2022年、JRAで最初に行なわれるGIフェブラリーS。秋以降に国内外のGIを制したテーオーケインズやマルシュロレーヌ。そしてチュウワウィザードなどは、海外遠征のため出走しなかったものの、GI馬が10頭集結。ダートのマイル王を決めるに相応しいメンバーが顔を揃えた。
実力伯仲で、6頭が単勝10倍を切る大混戦。その中で、レッドルゼルが1番人気に推された。
確実に伸びる末脚を武器にここまで安定した成績を残し、2021年の根岸Sで重賞初制覇。フェブラリーS4着をはさみ、ドバイGSでも2着に好走した。その後、秋にはJBCスプリントで念願のGI初制覇。今回は、短距離と中距離のGI二階級制覇が懸かっていた。
一方、2番人気に推されたのは前年の覇者カフェファラオ。ここまで10戦5勝で2、3着はなしという極端な成績ながら、この舞台では3戦全勝と無類の強さを発揮している。前年の当レースから勝利は遠ざかっているものの、コパノリッキー以来となる、史上2頭目の連覇が期待された。
3番人気に続いたのがアルクトス。2年連続9着と、フェブラリーSでは結果が出ていないものの、同じ距離の南部杯を連覇し、ダート1600mの日本レコードを保持しているのはこの馬。悲願のJRAGI制覇なるか、注目が集まっていた。
そして、4番人気に推されたのがソダシ。桜花賞馬の参戦は、フェブラリーSがGIに昇格後3頭目となる。初のダート戦となったチャンピオンズCは12着に敗れたものの、決してこなせないような走りには見えず、芝スタートで変わり身があるか。そして、史上6頭目のJRA芝・ダートGI制覇なるか。大きな期待が懸かっていた。
以下、前哨戦の根岸Sを快勝したテイエムサウスダン。その根岸Sは敗れたものの、今回と同じ舞台の武蔵野Sを制したソリストサンダーが人気順で続いた。
レース概況
ゲートが開くと、テイエムサウスダンが好発を決め、それ以外の15頭もきれいなスタート。
芝とダートの境目でサンライズホープが先頭に立ち、ソダシとダイワキャグニーが続こうとするところ、スタート後、一旦引いていたテイエムサウスダンが今度はハナを奪う。その後ろに、カフェファラオとアルクトスが続き、ソリストサンダーとレッドルゼルが中団前を並走した。
前半600m通過は34秒5で、800m通過が46秒8の平均ペース。上位人気6頭は、すべて中団より前に位置するも、先頭から最後方までは、およそ8馬身差の一団。その後も隊列に大きな変化はなく、テイエムサウスダンが終始後続に1馬身半のリードを取り、4コーナーを回った。
直線に入ってもそのリードは変わらず、快調に逃げ脚を伸ばすテイエムサウスダン。ソダシとカフェファラオがそれを追い、坂の途中でカフェファラオが単独2番手に。さらに、残り200mでテイエムサウスダンをかわし、先頭に踊り出る。
そこからカフェファラオはリードを広げ、粘るテイエムサウスダンにソダシとソリストサンダーが襲いかかるも、先頭との差を詰めるまでには至らず。
結局、カフェファラオが後続に2馬身半差をつけ1着でゴールイン。テイエムサウスダンが粘って2着を確保し、半馬身差の3着にソダシが入った。
重馬場の勝ちタイムは、コースレコードタイの1分33秒8。カフェファラオが、前年を再現したようなレース運びで完勝し、史上2頭目の連覇を達成した。
各馬短評
1着 カフェファラオ
「ホームグラウンド」の東京マイルで完勝。これで、当コースは4戦4勝となった。
光ったのは福永騎手の好騎乗で、レースでは初騎乗ながらも、最終追い切りに騎乗。しっかりと馬の特性を掴み、陣営と綿密に作戦を立てていた。砂を被るのを嫌がるため、内枠でも前年と同様に五分のスタートを切り、3番手の外目につけられた時点で、ほぼ勝負は決したのかもしれない。
今後の課題は、やはり他の競馬場でも結果を残せるかということだろうか。ただ、父のアメリカンファラオは米国のクラシック三冠馬ながら、芝の重賞勝ち馬を複数輩出。同産駒で、2022年から日本で供用が開始される種牡馬フォーウィールドライブとヴァンゴッホも、現役時に芝の重賞を勝利。1月30日に節分Sを勝ち、オープン入りを果たしたリフレイムも、全4勝を芝のレースで挙げている。
また、3代父エンパイアメーカーの産駒も、やはり当コースを得意とした一方で、フェデラリストやエテルナミノルといった芝の重賞勝ち馬を輩出。この系統が、芝スタートの当コースに高い適性があるのは間違いなさそう。
2着 テイエムサウスダン
こちらは、2021年までNARの種牡馬リーディングを7年連続で獲得しているサウスヴィグラスの産駒。ただ、芝スタートとなる当コースでは、エンパイアメーカー系の産駒とは対照的に、好走実績がさほどなかった。
しかし、この日のテイエムサウスダンは好発を切ると積極的なレースを展開。芝スタートと、一見長いと思われる1600mを克服し2着を確保した。
岩田康誠騎手が完全に手の内に入れ、馬が本格化した今なら、全国どの競馬場でも好走しそう。特に、JBCスプリントに出走した際は大注目の存在。
3着 ソダシ
初ダートの武蔵野Sを、衝撃的なレースで圧勝した父クロフネ。しかし、サウスヴィグラス産駒と同様、クロフネの産駒も、このコースであまり実績を残せていない。
しかし、芝スタートが良かったのか。それとも、桜花賞と同じワンターンの競馬が合ったのか。産駒実績を覆して3着に好走。ダート路線でもメドを立てた。
今回のメンバーで、結果と今後の路線が最も注目されていたのは、おそらくこの馬。次はどこに出走するのだろうか。また一つ、楽しみが増えた。
レース総評
前半800m通過が46秒8。同後半が47秒0とほぼイーブン。平均ペース、そして一団で進んだものの、タイムの出やすいこの日の馬場では、やはり前有利の展開となった。
この展開を道中10番手から追込み、5着となったタイムフライヤーは、次走距離延長で出走した際は注目。
一方、1番人気で6着に敗れたレッドルゼルは、休み明けと距離が影響したのだろうか。直線入口で前が詰まる場面はあったものの、開いてからも、いつもの鋭い末脚を使えなかった。
また、3番人気のアルクトスは540kgを超える大型馬だけに、ワンターンのマイル戦では外枠が良さそう。それを証明するように、7、8枠を引いた南部杯は連覇し、1、3、2枠を引いたフェブラリーSは、掲示板に載ることができていない。
これは、他の馬にもいえることで、2012年から2021年までの10年間、540kg以上で当レースに出走した馬は9頭。そのうち8頭が一桁馬番、枠でいえば1枠から5枠を引き、すべて着外に敗戦。
逆に、2014年。540kgで出走したベルシャザールは、6枠11番からスタートして3着。そして、今回546kgで8枠15番からスタートしたテイエムサウスダンも2着に好走した。
中央競馬で、芝スタートのダートコースは複数あるものの、ダート1600mが行なわれるのは東京競馬場のみ。とはいえ、年間で最多、3つの重賞レースが行なわれるのもこのコース。おそらく世界的に見ても独特なコースで、その特性を把握した上で、出走各馬にコース適性があるのか。そのあたりの見極めがいかに重要かを、改めて思い知らされるレースでもあった。
写真:shin 1