[重賞回顧]新時代の到来を予感させる2歳女王が誕生~2021年・阪神ジュベナイルフィリーズ~

2歳女王を決める、阪神ジュベナイルフィリーズ。

近年の勝ち馬では、ソダシやラッキーライラックが、翌年以降もGI勝利を積み重ねてスターとなり、2着に敗れたリスグラシューやクロノジェネシスは、後に牡馬を負かしてグランプリを連覇している。
「強い牝馬」を象徴する、男勝りの強豪が続々と誕生している。

2021年も、無敗馬が複数エントリーしていたものの、印象としては、例年に比べるとやや小粒なメンバー。最終的に5頭が単勝10倍を切る混戦で、1番人気に推されたのはナミュールだった。

デビューから2連勝で、前走は赤松賞を勝利。このレースは過去に、スティンガーや、アパパネとアカイトリノムスメの母仔など、後の名牝が勝利してきた出世レースで、ナミュールの勝ち時計はレース史上最速。ハービンジャーの産駒には牝馬の活躍馬も多く、母の父ダイワメジャーも、産駒から2頭の阪神ジュベナイルフィリーズ勝ち馬を輩出。無敗での2歳女王戴冠が期待されていた。

2番人気はステルナティーア。こちらは、全兄にマイルチャンピオンシップを制したステルヴィオがいる良血。8月の新馬戦を完勝し、前走はサウジアラビアロイヤルCで2着と惜敗した。ただ、敗れた相手は、ディープインパクト産駒の大物といわれているコマンドライン。ルメール騎手との初コンビで、GI兄妹制覇が懸かっていた。

僅差の3番人気にサークルオブライフ。前走は、このレースと親和性が高いアルテミスSに出走し、7番人気の評価を覆して、重賞初制覇を達成した。父はエピファネイアで、産駒は阪神のマイル戦を得意としており、重賞連勝で2歳女王の座につくか注目を集めていた。

4番人気はウォーターナビレラ。メンバー中唯一の3勝馬で、前走はファンタジーSを勝利。父は新種牡馬のシルバーステートで、現役時は未完の大器と呼ばれながらケガに泣いた馬。天才・武豊騎手と、その弟・武幸四郎調教師とともに、父シルバーステートにGIタイトルをプレゼントできるか注目を集めていた。

そして、5番人気となったのがベルクレスタ。新馬戦は2着に敗れたものの、勝ち馬は朝日杯フューチュリティSで上位人気が予想されるセリフォス。その後、未勝利戦を勝ち、前走のアルテミスS組では、サークルオブライフと同タイムの2着。父ドゥラメンテの2年目産駒からもGI馬が誕生するか期待されていた。

レース概況

ゲートが開くと、人気のナミュールが2馬身出遅れ、場内がどよめく。一方、先手を切ったのは、トーホウアラビアン、ダークペイジ、ウォーターナビレラの3頭で、400mを通過したところで、ダークペイジが先頭に立った。

第2集団は、キミワクイーン、アネゴハダ、ラブリイユアアイズ、ナムラリコリスの4頭で、ステルナティーアはちょうど中団。その2馬身後ろをサークルオブライフが追走し、中間点を過ぎる前に、後方に控えていたベルクレスタが上昇を開始。ナミュールは、いつの間にかインコースに潜り込み、後ろから3頭目でレースを進めた。

前半800mは46秒4の平均ペースで、先頭から最後方までは15馬身以内の差。やや縦長の隊列とはいえ、前2頭が、後ろ16頭を引き離す展開だった。

4コーナーでも、依然としてダークペイジのリードは2馬身。2番手のトーホウアラビアンと、3番手のウォーターナビレラの差も3馬身開いたまま、レースは直線勝負を迎えた。

直線に入ると、アネゴハダとベルクレスタが外から一気に抜け出しを図り先頭に立つも、ウォーターナビレラがすぐに盛り返し、坂下で先頭を奪い返した。追ってきたのは、内のラブリイユアアイズと、外から末脚を伸ばすサークルオブライフ。さらに、最内に進路を取ったナミュールもそこに加わり、残り100mでこの4頭が勝負圏内に。

そして、その中から抜け出したのは、外に進路を取ったサークルオブライフ。残り50mで先頭に立つと、体半分リードして1着でゴールイン。しぶとく脚を使ったラブリイユアアイズが2着に入り、同じく半馬身差の3着にウォーターナビレラが続いた。

