2020年の新種牡馬・モーリスとドゥラメンテ。
産駒のデビューから6週たって、ドゥラメンテ産駒が3勝、モーリス産駒が1勝という成績だ。
ドゥラメンテ産駒は21戦、モーリス産駒は25戦しての勝利数ということで、ファンからは早くも不安説が囁かれる。
果たしてモーリス・ドゥラメンテは種牡馬として苦戦するのか?
それともここから盛り返し、名種牡馬としての階段を駆け上がっていくのか?
今回は2頭の新種牡馬の可能性について、改めて検討していく。
語り手は、ベストセラー「馬体は語る」の著者・治郎丸敬之さんと、「天才のPOG青本」執筆陣の1人である緒方きしん。
勝ち星でまさるドゥラメンテ。真打登場は秋以降!?
緒方:ドゥラメンテ産駒が週末に2勝。さらにはモーリス産駒が待望の初勝利をあげてくれました。それぞれのファンは一先ず安心といったところでしょうか。ただ、ドゥラメンテ・モーリスという今年の新種牡馬「2強」がスタートダッシュに失敗した、というのが世間の評価かもしれません。
治郎丸:世間はそんな評価かぁ。勝ったら勝ったで話題になるし、負けたら負けたで話題になる。今年の新種牡馬の注目度に驚いてるよ。
緒方:昨年のキズナ・エピファネイアはここまで話題の中心ではなかったですよね。ディープとキンカメを失ったということが大きいのかもしれません。意識的にか無意識的にか、新たなる大種牡馬の誕生を心待ちにしているのでしょう。
治郎丸:その期待に応えられるかには注目したいところ。あ、そうだ、ドゥラモンドの新馬勝ちおめでとう! 以前の対談で、緒方君が評判馬として紹介していた馬だよね。その対談でも話したけど、ドゥラモンドはパンフレットで見た時に強く心惹かれるものがなかったんだよなぁ。
緒方:新馬戦からしっかり仕上がっていましたね。最後2着馬に迫られたのも、高橋さんの新馬戦回顧では「しっかりと勝ち切れる事が分かっているうえでの着差ですし、全く問題は無いでしょう」と、問題視されていませんでした。休養を挟んでからのレースぶりも楽しみです。
治郎丸:いまデビュー出来るということは、ドゥラメンテ産駒の中でも仕上がりが早いということなんだろうね。それが良いことなのか悪いことなのかはわからないけど。ただ、セレクトセール直前だったし、タイミング的にも「出せる馬は出そう」という判断で送り出されて、そのデビュー戦でしっかり勝ちきったんだろうし、そういう意味では大した馬だと思う。
緒方:都市伝説的な感じで広まっていますが「セレクトセール前にちゃんと仕上げて勝たせようとする」というのはほぼ事実だと思います。ドゥラモンドはそうした期待にも応えましたね。
治郎丸:ただ、ドゥラメンテ産駒の真打ちが登場するのはここから先だと思う。トニービン〜エアグルーヴの血が入っていることで、本格化には時間を要するはずだからね。今の感じを見る限り、デビューを焦らずにゆったり成長させた馬たちがデビューしたら、相当強いだろうな……。サンデーサイレンスは新種牡馬のときに「2歳の春夏デビューでもしっかり勝てる馬がいるぞ!」と思わせつつ、後からデビューした馬たちが結局は強かった。今回もそのパターンになるかもしれない。
緒方:なるほど。でも、サンデー産駒がデビューした頃とは時代が違いますし、素質馬のデビュータイミングも変わってきています。ドゥラモンドは、最近の流行りのローテにうまく乗れていると思いますよ! もちろん、治郎丸さんの言う「真打ち」の登場が控えているなら、ドゥラメンテのファンとしては楽しみです!
