[今週の注目]遅れてきた才能、ラベルセーヌが歩む「秋」への出発点

9週間続いた春の府中開催が、静かにフィナーレを迎えようとしている。D.レーン騎手(NHKマイルC)、C.ルメール騎手(ヴィクトリアマイル)の鮮やかな「技」で幕を開けた5週連続GⅠシリーズ。オークスで今村聖奈騎手、日本ダービーで松山弘平騎手が、春のクラッシックレースの歴史に新しい風を吹き込み、そしてラストとなる安田記念では武豊騎手がその存在感で締めくくった。春の府中は、今年もまた濃密で、息つく間もないほどのドラマに満ちていた。

来週からは福島、小倉へと舞台が移り、夏競馬が始まる。すでにオークス馬ジュウリョクピエロが秋華賞を目指すことが発表され、夏休みに入る馬、海外遠征へ向かう馬など、春の主役たちの「次の章」が少しずつ動き始めた。そのひとつひとつが、秋競馬の輪郭をぼんやりと描き始めている。

春の府中最終週を飾るのは、今年からこの週に組まれた府中牝馬S。もちろん、ここにも秋を見据えた馬たちが集う。しかし、この時期の府中には、重賞だけでは語り尽くせない「秋の気配」が潜んでいる。平場の条件戦には、春には輝けなかった「秋への隠し玉」がひっそりと姿を見せる。ここで収得賞金を積み上げ、秋のGⅠ戦線へ名乗りを上げる「夏の上がり馬」。その存在を見つけるのも、この季節ならではの醍醐味だ。

そして今週の府中最終週。その平場の条件戦に、秋を揺らすかもしれない一頭が姿を見せる。

■静かな序章。しかし、圧巻の未勝利戦

2歳の夏から新馬戦が始まり、秋には重賞戦線が動き出す。年が明ければトライアルレースが続き、桜花賞、オークスへと季節は一気に駆け抜けていく。その流れに乗り遅れれば、どれほど素質があっても春の大舞台へ辿り着くことは容易ではない。

3月8日、中山芝1800m3歳未勝利戦。

ラベルセーヌは、そんな競馬の常識と戦いながら現れた一頭だった。多くのクラシック候補たちがすでに重賞戦線で経験を積んでいる頃、ラベルセーヌはようやくデビューの日を迎えていた。

遅れてきた才能——しかし、その言葉は決して過言ではなかった。

返し馬で見せたフォームは伸びやかで、初戦特有の幼さや緊張感が薄い。むしろ「ここまで待った意味がある」と感じさせる完成度が漂っていた。

レースはスローペース。

鞍上の荻野極騎手は、中団で折り合いに専念し、勝負どころまでじっと我慢する。3コーナー過ぎから外へ持ち出すと、その瞬間に景色が変わった。ラベルセーヌは荻野極騎手の合図に応え、一完歩ごとに加速する。他馬が苦しくなる中山の坂でも脚色はまったく衰えない。

残り200メートルでは勝負はほぼ決着していた。あとはどこまで差を広げるか。ゴール板を駆け抜けた時、後続との差は5馬身、走破タイムは1分47秒0。前日に行われた中山牝馬Sと比較しても遜色ない時計だった。

ラベルセーヌは、数字以上に強烈な印象を残す圧勝でデビュー戦を飾った。それは単なる未勝利勝ちではない。そこには、上の舞台を意識させるだけの迫力があった。

■敗戦の中にあった「強さの片鱗」 - フローラS

「この馬は春のクラシックに間に合わせたい」

陣営がそう思ったのも当然だ。遅れてきた才能が、ようやくターフに姿を現した瞬間だった。

その期待を背負って挑んだのが、キャリア1戦での重賞挑戦となったフローラS。オークスへの最終切符を争う舞台は、経験の浅い牝馬には厳しい条件が揃っていたが、ラベルセーヌは怯まなかった。

スタートは五分。

道中は中団の外でリズムよく運び、3コーナーからペースが上がると、まだキャリア2戦目とは思えない追走力を見せる。直線では前が塞がりかけたが、進路を切り替えて再加速。勝ち馬と同じように脚を使い、最後までしぶとく脚を伸ばした。

結果は5着。

オークス出走権には届かなかった。もちろん悔しい敗戦だった。もしデビューがもう少し早ければ…。もう一戦経験を積めていたなら…。そんな「たられば」を語りたくなる内容だった。しかし、敗れたからこそ見えたものもある。この敗戦の中に、ラベルセーヌの「強さの片鱗」があった。重賞の厳しい流れでも脚を使えること。勝負どころで怯まず、伸びる意思を備えていること。経験不足を補って余りある芯の強さが、そこにはあった。むしろ、この敗戦は秋への可能性を強く感じさせた。

デビューが遅れた馬は、春よりも秋に花開く——競馬の歴史が何度も証明してきた真理だ。

■そして6月21日、再起動の1勝クラスへ

ラベルセーヌの3戦目は、6月21日の東京8レース・3歳以上1勝クラス(1600m)。

ここは単なる「再起動」ではなく、秋華賞への道をつなぐための最初のステップとなる一戦である。

デビュー戦で見せた圧倒的な推進力。

フローラSで示した勝負根性と持続力。

その2つが噛み合ったとき、ラベルセーヌはさらに大きな舞台へ進むはずだ。

キズナ産駒らしい長く使える末脚、欧州由来の母系がもたらす底力、そしてまだ伸びしろを残す成長曲線。ラベルセーヌのキャリアは、ようやく本格的に動き出したばかりである。

6月21日のレースは、1勝を積み上げるだけの場ではない。春に届かなかった夢を再び追いかけるための通過点であり、秋へ向かう扉を開く大切な一戦となるだろう。

遅れてきた才能は、一度軌道に乗れば一気に飛躍する。3月の中山で見せた鮮烈な5馬身差も、フローラSで示した重賞級の資質も、決して偶然ではない。ラベルセーヌが見せた輝きの一片は、まだ序章にすぎなかったのかもしれない。

今回は、経験豊富な古馬との初対戦も待っている。キャリア2戦で挑むラベルセーヌにとって、決して容易な舞台ではないが、ここを乗り越え、夏を越えれば、さらに強くなれる。その先には秋華賞トライアル、そして秋の大舞台が待っている。

ラベルセーヌの秋への挑戦は、まだ始まったばかりだ。

6月21日——。

再びラベルセーヌの伸びやかなストライドが府中の直線を駆け抜けるとき、新たな章の幕が静かに上がる。

Photo by I.Natsume

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