万葉ステークスは、毎年1月に行われている伝統の長距離オープン競走。
現在、平地で3000m以上のレースは年間6レースしか施行されていないため、ステイヤーにとっては貴重な出走機会となっている。

京都競馬場が改修中のため、2021年は中京競馬場で行われることとなったが、3000mの平地のレースが中京競馬場で施行されるのは、メジロマックイーンが勝利した1991年阪神大賞典以来、実に30年ぶりのこととなった。

人気は割れて4頭に支持が集まり、卍巴の様相を呈していた。
その中で、僅差の1番人気に推されたのは、前走の菊花賞で5着と好走したブラックホールだった。2歳時にGⅢ札幌2歳ステークスを勝利して以降、勝利からは遠ざかっているが、クラシック三冠レース全てで一桁着順という成績を残した。また、今回のように、坂を2度上る直線の長いタフなコースは、いかにもゴールドシップ産駒に向きそうな条件で、人気を集めることとなった。

一方、2番人気となったのはアンティシペイト。昨年は、春から夏にかけて3連勝。注目の上がり馬として菊花賞の有力候補に挙げられていたが、抽選で無念の除外となってしまった。その後、3勝クラスの古都ステークスで2着となり、およそ2ヶ月の休養を経てここに臨んできた。

3番人気に続いたのはタイセイトレイルで、こちらは長距離重賞の常連となっている馬。前走のGⅡステイヤーズステークスは、2番手から粘り込んで4着と好走し、今回はオープン初勝利を目指し出走してきた。

そして4番人気に推されたのは、2連勝中の5歳せん馬ゴーストだった。
ここまでキャリア13戦と大切に使われており、3走前の阿寒湖特別で2着となった後、札幌日刊スポーツ杯と西宮ステークスを連勝。ハーツクライ産駒らしく、4歳秋を越えいよいよ本格化の兆しを見せてきた。

レース概況

ゲートが開くと、全馬きれいに揃ったスタートとなった。
まず、サンデームーティエが予想通りに逃げ、直後にヴィッセン、さらにその後ろをアイファーキングズとタイセイトレイルが併走する。一方、1番人気のブラックホールは、一度後方に控えたものの、3コーナーでまくり気味に3番手までポジションを上げ、最終的には6番手につける形となった。その後、4コーナを回る頃には全体の隊列も落ち着き、1周目のスタンド前に入った。

最初の1000m通過は1分0秒2の平均ペースで進み、先頭から最後方まではおよそ10馬身差でほぼ一団。他の上位人気馬では、アンティシペイトがちょうど中団を進み、ゴーストは後ろから4番手の内に控える格好となった。レースは、そのまま1コーナーから2コーナーを回ってスタート地点に戻り、2周目へと入る。

結果的に、最もペースが遅くなったのはこの辺りで、2000mの通過は2分4秒3と、この1000mはかなり時計を要した。その直前、残り1200mを切ってから、後方に構えていた8枠のナムラドノヴァンとステイブラビッシモが進出し始めたのをきっかけに、徐々にペースが上がり始める。

3コーナーを回るところで、バラックパリンカが大きく遅れはじめたが、それ以外の13頭はほぼ一団となって勝負どころを迎えた。続く4コーナーで、逃げていたサンデームーティエが失速し、変わってヴィッセンが馬場の真ん中を通って先頭。内から、タイセイトレイルがコーナリングでそれに並びかけ、レイホーロマンスとブラックホールが3番手につけ、最後の直線勝負に入った。

直線に向くと、人気のブラックホールは後退し、変わって絶好の手応えで上がってきたのは、4コーナーで大外を回っていたナムラドノヴァンだった。ヴィッセンは後退し、残り200mを切った地点で、先頭のタイセイトレイルをナムラドノヴァンが交わすと、その差をジリジリと広げて勝利をほぼ確実なものにする。