良馬場の勝ちタイムは1分33秒8。サークルオブライフが、3連勝で2歳女王の座についた。

各馬短評

1着 サークルオブライフ

未勝利戦からの3連勝、重賞は2連勝で2歳女王の座に就いた。名門・千代田牧場と国枝厩舎のタッグでは、ダノンプラチナが2014年の朝日杯フューチュリティSを勝利して以来、7年ぶりのGI制覇。

その国枝厩舎は、大黒柱のアーモンドアイが2020年で現役を引退したものの、2021年も2頭のGI馬が誕生。特に、牝馬の関西遠征にめっぽう強く、秋華賞に至っては、4年連続で連対馬を送り出している。

父エピファネイアは、3世代連続でGI馬を輩出。気難しさを見せる産駒が少なくない中、サークルオブライフには、まるでそういった面が見られなかった。桜花賞に直行するようであれば、引き続き好走が期待される。

2着 ラブリイユアアイズ

切れる脚はないものの、内からしぶとく末脚を伸ばし2着を確保。距離延長にも関わらず、初のマイル戦を克服した。

父のロゴタイプは2歳時、11月のベゴニア賞をレコード勝ちして一気に上昇。次走の朝日杯フューチュリティSでGI初制覇を達成すると、その後スプリングSも勝利し、コースレコードで皐月賞を制覇。3歳春までは、手がつけられないほど強かった。

母の父ヴィクトワールピサは、この世代では他に、オニャンコポンが2戦2勝で、来週のホープフルSに出走を予定。他に、野路菊Sと萩Sで2、3着に好走した、エピファネイア産駒のクラウンドマジックも、同レースに登録がある。

また、土曜日に行なわれた出世レースのエリカ賞で、敗れたものの1番人気に推されていたのはアートハウス。この馬も母の父がヴィクトワールピサで、父がスクリーンヒーローという血統。

話が逸れてしまったが、ラブリイユアアイズに関しては、今回と同様、桜花賞が持久力寄りの勝負になれば、再度の好走があってもなんら不思議ではない。

3着 ウォーターナビレラ

ある意味で最も強さを見せたのは、この馬とナミュールだった。

結果論になってしまうが、直線に入ってすぐ、外からベルクレスタとアネゴハダに一気に来られ、そこで脚を使ったのが痛かった。それでも、坂の上からもう1段ギアを上げてスパート。3着を確保した点は、非常に大きい。

父シルバーステートは、その父がディープインパクトながら、母系はヨーロッパの系統。結論づけるには早計かもしれないが、イメージとしてはディープブリランテに近く、牝馬は、マイル以下の距離で強さを発揮すると見ている。

レース総評

前半800mは46秒4、後半800mが47秒4で前傾ラップとなり、やや持久力が問われる展開。そのレースを制したのは、持久力と瞬発力を併せ持った、いかにもエピファネイア産駒の牝馬らしい、サークルオブライフだった。

ここまで唯一の敗戦は、デビュー戦の3着。ただ、そのとき敗れた相手は、この世代でトップクラスの実力を有しているとされるイクイノックス。そこでサークルオブライフに7馬身先着した同馬の評価も、さらに上がる結果となった。

一方、惜しかったのは、1番人気に推されたナミュールの出遅れ。直線でも、決して有利とは思えない最内から末脚を伸ばし、僅差の4着に盛り返した。前走もやや出遅れており、次走スタートを決める保証はないものの、これが改善されれば、クラシックでトップを張る可能性は十分にある。

2番人気のステルナティーアは7着。これまでの2戦が超スローからの瞬発力勝負で、今回のような、よどみない流れに対応できなかった。2年前の当レースで、1番人気に推されたリアアメリアも同じパターンで凡走。来年以降も、このパターンで出走してきた上位人気馬には注意が必要となる。また、遠征のせいか、それとも体調が整わなかったのか。前走から馬体重を10kg減らした点も、少なからず影響したのではないだろうか。

過去5年、勝ち馬と2着馬をそれぞれ4頭ずつ送り出しているノーザンファームの生産馬は、ナミュールの4着が最高。また、上位入線を果たした4頭のうち3頭は、父がサンデーサイレンス直系の種牡馬ではなかった。

2020年に牝馬三冠を達成したデアリングタクトも、父がエピファネイア。ディープインパクトとキングカメハメハが相次いでこの世を去り、ハーツクライも種牡馬を引退した今。特に牝馬の2歳~クラシック戦線に関しては、徐々に血統のトレンドが変わりはじめ、新たな時代へ突入しつつあるのかもしれない。

写真:RINOT

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