- デアリングタクト、史上初・無敗の牝馬三冠達成。
- コントレイル、史上初・無敗の父子三冠達成。
- アーモンドアイ、史上初・芝のGⅠ8冠達成。
この秋、中央競馬では史上初の偉業が3週連続で達成された。
さらに、記録を達成したこれら3頭の陣営が、揃ってジャパンカップに参戦することを表明し、その直後から『空前絶後』『百年に一度の戦い』『世紀の一戦』などの言葉が飛び交った。
そして実際に、40回目の区切りを迎えた2020年のジャパンカップは、かつて日本の競馬、いやそれどころか、おそらく世界の競馬でもなかなか実現したことがないであろう、三冠馬3頭が直接激突する舞台となったのである。
もちろん、人気を分け合ったのはこれら3頭で、中でも単勝オッズ2.2倍の1番人気に推されたのは、2年前の覇者にして牝馬三冠馬のアーモンドアイだった。前走の天皇賞秋は、得意パターンとなったぶっつけ本番をものにして見事に連覇を達成。
今回は中3週のローテーションが懸念されたが、引退レースとなるこのレースで、自身の記録を更新する9つ目の芝のGⅠタイトルを獲得し、最強馬のまま有終の美を飾れるかという点に注目が集まった。
一方、オッズ2.8倍で僅差の2番人気に続いたのは、今年、牡馬三冠を無敗で達成したコントレイル。
クビ差の辛勝とはいえ、距離・枠・馬場という3つの不利を跳ね返した菊花賞から中4週の臨戦過程。激闘の疲労が心配されたが、条件面でも府中の2400mのほうが向くことは明らかで、強豪相手とはいえこの舞台でライバル達を撃破し名実共に最強馬となることが期待された。
そして、3番人気となったのが、今年の牝馬三冠を無敗で達成したデアリングタクトだった。
秋華賞から中5週のローテーション、さらに上位人気2頭とは2キロ、他の出走馬とは4キロの斤量差があるなど、実はこの馬こそが最も有利な条件で挑める立場ではないかとする声もあった。
以下、人気順では、香港ヴァーズ圧勝の実績があるグローリーヴェイズ、昨年のジャパンカップも含めGⅠで2着が3度あるカレンブーケドール、長期休養明けとはいえ昨年の菊花賞勝ち馬ワールドプレミア、2017年の菊花賞馬で2年前の当レース2着のキセキが続き、いよいよかつて類を見ない世紀の一戦の幕が切って落とされた。
レース概況
ウェイトゥパリスが枠入りに手間取ったものの、他の14頭はスムーズに入りゲートが開くと、アーモンドアイが抜群のスタートを切った。それを制してキセキが先手を奪い、逃げると予想されていたトーラスジェミニとヨシオがそれを追う。
4番手に続いたのはグローリーヴェイズで、好スタートを切ったアーモンドアイは5番手に控えた。一方、3歳の三冠馬2頭、デアリングタクトはちょうど中団7番手を追走し、コントレイルはさらにそこから2馬身ほど離れた9番手につけ、レースは早くも2コーナーから向正面に入った。
既に、先頭のキセキと2番手トーラスジェミニとの差は大きく離れていて、1000mの通過は57秒9のハイペース。トーラスジェミニはそこからおよそ2秒離れ、60秒ちょうどくらいで1000mを通過し、これで平均ペースという流れになっていた。
3コーナーに入ると、キセキと2番手の差はさらに大きく広がったが、この時点でも後続は差を詰める素振りを見せず、残り600mを切ってもほぼその差が変わらなかったため、にわかにキセキの逃げ切り勝ちをイメージさせるような展開となった。
直線に入り、残り400mの標識を過ぎてもキセキのリードは10馬身ほど。
グローリーヴェイズが単独2番手に上がってそれを追い、ギリギリまで追い出しを我慢していたアーモンドアイとルメール騎手が、ようやくここから仕掛け始める。その後ろの集団からは、馬場の真ん中を伸びるデアリングタクトとカレンブーケドール、さらにその外からコントレイルが前を追って残り200m標識を通過する。
ここで、後続とキセキの勢いの差は歴然となり、アーモンドアイがグローリーヴェイズと、残り100m手前でキセキを相次いで交わして先頭にたち、逃げ込みを図る。
2番手集団は4頭が横一線となり、その中で最も脚色の良いコントレイルがアーモンドアイに迫るが、最後までその差は詰まらず、アーモンドアイが1着でゴールイン。
1馬身1/4差の2着にコントレイル。
3番手争いは大接戦となったが、3頭の真ん中からわずかハナ差だけ前に出たデアリングタクトが3着を確保し、カレンブーケドール、グローリーヴェイズの順で入線した。
