可愛い目をした馬だった。
くりくりの真ん丸な目をした大きな馬体で、私と目が合うとズンズン歩いて迫ってくる。
「はい、下がろうね~」と、後ろに下げられても、またズンズン。
「下がるよ~」と、もう一度。
真ん丸の琥珀色したオリオンの瞳。オリオンは私を見つめたまま、三度目のズンズンをした。
夏の名残りの9月上旬。私がオリオンとNPO引退馬協会のミニツアーで出会ったのは2017年のことだった。
NPOの近況報告でいつも見ていたオリオン。実物は想像以上に、実に可愛い男馬だった。
競走馬名、トウショウオリオン。
オリオンが勝った最後のレースが、1998年のGⅢ第33回TV西日本北九州記念だった。
私が競馬から離れていた頃の事で当時の記憶がない為、動画を探した。
2017年当時の私はネットで探して見つけたと記憶している。
2021年の私は、NPOのフォスターペアレント(FP)に配られた記念品のDVDでレースを見た。
1998年7月26日(日)4回阪神4日目、阪神11R 芝2000m(右)雨、良。
2枠2番のオリオンの鞍上は池添謙一騎手。ハンデ53kg。当時の馬齢表記で6歳。12番人気だった。
ザーザー降りに画面に映る雨はいつ頃降り出したものか、良馬場とは言え足元は少し重かったかもしれない。
まあまあの反応でゲートを出て、そのまま内ラチ沿いを先頭で走る。
1-1-1-1で逃げ続けていた。
4コーナーも先頭で周りそのまま逃げ切ること、2と1/2馬身。
ゴール板を過ぎたオリオンは池添騎手に2回3回と首筋を叩いてもらっていた。
「よく頑張った!」
そんな声が聞こえてきそうな祝福だった。
オリオンはその後、平地と障害を使い、中央29戦6勝、障害2戦(6-2-1-22)で引退。
引退後は種牡馬登録をされていた。
1頭だけ、オリオンの産駒がいる。
生まれ故郷のトウショウ牧場でフローラトウショウ(父エアダブリン)との間に生まれた牝馬、フローラトウショウの2004は両親に似て(?)鹿毛だったようだ。
オリオンは、トウショウ牧場の誇る名馬にして名種牡馬トウショウボーイの送り出した、最後の重賞勝ち馬だった。
さらに、オリオンの姉はGⅠ桜花賞馬、シスタートウショウでもあった。
そんな老舗のトウショウ牧場でも牧場をたたむ時が来た。
牧場の先輩トウショウフェノマがNPOのフォスターホース(FH)になったご縁で、閉鎖に伴いマザートウショウとオリオンはNPOに委ねられた。マザーは浦河の渡辺牧場に、オリオンは新ひだかの本桐牧場に。
2017年のオリオンはすっかりFHの役割を理解したと皆に口々に褒められていた。
訪問したNPO一行に愛想よくポーズを決めて写真を撮ってくれたり、人参をモグモグいっぱい食べてくれていたのを覚えている。
人懐っこいオリオン。
人間が好きなのが伝わってくる。
人がいる方に、いる方に近寄ってくれる。
私も、オリオンと一緒に写真を撮った。
近くで見るオリオンの真ん丸な瞳は、明るい琥珀色をしていて、顔の正面から目を見ると琥珀色のキャンデーみたいに後ろの世界をも映していた。
柵の外からカメラを構えるとカメラに鼻を近づけたりして好奇心も旺盛で可愛い。
すっかり虜になった私は翌日の帰路の途中、新千歳空港の待ち時間にオリオンのFPに申し込んだのだった。
そんなオリオンに変化が訪れたのが2019年の5月。
第5頸椎の骨折。それからわずか2か月の闘病生活の後、2019年7月9日に虹の橋を渡ってしまった。
父トウショウボーイは天馬と呼ばれた馬。
その息子のオリオンは軽やかに人懐っこく、『涙をこぼして旅立った』とNPOから後日報告があった──。
──ここからは書き手より、皆様へのお願いです。
NPOのホームページでフォスターペアレントのページを開きスクロールすると、フォスターホース紹介があります。
そこをさらに開いて思い出の中のフォスターホース達を選んでみてください。
安らかな眠りについたフォスターホースたちの中にオリオンがいます。オリオンの紹介を読み進めていくと近況報告があり、開くと在りし日のオリオンが記録されています。
最期の日を読むと涙が止まらなくてこれ以上書けないので、オリオンがどんな風に本桐牧場で楽しく過ごし、ファンやFPから愛されていたか、スタッフさんに甘えたりしたかを、ぜひ読んでほしいです。
そして、記事の最後に亡くなる時の様子を書き留めてくださっています。
横たわりながらも駆けつけたFPに励まされているオリオン。
今は本桐牧場の墓碑がある一画にオリオンのお墓もあります。
毎年、命日には沢山のお花が届くそうです。
私も忘れずに送っています。
また今年もこちらの世界に遊びに来ているかなあ?
たまには会いに来てね。
そんな思いで一日を過ごしながら。
最後に、書き手より読んで下さった皆様へ。
この記事を書くために今まで封印していたFPに配られた記念品を開きました。
DVD、ミニ写真集、近況報告のまとめ。まとめにはお世話をして下さったスタッフさんのメッセージもあります。
この記事を書き終えてから読みたいと思います。
今まで辛くて開けなかったオリオンの記録を開く機会、私の記憶と感情を解き放つ機会を与えていただけたこと、また今までオリオンを知らなかった人に知ってもらえる機会、そして生前のオリオンを知る人と思い出を共有できる機会を与えていただけたこと。
心より感謝しています。
そして、この記事を読んでくださってありがとうございました。
写真:オラシオン