1960年に中山2000メートルで始まったアメリカジョッキークラブカップは、今年で62回目を迎えた。
過去の優勝馬には、タケホープやグリーングラス、ミホシンザン、スペシャルウィークなどが名を連ね、古くからGI優勝馬の始動戦に選ばれている伝統GIIである。

今年は17頭が出走。明け4歳世代から4頭が乗り込む。GI馬の参戦こそなかったが、重賞馬7頭が出走した。
降雪の予報に、前日発売が中止になるなど慌ただしい気持ちで迎えた、日曜日の中山競馬。
雨が続き、不良馬場での開催となった。


上位人気は、共に昨年のクラシック戦線を沸かせた4歳馬であった。
2.4倍の1番人気に推されたのは、アリストテレス。
菊花賞では、コントレイルの三冠を脅かすほどの走りを見せ2着。その後有馬記念へ出走せずにゆったりとしたローテーションを設定、今回が始動戦、初の中山参戦となる。

続く2番人気・サトノフラッグは4.9倍の支持を集めた。
こちらは皐月賞5着、菊花賞3着などクラシック三冠を皆勤。
弥生賞ディープインパクト記念を制しているほか、AJCCと同条件のセントライト記念でも2着と中山競馬場でも活躍を見せている。

6.8倍の3番人気は、ヴェルトライゼンデ。デビュー2戦目の萩ステークス(L)以来勝利には至っていないが、ホープフルステークスや神戸新聞杯で2着となっている。

さらに紅一点ウインマリリンが10.5倍の5番人気。フローラステークスを制したのち優駿牝馬(オークス)ではデアリングタクトに半馬身迫る2着となった。古馬と初顔合わせになったエリザベス女王杯では、3歳馬の中では最先着となる4着。ラッキーライラックの引退により世代交代が進んでいる古馬牝馬路線の主役へかけあがることができるのか。

一方、迎え撃つベテラン古馬勢の筆頭は、4番人気のステイフーリッシュ。6歳馬は22戦に出走しているが、新馬戦と京都新聞杯の未だに2勝のみ。重賞でもたびたび上位着順に入っていて、稼ぎ出した賞金は2億5287万円にのぼる。また、昨年のAJCCではブラストワンピースに次ぐ2着となっている。
加えて、同じ社台レースホースの勝負服を纏うラストドラフト。京成杯勝利のほか、昨年のAJCCでは前を行く故障馬の影響で、大外を回る振りを受けながらも3着となっている。有馬記念には賞金が足りずに除外、勝って賞金を加算したいところだ。

その他、重賞優勝馬では、昨年の日経新春杯を制したモズベッロ、セントライト記念・京成杯勝利のジェネラーレウーノ、2016年のチャレンジカップを制したマイネルハニーが出走した。

レース概況

おおよそ揃ったスタートを切るが、モズベッロの出がやや良くない。
まずは、ランフォザローゼスやウインマリリン、ジェネラーレウーノ、ジャコマルの橙帽、桃帽が先手を主張。ステイフーリッシュが先行し、1番人気のアリストテレスは馬群の中。その後方にヴェルトライゼンデやラストドラフトが取り付いた。最後方にサトノフラッグとサンアップルトンが位置して1周目のゴール板を通過、第1コーナーに差し掛かった。

コーナーで完全にハナを奪ったのはジェネラーレウーノ、逃げあぐねた他の先行馬や後方勢は、直後に細切れに位置し、縦長の馬群となる。その姿はまるで競輪のようであった。

前半の1000メートルを1分3秒3で通過。バックストレッチでは落ち着いたペースとなった。
第3コーナーにかけて各々騎手が盛んに手を動かす中、後方待機していたモズベッロやサトノフラッグが外に持ち出して徐々にポジションを上げていく。

コーナーリングにて、先頭がジェネラーレウーノからジャコマルやウインマリリンら先行集団に。中団のアリストテレスやステイフーリッシュは、馬場状態のいい外側、ヴェルトライゼンデはアリストテレスの後ろでマークした。後方から追い上げたラストドラフトやサトノフラッグ、モズベッロがさらに外の大外を回った。

最終コーナーは、内から抜け出したジャコマルやウインマリリン、外のステイフーリッシュとアリストテレスが横一列に並ぶ展開。
残り200メートル付近となると、次第に外側の脚勢が目立ち始め、アリストテレスが単独先頭に。それに呼応するように後ろにつけていたラストドラフト、ヴェルトライゼンデが2頭で並んで追い上げ始めた。

しかし、ルメール騎手の右ムチに応えてアリストテレスが、もう一伸び。
迫る2頭を振り切って先頭で入線した。
その半馬身迫った、ヴェルトライゼンデが2着、クビ差後ろにラストドラフトが3着に入った。

各馬短評

1着 アリストテレス

不良馬場を難なくこなして重賞初制覇。走破時計2分17秒9は、中山2200メートルで施行されたAJCC史上最も遅い決着となった(従来は2012年ルーラーシップの2分17秒3)。

叔父には、2004年の阪神大賞典などGIIを3勝。菊花賞や天皇賞(春)などGIで2着3回など、ステイヤーとして活躍したリンカーン(父:ブライアンズタイム)。2007年の皐月賞を制したヴィクトリー(父:ブライアンズタイム)。

叔母には、母として2017年の青葉賞を制したアドミラブルや、牝馬戦線で活躍したエスポワールを生んだスカーレット(父:シンボリクリスエス)がいる。

クリストフ・ルメール騎手はフェアリーステークス(ファインルージュ)、京成杯(グラティアス)に続く、3週連続重賞勝利。前年はJRAGIの8勝を含む重賞17勝を挙げたが、2021年もそれ以上の活躍を見せているといえる。

2着 ヴェルトライゼンデ

終始アリストテレスをマークしながらの追走。道中はノメっていたことからも、不良馬場に苦労した印象。直線では手前を替えられず、内側にもたれながらも、自身4回目の重賞2着となった。
これまで1億7千万円を獲得しているが、勝ち鞍は萩ステークス(L)のみで、重賞タイトル獲得には至っていない。しかし、良馬場でなら今後、重賞タイトルを冠するのも時間の問題と言えよう。

3着 ラストドラフト

上がり3ハロンメンバー中最速の末脚を見せて追い上げ、前年に続く3着。
惜しくも賞金加算することができなかった。

前年は、AJCCから金鯱賞に進み長期休養。復帰は秋であった。5歳ながら10戦と使われていないことからも、今後の成長が見込めるだろう。年末の有馬記念のゲートインを目指し、さらなる賞金加算を望みたい。

11着 サトノフラッグ

後方から進み、早めに仕掛けて追い上げを試みたが、直線で伸びることはなかった。
スローペース、後方待機、最内枠、不良馬場という条件は不利が過ぎただろうか。菊花賞3着のように良馬場での走りを待ちたい。

レース総評

タフな不良馬場で行われたAJCCは、アリストテレスが重賞初勝利を挙げた。今後は、天皇賞(春)を目標に、日経賞か阪神大賞典へ進み、長距離路線を歩む。

フィエールマンが引退し、主役不在のステイヤー界。三冠馬コントレイルと互角に戦い、かつ不良馬場や中山を克服し、賞金加算に成功した4歳馬は、その後釜に座る資格を十分に持っているといえるだろう。

改めて、不良馬場を完走した全17頭には敬意を表したい。
今後の反動が心配ではあるが、また競馬場のファンの前で元気な走りを見せてほしい。

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