![[今週の注目]ドンインザムードよ、風を巻き起こし「夏の上り馬」となれ!~東海S~](https://uma-furi.com/wp-content/uploads/2026/07/0O9A4481-scaled.jpg)
「夏の上り馬」と聞けば、まず思い浮かぶのは、3歳クラシックの最終戦へ向けて力を蓄え、夏を境に一気に存在感を増してきた馬たちの姿である。ローカル開催で勝ち星を重ね、秋のトライアルを経て菊花賞へ挑む。春のクラシックで名を馳せた強豪たちを相手に堂々と競り勝ち、栄冠をつかむ——そのドラマは、いつの時代も胸を熱くさせる。
遥か昔を振り返れば、「夏の上り馬」は今よりずっと多かった印象がある。というのも、当時の4歳牡馬(現3歳牡馬)にとって、秋のローテーションの頂点は菊花賞にほぼ一本化されていたからだ。ゆえに「元祖・夏の上り馬」アカネテンリュウをはじめ、TTG時代の一角グリーングラス、メジロマックイーン、マヤノトップガンなど、夏を契機に勢いを増し、そのまま菊花賞を制した名馬たちが次々と現れた。
近年は秋のローテーションにおける選択肢が広がったとはいえ、フィエールマン、ドゥレッツァ、エネルジコなど、やはり夏を境に頭角を現し、菊花賞で頂点に立った馬は少なくない。そして興味深いことに、「夏の上り馬」たちは古馬になってからも息長く活躍する傾向がある。だからこそ、私たちの記憶の中で「夏の上り馬」という言葉が、特別な輝きを帯び続けているのかもしれない。
もっと言えば、「夏の上り馬」という呼び名は、本来3歳馬だけに限られたものではない。クラシックの頃にはまだ完成途上だった馬が、古馬になってから春先に頭角を現し、夏を迎える頃に一気に開花するという、そんな成長曲線を描く馬たちも少なくない。秋の古馬GⅠ戦線へ向けて存在感を増していく「古馬版・夏の上り馬」を見届けるのも、競馬ファンにとっては大きな楽しみのひとつだ。
そして今週のダート重賞・東海S(GⅢ)には、まさにその「夏の上り馬」候補と言える一頭が姿を見せる。春の府中開催でリステッド競走とオープン特別を連勝し、勢いそのままに重賞へ挑むドンインザムードだ。
このまま夏を境にさらに力をつけ、秋冬のダートGⅠ戦線を席巻する存在へと育っていくのか。ひいては来春、海外へ挑むほどの逸材へと化ける可能性すら秘めている。そんな期待を抱かせる馬が、灼熱の中京競馬場に登場する。

ドンインザムードの3歳時は、決して無名の存在だったわけではない。デビュー当初から素質の片鱗は随所に見せていたものの、完成にはもう一段階の熟成が必要なタイプだった。3歳1月に2勝目を挙げると、ヒヤシンスSを3着の後、ドバイに渡る。UAEダービーにチャレンジしたドンインザムードは、5番人気(9頭立て)ながら3着に健闘。帰国後は、夏の新潟の3歳ダート重賞レパードSに出走し、大雨で不良馬場の中、好位追走から直線で抜け出し優勝、初の重賞タイトルを得る。砂を力強く掻き込みながら長く脚を使うスタイルは、ドンインザムードの素質の片鱗を見せるレースとなった。

しかし、期待を背負って挑んだ3歳秋ジャパンダートクラシック(JpnⅠ)では、まさかの大敗を喫する。ナチュラルライズと共に、二番手でナルカミを追うが直線で失速し11着。期待が大きかっただけに、陣営にとっても大きな落胆だったが、同時にこの馬の成長にとって重要な転機となった。強い相手と戦った敗戦を境に、レースでの集中力、気持ちの強さが一段階引き上がったのかもしれない。
ジャパンダートクラッシック敗戦後、その変化は結果として表れ始める。荻野極騎手と新しくコンビを組み、それまでの好位から抜け出すスタイルから、中団以降から直線で末脚を繰り出すレーススタイルに変わった。3歳暮れのコールドムーンS、4歳になって2月のバレンタインSを共に2着。休養を挟み再登場となった、春の府中開催のオアシスS(L)はテイオーパスワードとデットヒートを繰り広げての優勝、続く欅S(OP)では7馬身差をつけて連勝。直線の長い東京で、淀みなく加速し続ける姿は、もはやオープン特別の枠に収まる馬ではなかった。「本格化」という言葉が、ようやくこの馬の輪郭にしっくりと馴染み始めていた。何より荻野極騎手との相性がぴったり嵌っていた。

そして迎える東海S(GⅢ)。
ここは、大事な重賞挑戦となる。夏を待たずに本格化の兆しを見せた今だからこそ、この一戦は「夏の上り馬」の域を超え、2026年秋のダート界を席巻する存在にさえなりうる可能性がある。中京の坂を力強く駆け上がり、東海Sを制覇すれば、視界は一気に開ける。最大目標となるであろうチャンピオンズC——その後に続くダートGⅠ戦線が、現実味を帯びて眼前に広がる。
「夏の上り馬」という言葉は、季節を契機に勢いを増す馬を指すが、ドンインザムードの場合は少し趣が異なるかもしれない。夏を待たずに上昇気流へ乗り始めた「早めの上り馬」は、荻野極騎手とともに、秋の主役へ向けて存在感を増していく可能性を秘めている。この東海Sをステップに、是非とも頂点まで上り詰めて欲しい。
今週の東海地区は酷暑日を記録する猛暑の毎日になっている。灼熱の中京競馬場に、砂の新星たちが姿を見せる東海S。出走メンバーも骨っぽいメンバーが揃った。暮れのコールドムーンSで接戦を繰り広げたダノンフィーゴ、未勝利勝ちから4連勝中のドラゴンテイラー、昨年の東海Sで2着のインユアパレスなど、秋への飛躍を狙うライバルたちが集結する。
そんな中で、「夏の上り馬」の名にふさわしい存在として、ドンインザムードにがんばってもらいたい。彼が東海Sで巻き起こした夏の風は、きっと秋のダートGⅠ戦線まで届くはずだ。
今、その期待を胸に、東海Sのゲートが開く。
Photo by I.Natsume