アーモンドアイは完勝といっていい内容で、これが自身の記録を更新する芝のGⅠ9勝目。
他にも、今回の1着賞金を加えて総獲得賞金歴代1位となるなど、様々な記録を達成し、ターフに別れを告げることとなった。
各馬短評
1着 アーモンドアイ
生涯唯一の大敗を喫した昨年の有馬記念同様ハイペースでレースが流れ、上がり3ハロンが38秒近くかかる厳しいレースとなった。
しかし、あれからおよそ1年。見事にそれを克服し、追ってきた三冠馬2頭をはじめとするライバル達に馬体を併せることを許さず、文句なしの完勝で最強馬のまま有終の美を飾った。
たくさんの勝因があったことは間違いないが、この大一番で絶好のスタートを切って好位を確保し、道中もロスのないレース運びをできたことが非常に大きかったのではないだろうか。
幾多の名馬が越えられなかった芝のGⅠ7勝という壁を前走で乗り越え、今回その記録をさらに一つ上積みして9勝としたことは、あまりにも大きすぎる偉業となった。
2着 コントレイル
道中は中団やや後方を追走。
前走より距離が短くペースも速かったため、菊花賞のように折り合いを欠くシーンは見られなかった。勝ち馬とは通ったコースの差があったかもしれないが、東京競馬場のここ数週間のレースを見て、直線で馬場の外目を選択するのは当然の判断だったといえる。
また、前走の激闘からわずかな期間でここまでの状態に持ってきた陣営の努力と、それに応えた人馬は見事としか言い様がない。敗れはしたものの、古馬に混じっても改めて見せつけた実力の高さは間違いなく、2021年の日本の競馬がこの馬を中心に回っていくことを示唆している。
最強馬の系譜を引き継ぐ実力の持ち主であるところを十二分に見せつける内容だった。
3着 デアリングタクト
道中は、先輩の三冠牝馬アーモンドアイを前に見るレース運び。
勝負どころで、その先輩に馬なりで引き離されてしまったところが現状の実力差かもしれないが、残り300mの手前で、外からコントレイルに少し寄られる不利がありながら、最後はオークスで見せたような鋭い末脚を発揮して上位争いに加わり、しぶとく3着を確保した。
父エピファネイアが、現役時に最も強い競馬を見せたのは、4歳秋のジャパンカップだった。その成長力があれば、この馬とて牝馬最強馬どころか現役最強馬となるポテンシャルは十分に秘めている。
レース総評
最強馬を決める世紀の一戦はアーモンドアイの完勝で幕を閉じ、彼女の馬生はこれ以上ない形でハッピーエンドを迎えた。3歳のジャパンカップで最強馬となってから丸二年、アーモンドアイはずっと最強馬であり続け、ほぼ完璧な成績で現役生活に終止符を打った。
前走、新記録となる芝のGⅠ8勝目を達成した際の勝利騎手インタビューで、想像できないほどのプレッシャーから解放されたルメール騎手の目には涙があったが、今回は「アーモンドアイのさよならパーティーだった」とレース後に笑顔で語ったように、アーモンドアイとの最後のひとときを噛みしめながら楽しんでいるようにさえ見えた。
彼女には、これから第二の馬生が待っている。初年度にはどんな種牡馬が選ばれるのだろうか。
その仔は、どのような走りを見せるのだろうか。
想像するだけでも楽しみは尽きない。
また、併せて印象的だったのは、2020年のジャパンカップがあまりにも画に描いたような好レースとなったことだ。レース前に、三強による『好勝負』が期待されることはよくあるが、現実にはなかなかそうならないことが多い。しかし今回は、2年前の好走を思い出させるキセキのよどみのない流れを作る逃げに始まり、三強をマークするのではなく自ら勝ちにいったグローリーヴェイズや、毎レース相手なりに好走し、三強相手にあわや一角崩しのシーンさえ作ったカレンブーケドールなど、ほぼ全ての人馬が持てる力を発揮し、その結果、素晴らしいレースとなった。
ここ数日、再び新型コロナウイルス関連のニュースが世の中を騒がせているが、3頭が1ヶ月前に達成した偉業と、その極めつけとしてのジャパンカップのレース内容は、もともと競馬を長年見守ってきた人達のみならず、『世紀の一戦』と聞いて今回初めて競馬を見た人達にも間違いなく大きく響いたはずであり、また一つ明るい話題を、そして勇気と希望を与えてくれるものとなった。
写真:@naokymaru