巷で話題になっているゲームアプリ「ウマ娘 プリティーダービー」。
実際の競走馬をモデルにしたこのゲーム。登場するウマ娘たちの中に現役で走っている馬をモチーフとしたキャラクターはいませんが、子供、孫あるいは親戚にあたる馬が現役で駆けている例はたくさんあります。
そういった競走馬を「ウマ娘 プリティーダービー」から競馬を持った方々にも応援してもらいたい。そんな思いからこの「今も駆ける スターの血を引く者」では、ウマ娘にも登場するキャラクターのモデルとなった競走馬と血縁関係に当たる馬を、その週のビッグレースからピックアップして紹介していきたいと思います。
今週はジャパンカップの出走馬から紹介します。
オーソリティ・アリストテレス
オーソリティの母方の祖母、アリストテレスの父方の祖母シーザリオは現役時代日米のオークスを制した国際派の名牝。その父は1999年にジャパンカップを制したスペシャルウィークです。
スペシャルウィークが勝った1999年のジャパンカップは外国馬の層が厚い年でした。スペシャルウィークを含めると4頭のダービー馬が出走していました。その4頭のダービー馬が全て7枠、8枠に入っていたことから内枠の馬から順に紹介される本馬場入場でフジテレビの三宅正治アナウンサーが「ここからは全てが世界のダービー馬」と言う実況をされていました。
そんな豪華な外国馬の中にあって、ひときわ輝く実績を持っていたのが、1番人気に支持されていたモンジュー。この年のアイルランド、フランス2か国のダービーを制し、凱旋門賞では日本のエルコンドルパサーを退け優勝した当時の世界最強馬でした。
対する日本馬は、グラスワンダーやメジロブライトと言ったG1ホースが回避したこともあり、牡牝混合のG1馬はスペシャルウィーク1頭しかいませんでした。そのためスペシャルウィークは、強力外国馬打倒の期待を一身に背負う「日本総大将」としての期待を集めていました。
レースはスペシャルウィークが中団の位置取りにつけるとそのすぐ後ろでモンジューが様子を伺う展開で進みます。この形はスペシャルウィークがグラスワンダーに敗れた宝塚記念と同じ形。もしかしたらスペシャルウィークファンの中にはその時の「嫌な思い出」がよみがえった人もいるかもしれません。
3コーナー手前。直線の長い東京では早すぎるのではと思える位置でスペシャルウィークが仕掛けて前を捕えに行きます。それを見るようにモンジューもペースを上げ、一気にレースが動き出します。
直線半ばスペシャルウィークが「どこからでも来い」と言わんばかりに先頭に立ちます。スペシャルウィークが先頭に躍り出た残り400m~200m地点のタイムは11.2。この速いタイムで抜け出せるのはスペシャルウィークの持って産まれた資質に他なりません。
さすがに仕掛けが早すぎたか、ラスト200mはガクっとタイムが落ちて12.8。それでもスペシャルウィークは香港の強豪インディジェナス、イギリスダービーの勝ち馬ハイライズ、そしてエルコンドルパサーの「かたき」でもある当時の世界最強馬モンジューと言う並み居る強豪外国馬の追撃を振り切って優勝。「日本総大将」としての威厳を見せつけるような競馬で4つ目のG1タイトルを手にしました。
世界を相手にしても怯むことなく結果を出したスペシャルウィークの血を持つこの2頭は、ジャパンカップで最も注目すべき馬たちなのかもしれません。
ムイトオブリガード・キセキ
ムイトオブリガードとキセキはいずれも2012年のジャパンカップ3着馬ルーラーシップの子供。ルーラーシップの母は1997年、1998年のジャパンカップで2着となったエアグルーヴです。
このうち1998年のレースは昨日の記事でも紹介しているのでそちらをご覧いただくとして、この記事では1997年のジャパンカップを取り上げたいと思います。
1997年のジャパンカップは3頭の馬に注目が集まるレースでした。
1頭はもちろんエアグルーヴ。前走の天皇賞秋で17年ぶりとなる牝馬としての優勝を果たし、マヤノトップガンの引退、マーベラスサンデーの骨折離脱となった秋の古馬路線の主役として堂々と名乗りを上げていました。
その天皇賞でエアグルーヴに敗れたバブルガムフェローも虎視眈々の巻き返しを狙っていました。前年の天皇賞を3歳馬として初めて制したポテンシャルは疑いようがなく、このレースでもエアグルーヴを抑えて1番人気に支持されていました。
もう1頭注目されていたのは外国馬のピルサドスキー。前年のBCターフの覇者で、その他にも凱旋門賞2年連続2着、”キングジョージ”2着と世界の名だたるレースで実績を残している国際派で翌年から日本で種牡馬入りすることが決まっていました。余談ですが、ウマ娘にも登場するファインモーションの兄にあたる馬です。
実はこのレース、レースの直前まではピルサドスキーが単勝1番人気でした。しかし、パドックで事件が起こります。
「おい、5本脚の馬がいるぞ(苦笑)」
パドックに現れたピルサドスキーは馬っ気(牡馬の発情のこと)を出しており、それはもう何と言うかご立派なものを見せつけていました。
これには「この馬はいつもこう(!?)」「エアグルーヴに惚れたんじゃないか」「種牡馬としてのやる気を見せたかったんじゃないか」と諸説ありますが、一般的に馬っ気は「レースに集中できていない」とみなされることが多く(当たり前と言え当たり前ですが)、マイナスの材料として判断されることが多いものです。
そのせいもあってか、パドック以降ピルサドスキーを買い控えるファンが増え最終的にピルサドスキーの単勝人気は3番人気まで落ちることになりました。ところが──。
最後の直線、好位からの早め抜け出すいわゆる”王道競馬”のエアグルーヴをインコースからピルサドスキーが力でねじ伏せるように差しきり快勝。エアグルーヴの鞍上武豊騎手をして「エアグルーヴは完璧な競馬をした」と言わしめ、それでもなおそれを内から差し切ってしまうピルサドスキーの強さに「世界の壁」の厚さ、高さを感じた人も多かったのではないでしょうか。
エアグルーヴにとってはそれでケチがついたわけではないのでしょうが、数多くいる子孫からジャパンカップ勝ち馬を出すことは出来ていません。
その中でもルーラーシップの血筋はルーラーシップが2012年3着、キセキが2018年2着と好走はしており、決して勝つ力がないわけでも適性がないわけでもなさそうです。
特に2018年2着のキセキはこのレース、あるいは今年いっぱいで引退が既定路線とされています。2017年の菊花賞馬の最後の勝利がこのジャパンカップと言うのもドラマティックかと思います。
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