
私は、ウイニングポストという馬主を体験できるゲームが好きだった。
スプリンター、ダート馬、長距離馬……どの馬も個性があって可愛いのは当然のこと。その前提の上でもやはり、クラシックに挑戦することはとても楽しいものだった。
そして私はそのゲームで、皐月賞トライアルである弥生賞には、その世代で最も期待する馬を出走させていた。
良血で、騎手も有名で、いわゆる優等生。
──では、実際の弥生賞もそんな馬ばかりが揃っているか。
今回は、皆さんと一緒にコスモオオゾラについて時間を共有したいと思う。

コスモオオゾラは、父ロージズインメイ、母マイネシャローナ、母父コマンダーインチーフという血統で、マイネルやコスモの冠で知られるビッグレッドファームで育てられた。
当時はまだ、ロージズインメイの仔で重賞勝ち馬は現れていない頃だ。そのせいもあってか、新馬戦では出走馬13頭中13番人気だった。しかし、鞍上の中谷騎手は、コスモオオゾラのことを、「教えたことはなんでもでき、頭がよく、余計なことをしない馬」だと評価する。実際、コスモオオゾラは人気を跳ね返すように4着と奮闘した。
そしてこのレースで1着となったアルフレードの鞍上、松岡騎手は、中谷騎手にこう言ったという。
「その馬、走るから手放さないように」。
コスモオオゾラと中谷騎手は、3戦目で未勝利戦(2番人気)を勝ちあがる。続く葉牡丹賞(6番人気)も直線から鋭く脚を伸ばし、連勝する。中谷騎手は、中山のターフ上でガッツポーズをした。
すでに重賞を勝つ存在であると感じていたであろう、中谷騎手。しかし次走から、中谷騎手は、主戦騎手変更となり、これが最後の騎乗となった。
翌年、コスモオオゾラは共同通信杯5着を経て、弥生賞に駒を進める。
弥生賞の1番人気はアダムスピークだった。
ノーザンファームで生まれ、父はディープインパクトという良血馬。12月にデビューして年末のラジオニッケイ賞を制覇していた。2戦2勝で鞍上はクリストフ・ルメール騎手。まさに筆者のウイニングポストの中でよく見かけるような、絵に描いたような期待馬である。

弥生賞の当日、コスモオオゾラは9番人気であった。
葉牡丹賞で見せた脚は、世間の間でも、それほど認められていなかったということだろう。
コスモオオゾラは1番人気を背負ったことがない。引退までの16戦のうち、一度もだ。競馬という性質上、それは仕方のないことだ。戦績や血統、調教などで事前に人気が分けられる。
私だって、当たり前のように、馬に格差をつけている。

しかし競馬とは、時折自分の中に積み重ねた常識を、美しく叩き壊してくれることがある。
コスモオオゾラの枠は3枠5番。枠に恵まれた。
ロージズインメイ産駒は中山と相性が良く道悪に強い。そしてその日の天候は稍重で、馬場が荒れていた。
さらに、レースがはじまると1番人気アダムスピークは折り合いに苦労する。多数数の若き馬たちのレースはごちゃつきはじめる。
そんな中、肩書ではなく腕を認められて主戦騎手の座を掴み取った鞍上の柴田大知騎手は、前半1000メートル通過63秒1のスローペースのなか、好位の5番手を位置取った。
背景も天候も枠も展開も、すべてが追い風になり、「教えたことはなんでもでき、頭がよく、よけいなことをしない馬」は、ただただ駆け抜けた。
そうして、コスモオオゾラは弥生賞馬になった。

クラシックの足音が聞こえる、やわらかな春の季節に開催されるトライアルレース報知杯弥生賞ディープインパクト記念。
フジキセキ、スペシャルウィーク、そしてディープインパクト…そんな歴代の圧倒的名馬たちの中に新たに名を連ねたのだった。
弥生賞:単勝2910円。馬単22190円。
鞍上・柴田大知騎手にとって、14年9か月ぶりの重賞勝利。
父ロージズインメイにとって、初重賞勝利。
管理する高橋調教師にとって、平地重賞初勝利。
そんな、多くの人にすてきなプレゼントをもたらした馬がいることを、知ってほしいと思っている。
その後はケガで辛い思いをしたコスモオオゾラであるが、現在は功労馬となり、穏やかな余生を過ごしている。

写真:Horse Memorys、I.Natsume、上坂由香