阪神競馬場に桜が満開の時、女王が決まる。
春の風物詩と言っても過言ではないクラシック開幕戦「桜花賞」。
数々の名牝がこのレースから飛躍を遂げ、三冠牝馬への道を歩んだ。
今回はそんな歴史ある桜花賞の戦いの中で、数々の"史上初"が重なった桜花賞をピックアップする。
2013年、桜花賞。
この年のクラシック戦線は混戦を極めていた。
中心視されていたのは前年の阪神ジュベナイルフィリーズで2着好走し、桜花賞トライアルのチューリップ賞を制したクロフネサプライズ。名手・武豊騎手を背に、自慢の先行力で桜奪還を狙う。さらにトライアルフィリーズレビューを制したメイショウマンボには武幸四郎騎手が騎乗。武兄弟でのクラシックワンツーも期待された。その他にも阪神ジュベナイルフィリーズの勝ち馬ローブティサージュ、ディープインパクトの半弟トーセンソレイユといった素質馬たちが注目を集めた。
しかし、レース後に話題を席捲したのは関東の刺客だった。
関東の手塚厩舎に属するアユサン。
父ディープインパクト譲りの切れ味を武器に、アルテミスステークスでは2着と好走。
阪神ジュベナイルフィリーズこそ敗れたもののチューリップ賞では3着に入り、桜花賞の出走権を獲得──桜の舞台に出走することが叶った。その後、陣営はアユサンを関西で調整させるなど、桜花賞に向けて万全な調整を行って本番に臨んだ。
──しかしレース前日にアユサン陣営にアクシデントが起こる。
主戦騎手であり、桜花賞にも騎乗を予定していた丸山元気騎手が負傷で騎乗不可になり、急遽クリスチャン・デムーロ騎手が代打騎乗となったのだ。G1などのビッグレースでその馬に騎乗経験が無い騎手への変更は厳しい条件変更だと言える。アユサンはこの逆境に、どう立ち向かうのか。
そして、桜花賞当日。
晴れ渡る阪神競馬場は、見事な桜並木が広がっていた。
阪神競馬場ではその年初のG1ファンファーレが鳴り響き、大歓声がこだました。
向こう正面のゲートインは順調に進み、大外枠のメイショウマンボが入りレーススタート。
各馬揃ったスタートの中まずハナに立ったのはダートG1を制しているサマリーズ。続けてクラウンロゼやウインプリメーラなど内枠各馬が先行集団を形成。そして外枠だったクロフネサプライズがポジションを押し上げ、先頭に並びかけた。しかしながら先団以降は固まっていて、アユサンもその中団に構えた。
ペースはそれほど緩まず、馬群は横に広がって直線へ。
サマリーズが後退し、変わってクロフネサプライズが先頭に立つ。得意の形で押し切りたいクロフネサプライズだったが、後続各馬も必死に追う。
そして馬群を割って伸びてきたのは、青い帽子のアユサンだった。
先頭に躍り出たアユサンだったが、大外からミルコ・デムーロ騎手が騎乗するレッドオーヴァルが強襲。アユサンと馬体が並んだ追い比べとなった。
デムーロ兄弟による、壮絶なたたき合い。
ゴール前で半馬身グッと伸びたのは、内アユサンだった。
大きなガッツポーズを見せた鞍上クリスチャン・デムーロ騎手は、JRAのG1初制覇。さらに桜花賞を外国人ジョッキーが制したのも初。まさに"初物尽くし"の桜花賞となった。
白熱の2013年桜花賞を制したアユサン。管理する手塚調教師は前年アイムユアーズで3着に敗れたリベンジを果たした。これは桜花賞に向けた努力の調整、丸山騎手やデムーロ騎手を含めた「チームアユサン」の下で結束したチームワークの賜物と言えるだろう。
一生に一度の舞台であるクラシック。
今年も全馬が力を出し切る戦いを期待したい。