逆転の百万石賞〜2017年・百万石賞〜

2017年。
この年の百万石賞は、誰が勝つのか大きな注目を集めていた。
──無論、競馬である以上、毎年誰が勝つかは注目を集めるが、この年は『特別』と言えた。

百万石賞は2010年から前年の2016年までの7年間、優勝馬はジャングルスマイルとナムラダイキチ2頭だけだった。その2頭が2017年の百万石賞を待たずして、相次いで引退。
2大巨頭がいなくなった次の金沢の王者は誰になるのか。
それを決める一戦としてこの百万石賞に注目を集ったのだった。

そんな中で次の王者として目される一頭の馬が、2頭と入れ替わるように金沢に移籍してきた。

トウショウフリーク(牡10歳)。
JRAをメインに競馬を見ている人でもピンと来る名前ではないだろうか。

JRAではバリバリのオープン馬であり、重賞勝ちこそないが2着4回、GI川崎記念3着と実績は抜群。
血統も姉がGI3勝のスイープトウショウ、全兄がJRAでは未勝利だが金沢に移籍して2戦目で4大競走の一つ北國王冠を勝ったトウショウデザイアと、こちらも抜群。
ただ、さすがに10歳となって近走成績はイマイチでもあった。
金沢では十分にやれるだろうけども……と注目を集めた移籍初戦、重賞の常連コスモマイベストを8馬身ちぎる圧勝で、単勝1.3倍の一番人気に応えた。
この圧勝劇に「やっぱりJRAのオープン馬は違う」「これからはトウショウフリークの天下だ」と多くの金沢競馬ファンが色めき立った。続く百万石賞、トウショウフリークは単勝1.6倍の一番人気に押し上げられていた。

6月11日、百万石賞。
1番人気はトウショウフリーク、2番人気にJRA500万下(未勝利→門別3勝→500万下)から金沢移籍後重賞1勝を含む5連勝と勢い抜群のメイジンで2.5倍。3番人気は18.5倍と完全に2強対決の様相を呈していた。
ファンはジャングルスマイルVSナムラダイキチに代わる2強時代を、百万石賞のこの舞台の向こう側に描いていた。
ゲートが開くと、勢いよく5番人気のオイヌサマとメイジンが飛び出しメイジンが先頭を取りきる。それをすぐにトウショウフリークが追走。オイヌサマをジリジリと引き離し、その後ろはさらに離れて縦長の展開となった。


最初のスタンド前直線では早くも二強のマッチレースとなりつつあった。

向こう正面に入るとメイジンが早くも振り切りにかかり、トウショウフリークを引き離していく。トウショウフリークはメイジンから離されるだけではなく、後続集団に飲み込まれてズルズル後退。
これはメイジンが新王者かと思ったが、後続集団の勢いがよく4馬身はあった差が徐々に縮まっていった。

それでもメイジンは、なんとか2馬身程のリードを保って最後の直線に入る。逃げ粘りを図って懸命の逃走を見せるメイジンだが、馬場の真ん中を後続集団の先頭を走っていた馬が駆け抜けて差を縮め、追い付き、一気に交わす。
そして、1馬身の差をつけて先頭でゴール板を駆け抜けた。

先頭を駆け抜けた馬は「トウショウ」だった。しかし、トウショウはトウショウでも、フリークではなくプライド。
6番人気のトウショウプライドだった。

トウショウプライドはこの時7歳。フリークとは違ってJRAでは新馬戦の1勝のみで金沢へと移籍。金沢・名古屋・笠松と競馬場を問わずに地道に走り続けて力をつけていき、2016年の百万石賞ではジャングルスマイルに半馬身差の2着に食い込んでいた。
近2走はメイジンにやられていたがその前まで4連勝。この舞台で好走する要素は十分だったのだ。二強と思われていた陰で人気の盲点となり、JRA時代には手も届かぬ位置にいた同郷・元同馬主の先輩への、下克上となる逆転勝利を収めたのだった。

この百万石賞を彩った馬達の、その後は──。
大差最下位に沈んだトウショウフリークは金沢で特別戦を1戦走るも3着に終わり、それが現役最後の走りとなった。
2着メイジンはその後も勝ち続けてこの年の中日杯を制し、2017年度の年度代表馬となる。それ以降は重賞から遠ざかり2019年6月から現在も休養中。
そして、トウショウプライド。その後の重賞ではメイジンが勝った中日杯で3着に入ったのが目立つ程度で特別でも勝ちきれない日々が続く。
しかし再び下克上を、一発逆転を狙って、2019年から舞台を高知に移籍。2020年、10歳になった今も走り続けている。

トウショウプライドと葛山騎手 写真 haruka

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