焦点は2着争いとなり、粘るタイセイトレイルの内からレイホーロマンスが、外からアンティシペイトが襲いかかってきた。そんな接戦の2着争いを尻目に、ナムラドノヴァンが1馬身4分の1差をつけて1着でゴールイン。大接戦の2着争いは、最後に内から差した8歳牝馬のレイホーロマンスが2着、ハナ差の3着にタイセイトレイルが入った。

良馬場の勝ちタイムは3分3秒9。
上位人気馬では、アンティシペイトが4着、ゴーストが5着となり、1番人気のブラックホールは8着に終わった。

各馬短評

1着 ナムラドノヴァン

3コーナーから、馬群の大外を捲るようにしてポジションを上げ、直線は余裕を持っての差し切り勝ち。長距離レースのお手本のような高倉騎手の好騎乗も光ったが、着差以上の完勝だった。前走、3勝クラスのグレイトフルステークスでは、圧倒的に逃げ・先行有利の展開を、ただ一頭、後方から上がり最速の末脚で追い込んで6着。今回は、意欲の連闘かつ格上挑戦だったが、見事にその決断が実を結んだ。

管理する杉山調教師は、昨年デアリングタクトを筆頭に管理馬が大活躍し、一気にリーディングの7位にまで浮上したが、こういったレース選択の上手さが本当に際立っている。思えば、昨夏にアールスターが小倉記念を制したときも、3勝クラスからの格上挑戦だった。

初日も、いきなり2勝を挙げて勢いは継続中。昨年、ノーザンファーム生産馬での勝利はわずかに3つで、それでいてこの成績は、素晴らしいとしかいいようがない。

2着 レイホーロマンス

中央でデビューし、8戦未勝利のまま一度は名古屋競馬に移籍。そこで3勝をあげ、中央に再転入して4年が経過した。デビュー以来、一貫して420kg前後の馬体重で走り続け、牝馬8歳にしてなお現役で走り続ける姿には、本当に頭が下がる思いだ。

11月下旬から3月上旬の寒い時期が良く、コース適性は、ローカルの小回りコースや、内回りコースが良い。また、枠順では、これまで中央競馬で3着以内に入った9回中7回が、4枠より内側の枠だった。

3着 タイセイトレイル

2019年夏にオープンクラスに昇級以降、リステッド競走やオープン特別は、4戦して全て3着となった。2500m以上のレースでは、ほぼ安定して掲示板圏内に入る一方で、先行して最後の一伸びを欠くレースが続いている。とはいえ、おそらく後方に控えて差す競馬をしても、良さが出るわけではなさそうで、なんとも作戦が難しそうな馬である。

レース総評

前走で上がり3ハロン3位以内の脚を使った距離延長の馬が4頭出走し、その中の2頭がワンツーという結果になった。また、この2頭はハンデ最軽量馬でもあった。

時計の出やすい馬場だったことや、そもそも施行条件が大きく変わっているため単純比較はできないが、勝ちタイムの3分3秒9は、1986年以降の万葉ステークスでは、圧倒的に速い勝ちタイムとなった(それまでは、2006年ファストタテヤマが記録した3分5秒6が最速)。

例年、ここで上位に入着した馬は、次走に2月のGⅢダイヤモンドステークスを選択することが多い。そのダイヤモンドステークスは、過去10年、7・8枠のいずれかが馬券圏内に必ず入っている。とりわけ8枠が非常に強く、1番人気馬が6頭も入ったことが大きいが、8枠に入った20頭が、5勝2着3回3着2回という成績で、2頭に1頭が3着以内に食い込んでいる。昨年は、16番人気のミライヘノツバサが16番枠から優勝したことも、その強さを表しているのではないだろうか。

ダイヤモンドステークスに出走してくるかどうかは分からないが、今回のナムラドノヴァンの勝ちっぷりを見る限り、外枠に入れば再び期待が持てそうだ。

写真:オボ山

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