クラシックレースへの登竜門「シンザン記念」。

数多くの名馬が、ここをきっかけに大きく飛躍した出世レースでもあります。
2018年の勝ち馬アーモンドアイの道悪馬場を切り裂く豪脚は記憶に新しいところで、2012年には歴史的名牝ジェンティルドンナも勝利したレースです。

さらに遡れば、2002年にはダービー馬タニノギムレットがシンザン記念の勝利をきっかけに飛躍。1997年の勝ち馬には日本調教馬として初めてヨーロッパのG1競走モーリス・ド・ギース賞を制覇したシーキングザパールが名を連ねます。

ここで特筆すべきは、牝馬でシンザン記念を勝った馬が、後に大きく飛躍していること。

過去30年のシンザン記念の牝馬の勝馬は7頭で、アーモンドアイ、ジェンティルドンナ、フサイチエアデール、ダンツシリウス、シーキングザパール、ミルフォードスルー、ファンドリポポと、シンザン記念制覇後も活躍をみせる馬が多く見られます。また個性的な馬が多いこともひとつの特徴でしょう。

このようなレース背景のシンザン記念ですが、今年も牝馬を中心に素質馬が集いました。

フィエールマンの半妹で、デビュー戦を圧巻の競馬で勝利したルーツドール、ディープインパクト産駒らしい無駄のない走りで過去2戦素質の高さをみせるサンクテュエール、同じくディープインパクト産駒でも切れ味に寄ったオーマイダーリン。

迎え撃つ牡馬勢も、朝日杯4着のタガノビューティー、5着のプリンスリターンと骨があります。

今年のシンザン記念は小頭数ながら、クラシック登竜門らしく良いメンバーが揃った一戦となりました。

レース概況

ゲートが開くと、好スタートを切ったプリンスリターンが一旦はハナに立ちます。

その後、どの馬が主張することもなく、結果的にヴァルナが先手を取ることに。
以降、プリンスリターンが2番手、出遅れたサンクテュエールが早めに巻き返して3番手と続きます。
道中、レースは淡々と進み、前半800mのラップは48.0。

今の京都の重めの馬場を考えれば、早くもなく遅くもないミドルペースのラップを刻んでいきます。

そして残り800m。迎えた淀の下り坂。
本来であれば、淀の下り坂を利用してレースが動く瞬間です。
しかし、今回は展開が動きません。

そのまま直線に入り、2番手の好位からレースを進めたプリンスリターンが仕掛け、残り300mで逃げるヴァルナを捕まえます。

残り200m。
プリンスリターンをマークするように内でレースを進めたサンクテュエールが仕掛けます。鞍上のルメール騎手の左鞭一閃。激に応えたサンクテュエールが鋭く伸びます。

その後は、2頭のマッチレース。
内サンクテュエール、外プリンスリターンの激しい追い比べ。
最終的には残り50mで、グッと前に出たサンクテュエールが1着となりました。

クビ差の2着にプリンスリターン、以降は大きく差が開いてコルテジアが3着を確保します。
勝ち時計は1:35.9。

積極的にレースを進めた原田騎手とプリンスリターンの競馬、そしてそれ以上に出遅れ後に位置を挽回して、直線はギリギリまで追い出しを我慢するルメール騎手の手腕が光ったレースでした。

各馬短評(血統的観点から)

1着 サンクテュエール(2番人気)

父ディープインパクト、母が米国G1馬のヒルダズパッションの良血馬。

米国でG1を2勝したヨシダの半妹、ジークカイザーの全妹にあたります。

Halo≒Sir Ivorの3×5・5のニアリークロスを持ち、機動力や瞬発力も兼備。さらに母系ではSadler's Wells≒Nureyevのニアリークロスを内包しており、パワーも十分で道悪適性を支えます。

血統的には、仕上がりが早く、先行力を武器に押し切る競馬を得意とする優等生タイプの血統です。

そのような血統背景から、牝馬クラシックでも十分活躍が期待できます。全兄のジークカイザーが阪神コースを得意としていたことから、桜花賞向きと考えます。

2着 プリンスリターン(5番人気)

ロベルト系の父ストロングリターンに、母父がマンハッタンカフェの配合の同馬。どちらかと言えば地味な血統ではありますが、スタミナと底力、パワーに優れる配合といえます。

父ストロングリターンは2012年の安田記念を勝ったシンボリクリスエスの後継種牡馬。ロベルト系ながら、大箱である東京コースで活躍もできる、コースを問わず走る種牡馬です。産駒も競馬場毎の得意・不得意がなく万能性があります。

スムーズさを欠いた朝日杯で5着、今回のシンザン記念で僅差の2着ですから能力は高く、ニュージーランドトロフィーやNHKマイルカップに出てくれば積極的に狙いたい馬です。

3着 コルテジア(9番人気)

こちらも父がロベルト系のシンボリクリスエスで母父がトニービン系のジャングルポケットの配合。母系にトニービンを内包するシンボリクリスエス産駒には、アルティマブラッドなどがおり、小回り急坂コース、特に中山コースで力を発揮する血統です。

今回は展開に恵まれた印象は否めませんが、阪神の内回りや中山の持続力勝負の一戦となるレースに出てきた際は抑えておきたい馬です。

7着 ルーツドール(1番人気)

フィエールマンの半弟で、父ジャスタウェイで母がリュヌドール、母父がニジンスキー系のGreen Tuneの配合の同馬。

兄のフィエールマンとは異なり、トニービン色が強く大飛びで、明らかに大箱の東京コース向きの馬です。

今回はレース前からかなり発汗が見られ明らかに気負っているようでしたし、レースでも道中は折り合いを欠く一面が見られました。また、その走りから時計のかかる馬場も合わなかった印象です。

大箱コースで速い時計が出る東京の中距離戦で、もう一度見てみたい馬です。

総評

今年のシンザン記念は、勝馬であるサンクテュエール、2着のプリンスリターンの強さが際立ったレースです。

特にシンザン記念が牝馬の出世レースであることを加味すれば、勝ったサンクテュエールには今後の活躍には大きな期待を感じます。

2着のプリンスリターンも力をみせました。血統の地味さや非社台系の生産牧場の関係からも、実力以上に人気をしない馬のはずですから、馬券的には今後も積極的に狙っていきたい一頭です。

また4着に入ったオーマイダーリンが、レース内容としては上位2頭に継ぐ形で力を示す走りをみせています。この馬にも注目でしょう。

写真:Horse Memorys

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