モーリス産駒は必ず良くなってくる!今はまだ、その時期を待つしかない。
緒方:モーリス産駒カイザーノヴァが強い競馬でデビュー勝ちを果たしました。新馬戦が始まって6週間。今週こそ、今週こそ、と思い続けていたモーリスファンにとっては「ようやく1勝」といったところでしょう。ただ、個人的にはここ数週間のモーリス産駒の走りを見て、むしろ評価を上方修正しました。勝ちきれないとはいえ、ちゃんと能力の一端が見え隠れする走りです。ブエナベントゥーラをはじめ、決して悲観するような内容ではないかと。
治郎丸:うん、たしかにブエナベントゥーラは勝ち上がれそうかな。緒方君は対談の時、若干モーリス産駒に懐疑的な雰囲気だったよね。
緒方:そうですか!? たしかに、好きなだけに不安……期待しているだけに不安……という感じがそうした懐疑的な雰囲気につながっていたのかもしれません(笑) 自分の中で1番不安だったのは、2歳になった産駒たちを見る前です。POGが近づいて馬体を見たらしっかり母系を引き出しているようなので、これは良い種牡馬になれるかもと思いました。ただ一方で、筋肉モリモリな産駒が多いのが不安だったんですよね。「この筋肉は競馬で強いことに結びつくタイプの筋肉なのか……?」と。でも今は、その筋肉も質の悪い感じではなさそうかなと感じ始めています。ただそれだけに、ここまで連敗を喫したのは残念でした。さて、どうしてここまで勝ちきれなかったんでしょうか。
治郎丸:気性だろうねぇ。前回の対談では馬体のゆるさを指摘したけど、レースを見ているとそれ以上に、気性的な「のんびり屋さん」が多い印象を受けた。モーリスは引退式をパドックでやっていたくらいに穏やかな気性の持ち主。グラスワンダーから受け継ぐ、まさに「ほのぼの家系」と言って良いと思うんだよね。その性格ゆえに、最後の最後で勝ちきれない事があるんじゃないかな。
緒方:気性ですか。ヤンチャという印象がないのでそれほど問題視していませんでしたが、素直というよりは、のんびり屋さんということですね。気性は闘争心にも繋がる大事な要素ですから、気になるところです。
治郎丸:気持ちの面で競走に向けたスイッチが入るかどうか、というのは重要。「なぜ走るか?」「レースではどうすれば良いのか?」がわかるようになるまでは辛抱の時。今苦戦しているモーリス産駒たちは、多分レースそのものがわかっていない、言うなれば「幼稚園の運動会」状態で負けているんだろうな。
緒方:並んだら抜かされたくないとか、そういう感覚を持てるかどうかは重要ですね。
治郎丸:僕は幼稚園の運動会で、かけっこの時にスタートの合図があっても走り出さなかったらしい。そこまでとはいかないにせよ、似たような状態かもしれない(笑) 単純に肉体的に劣っているかというと、そういうわけではないと思う。モーリスがそうだったように、徐々に精神的にも成長して強くなっていくはず。年齢を重ねるごとに前向きになっていくタイプだろうし、焦らないでほしいな。馬体は出来ていて、動かそうとしたら動くから「じゃあデビューさせようか」となるんだろうけど。
緒方:2歳の頃には前向きな気性でレースを勝っていながらも、3歳・古馬になるにつれて制御不能になっていく血統もありますからね。一長一短だと思います。馬体が仕上がっていても気性面とじっくり向き合って使い方を考えてくれる陣営に恵まれるか、母系から前向きな気性を受け継ぐか……というのが、当面のモーリス産駒の課題になりそうです。
治郎丸:他の馬よりも一歩でも前に、という気持ちが出てくるようになれば、かなり楽しみだよね! ただ、勝ち上がり馬が少ない理由を全てそこに持っていくのは、相当モーリスに優しい解釈をしているとは思う(笑)
緒方:なるほど……(苦笑)
先に重賞を勝つのは果たして!?
治郎丸:今年はじめてPOGを真面目にやったんだけど、やっぱり一口馬主で馬を持つのとは違うね! POGは直前まで選べるし、ダービーまでという超短期決戦。いかに早くデビューしてもらって活躍してもらうかの勝負になる。スタートダッシュが決められる馬を選ばないといけないし、リスク回避のために、デビューが見えてて調教が良さそうな馬を選びがちになるね。
緒方:まぁ、POGも楽しみ方は人それぞれですが、POG巧者と負けられない戦いを繰り広げるなら、指名日直前の調教を見て決めるのがベターでしょうね。昔だと秋口デビューの馬を指名しないと途中からは勝負にならなかったんですが、最近はそんなこともなくなりました。調教判断の出来る人がPOGでも強い時代です(笑)
治郎丸:あと、POGと一口では向いている種牡馬も違うように思う。モーリス・ドゥラメンテはPOGよりも一口競馬向けの種牡馬だろうね。だからこそ、POG視点で失敗種牡馬として扱うのは可哀想。もっと長い目で見てやってほしいな。そういう意味では2頭ともまずまずのスタートを切れていると思う。
緒方:ただ、仕上がりの早さやダービーを狙えるかどうかというのは、そのまま売値や種付け数にも影響が出る要素ですからね。将来を見据えると、POG期間でもある程度実績を残して欲しいところです。ちなみに、先に重賞を勝つのはどちらの種牡馬だと思いますか?
治郎丸:ドゥラメンテだろうね。馬産地やノーザン・社台グループの評価としてはドゥラメンテの方が高そうだし、既に3頭勝ち上がってるしね。2歳重賞をパッと勝ちそうな雰囲気はある。
緒方:私はモーリスを推そうと思います。別に治郎丸さんの逆張りをしたいわけではないですよ!(笑) 気性が敗因なら、カチッと噛み合った子が1頭でも出てきたらすぐにでも勝てそうな気がするんですよね。肉体面のポテンシャル的には、重賞に手が届くはずなので。適性距離が産駒によって幅がありそうなのも魅力で、短めのところでササっと獲っちゃうかもしれません。
治郎丸:どちらにせよ、2頭とも結構頑張っているという結論で良さそうだね。長い目で応援していこう!