない。2走前のサフラン賞でも、最後は5頭横一線の大激戦を制しており、父オルフェーヴル譲りの根性と勝負強さが目を引く。しかも、このとき5着に降したエンブロイダリーは、2月のクイーンCを好タイムで完勝。クラシック候補となっている。

少し話は逸れてしまうが、近年のサフラン賞連対馬は出世することが多く、マルターズディオサやサトノレイナス、ウォーターナビレラ、ステレンボッシュは、後に阪神のGⅠで連対。さらに、アエロリットとテンハッピーローズは東京のマイルGⅠを制し、マジックキャッスルも秋華賞で2着と好走した。

クリノメイの血統に目を向けると、父はオルフェーヴルで、母は門別の2歳重賞リリーCを制し、中央移籍後も準オープン(現3勝クラス)まで出世したクリノエリザベス。その父プリサイスエンドはフォーティナイナー系の種牡馬で、母父としてのJRA重賞勝ちは今回が初めてだった。

オルフェーヴルは、ミスタープロスペクター系種牡馬を父に持つ繁殖、中でもキングカメハメハ産駒の牝馬と相性が良く、ウシュバテソーロ、ライラック、ショウリュウイクゾ、タガノディアマンテらオープン馬を多数輩出している。同時に、フォーティナイナー系種牡馬の繁殖とも相性抜群で、初年度産駒のGⅠ馬ラッキーライラックとエポカドーロはいずれもこのパターン。2021年のきさらぎ賞勝ち馬ラーゴムも、母系にフォーティナイナーの名前がある。

桜花賞トライアルは、チューリップ賞を皮切りに、フィリーズレビュー、アネモネSとおこなわれていくが、この先どんな結果であれ、本番は主役不在の混戦となるだろう。既にインターネットなどで情報が出ているように、この世代の牝馬限定重賞やオープンは、これまでおこなわれた8レースすべてで1番人気が敗戦。しかも、今回のビップデイジー以外はすべて5着以下に敗れてしまった。さらに、2025年からは前哨戦が1週前倒しでおこなわれるため、予想をいっそう難しくさせるだろう。

また、チューリップ賞出走馬の馬体重をみると、前走から馬体重減で出走してきた馬が大半だった。結果論とはいえ、その中で1、3着馬は最低限のマイナス2kgに留め、プラス4kg だったウォーターガーベラが2着に好走。春の牝馬クラシックは、ライバルとの戦いと同時に自身の消耗との戦いにもさらされるため、前走からいかに早く回復し、少しでも成長できるかが好走のカギになるかもしれない。

写真:@gomashiophoto

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