夏の古馬ダートグランプリとして、大井競馬場2000m戦でチャンピオンを決める帝王賞。今年は梅雨明けが発表され、6月としては異例の最高気温が35度を超える地域もあり、文字通り熱闘となりました。
9頭立て、少数精鋭でのレースでしたが、豪華な顔ぶれが揃います。
1.スワーヴアラミス 松田大作騎手とのコンビでエルムステークス、東海ステークスを制覇
2.オメガパフューム 大井競馬場の申し子で東京大賞典4連覇、帝王賞は2019年に勝利経験あり
3.ノンコノユメ 10歳になった今シーズンも大井記念で36秒台の末脚、2018年フェブラリーステークス勝利
4.ネオブレイブ オープンクラスは未勝利だが、今野騎手と大穴を狙う
5.オーヴェルニュ 2021年の東海ステークスと平安ステークスを勝利、中京と雨に強い
6.チュウワウィザード 今年のドバイワールドカップ3着、日本では川崎記念連覇、チャンピオンズカップ勝利
7.クリンチャー 芝で京都記念、ダートで2020年みやこステークスと交流重賞を3勝、パワー勝負に強い
8.テーオーケインズ 昨年の帝王賞とチャンピオンズカップを勝利、今年は連覇を狙う
9.メイショウハリオ 2021年みやこステークスと今年のマーチステークスを鋭い末脚で差し切り
オープン未勝利のネオブレイブを除く8頭が重賞で複数の勝ち星を持つ、ハイレベルなメンバー。
地方大将格のミューチャリーやカジノフォンテンが参戦しなかったのは残念ですが、古豪ノンコノユメが大井記念2着から5度目の帝王賞参戦で中央所属の馬たちに立ち向かいます。
レース概況
オメガパフュームが1歩目で後手を踏みますが、そのほかの馬たちに大きな出遅れは無く、オーヴェルニュがハナを狙うと、森泰斗騎手がスタートから押してクリンチャーを2番手に誘導します。
その後ろでテーオーケインズは3番手、チュウワウィザードは川田騎手が前の馬たちの隙間を縫ってインに入れて4番手、メイショウハリオは大外枠から真ん中の5番手、その後方に末脚勝負のノンコノユメ、スワーヴアラミス、オメガパフュームが続きネオブレイブが殿で1コーナーに。
向こう正面、少し頭を上げながらもペースを刻むオーヴェルニュを、2番手でクリンチャーとテーオーケインズが追いかけ、その後ろをメイショウハリオが追いかける展開。しかし、その外から一気にスワーヴアラミスが仕掛けて先頭まで上がってきます。ここで先行していたオーヴェルニュ、クリンチャー、テーオーケインズは仕掛けられた持久力勝負に挑むことになり、メイショウハリオはついていかずに追い上げるタイミングを待ちます。
その1馬身後方ではチュウワウィザードが引き続き最短経路のインコースを進み、その後ろにノンコノユメ、オメガパフュームも3コーナー入り口あたりから前を追いかけてスパートを開始。
逃げていたオーヴェルニュがコーナー出口で捕まり、外を捲ってきたスワーヴアラミスもコーナーで脚を使い切ってしまい、テーオーケインズが先頭に立とうとしますが、スタミナ自慢のクリンチャーが食い下がります。
このタイミングを狙ったかのように最内からチュウワウィザードが抜け出し、テーオーケインズの外からメイショウハリオとオメガパフュームが末脚を伸ばし、3頭の直線勝負に様相が一変。
残り100mでメイショウハリオが頭一つチュウワウィザードより前に出るとその差を保ったままゴールに飛び込み、初のJpn1制覇を達成します。チュウワウィザードは最小限のロスで上りも最速の36.6秒を繰り出しましたが2着、オメガパフュームは大外を回したロスがあったか3着まででした。
3頭の後方は4馬身の差がつき、クリンチャーとの最後のスタミナ勝負をクビ差凌いだテーオーケインズが4着、クリンチャーが5着、大外から突っ込んできたノンコノユメは全体4位の37.4秒の末脚を使うもハナ差で6着でした。
各馬短評
1着 メイショウハリオ
大井競馬も、地方のG1級レースも初参戦でしたが、浜中騎手の好判断で最後の末脚勝負を選択、見事に帝王賞のタイトルを獲得しました。
ハリオの由来は世界一速い「ハリオアマツバメ」という夏の渡り鳥。名は体を表すとは言いますが、メイショウハリオの武器は「レースで常に上位の切れる末脚」ですから、自らの武器を最大限活かしたレースでした。
一瞬の末脚で勝負するタイプの馬なので、展開に左右されることもありますが、前のペースが上がれば確実に先行各馬を狙い撃ち出来る脚があります。
これからは更なる強豪たちとの戦いが待ち受けますが、今回のように先に仕掛けた馬たちを差し返す「燕返し」の競馬を見せてくれるでしょうか。
2着 チュウワウィザード
川田騎手との盤石なレース運びで大崩れの無いレースを続けるチュウワウィザード。
海を渡ってもドバイワールドカップで昨年2着、今年3着と日本代表として大健闘の結果を残しています。オメガパフュームとの一騎打ちを制して2019年の浦和JBCクラシックを制覇、その後川崎記念連覇、チャンピオンズカップ制覇と左回りのレースの方が良績があり、帝王賞は未勝利でした。
今年はスタート直後に川田騎手が最内にエスコートし、少しでも距離ロスをなくして末脚を残し、直線で抜け出す勝負を選択しましたが、抜け出すタイミングの僅かな差で敗れてしまいました。
過去の挑戦で最も惜しい敗戦でしたから、決して実力が衰えているようなことはなく、敗因はメイショウハリオとの位置取りの差と見て良いでしょう。今年のJBCクラシックは左回りの盛岡競馬場ですから、今度はチュウワウィザードに分があるレースになるはずです。
3着 オメガパフューム
前人未到の東京大賞典4連覇、帝王賞も1度勝利とJRA所属の馬ながら大井競馬場の2000m戦を最も得意とするオメガパフューム。
大井競馬場2000mでの成績は今日の帝王賞を含めても(5-3-1-1)、10戦中8連対の好成績です。
昨年末に一度引退が発表されましたが、今シーズンも大井の帝王賞、東京大賞典制覇を目指して現役を続行。
前哨戦のアンタレスステークスでは59キロのトップハンデを背負いながらも、上り36.3秒の末脚で完勝して大舞台に戻ってきました。
今回は前でやりあった馬たちを外から交わさなければならず、中団待機のメイショウハリオ、インベタでロスが無かったチュウワウィザードに比べれば分が悪いレースをした中での3着は、やはり実力健在と言ってよいでしょう。上りもチュウワウィザードに次ぐ2位の36.9秒で上がっています。
秋のダートG1戦線での巻き返し、そして唯一の挑戦権がある東京大賞典5連覇へ、挑戦は続きます。
4着 テーオーケインズ
昨年の帝王賞を勝ってG1級競走を初勝利すると、秋はチャンピオンズカップを圧勝。4歳シーズンでベテランたちに挑んでの結果だけに、若きエースの台頭と注目されていました。
しかし、今回は先行策からの抜け出しを狙ったところでスワーヴアラミスに仕掛けられてしまい、最後の脚を削がれる結果に終わりました。スタミナ自慢のクリンチャーをクビ差、後方から突っ込んできたノンコノユメをクビ+ハナ差凌いだのはG1馬の意地と言えるでしょう。
古豪たちに比べるとやや安定感に欠けるレースもありますが、勝つときはとことん強い馬なので、再度の逆転に期待しましょう。同世代のメイショウハリオが勝ったことも陣営の刺激になるでしょう。
レース総評
このレースの明暗を分けたのは6ハロン目で刻まれた「11.4秒」スワーヴアラミスの捲りでしょう。
早めに仕掛けて前の馬たちのスタミナを削ぎつつ自らの粘り込みを狙うこの馬の戦法に、逃げたオーヴェルニュ、先行策のクリンチャーらは付き合ってスパート合戦になり、その真後ろにいたメイショウハリオ、インに潜っていたチュウワウィザードは直線まで仕掛けを待っての勝負でした。
オメガパフュームは追い込んで外を回さざるを得ず、ノンコノユメも後方から差し切りを狙いましたが位置取りの分4着争いまででした。
昨年4歳シーズンで若きチャンピオンになったテーオーケインズと同世代のメイショウハリオが勝ったことで、ダート界の古豪に挑む馬がまた1頭増え、今回は参戦を見送った地方の強豪たちとの対決にも注目が集まるでしょう。
新たな風を吹き込んだメイショウハリオ、浜中俊騎手、そしてG1級競走初制覇の岡田稲男調教師、帝王賞制覇おめでとうございます!
写真:かぼす